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首ツリー

作者: シガーオオッサム

首吊りした結果...

いや、本当に、死のうと思っていたんです。死ぬ、というよりは、もう何も感じたくなかったんです。消えちゃいたかったんですよね。

それで、どうやって死のうか考えるわけですけど、ネットでみると、どうも、飛び降りとか、薬とか、練炭とかは未遂も多いし、回りに結構迷惑かけるらしいんですよね、だから、1番人気があるのは首吊りらしいんですよ。だから、私も、それを選びました。

それほど、都会に住んでいたわけじゃなかったので、死に場所にする森を探すのは、難しくありませんでした。ホームセンターで、ロープと折り畳みイスを買いました。用意するものはこれだけです。母は死ぬほど苦労して私を産んだのに、たったこれだけで死ねるなんて、皮肉ですね。

警察や消防の方々が、捜索に手間取ると申し訳ないと思ったので、森に入って100mくらいのところで実行することにしました。100mでも、十分に、森の中はうっそうとしていました。パキパキッという音がして、熊かなと思い鳥肌が全身に立ちましたが、それは、竹の折れる音でした。その音が、1分に1回は、どこからか、聞こえてきます。熊ではないと分かっていても、全身の血が沸騰したように熱くなりました。足元だけが、快適でした。ふかふかの落ち葉の積もりは、絨毯ではなく、布団の上を歩いているような、いや、極端に言うと雲の上を歩いているような、楽しいポップな気持ちになれました。

良い死に場所を選びました。竹の音や、熊は恐いですが、こんな自然の中で、美しく燃えるような紅葉を見ながら、どんな空気清浄機でも作り出せない美味しい空気を飲んで、(水には天然水というのがありますが、空気にも天然空気というものがあってもいいと思います)その中で死ねるんですから。外見も内面も、美しいとは言えない私でも、この森の中で深呼吸をすれば体の1番奥の方から透明になっていくようで、朝ドラ女優にでもなった気分ですよ。遠い祖先は、自然の中で暮らしていたわけですから、ヒトとして美しい死に場所というのも、当たり前かもしれませんね。よく考えてみれば。

首吊りの結び方っていうのは、以外と決まってるんですよ。ハングスマンノットって言うんですけどね。ほら、ドラマなんかで見る、あの、わっかとぐるぐる巻きのやつですよ。ハングスマンノットなら、首を入れて、落ちると重さでギュッと、わっかが、締まるんですよね。それで首を絞めちゃうわけです。首吊りっていうけど、実は、首締めなんですよ。首を吊るだけだったらほんとに苦しいでしょうね。ほら、死刑執行も、苦しくないから、絞る首の刑と書いて「絞首刑」を選ぶわけですから。意外と結び方は簡単ですよ。ネットで画像検索すればすぐ見つかりますし。やっぱ、みんな人生に疲れてらっしゃるみたいですね。自殺って本当に悪いことなんですか?ここまで順調でしたが、1つ面倒なことになっちゃいました。

森だから、もちろん木は腐るほどあるんですが、なかなかいいところで枝分かれして、なおかつ、しっかりとした太い木が見つからないんです。それでも、歩き疲れた方が死にやすくなるだろうからまあ、いっか、最後くらいいいハイキングでもしてやろう。なんて、思っていました。

使えそうな木が見つかったのは、ハイキングをはじめて30分くらいでしょうか。自分の身長よりも40cmくらい高いところに 太い枝が分かれていました。ここで、死のうと決めました。

リュックをおろして、イスとロープを取り出します。遺書に今ごろ日付と名前を書きました。こうすると、盛り上がるじゃないですか。

ロープを結ぶのは、大変でした。今まで、細いロープで結ぶ練習をしてきたので楽にできたんですけど、太いロープとなると大変ですね。ロープがなかなか曲がってくれないんです。それでもなんとかハングスマンノットを作って、うまく締まるか手首を締めてみたりして、イスを組み立てました。もう、一端は、釣りで使う結びで枝にくくりつけました。いよいよ準備完了です。

俺の人生は、人から見ればどんなんだろう。小さい頃は、幸せだった。毎日遊んでばかり。嫌なことがあっても、寝れば忘れる。黄色い光の中に包まれているようで、幸せな日々を過ごしてきた。でも、思春期に入ると、急に周りが敵に思えてきて、俺の悪口が聞こえるようになった。気分が安定しなくなって。面倒なヤツだと思われていたんだろうな、きっと。

もう、どこに行っても、何をやっても、楽しい気分でうまくやっていくことは無理なんだろう。わかった。もう、気づいた。無くなってしまえばいいんだ。楽になれ。生物ならば、快楽を求めて当たり前だ。死こそ、至上の快楽。

結び輪に首を入れます。さよなら、クソみたいな世界。上からパキパキと音がしました。困るなあ、枝が折れたら、クソォと思いながら見上げると、枝はなにもありませんでした。さっさと逝かせてくれよ。イスを蹴ろうとしたその時。葉っぱがひらひらとたくさん落ちてきました。今度はなんだ。見上げるとロープをくくりつけている枝に、1匹のサルがいました。邪魔者はここにでもいるのか。キーッと鳴かれて、思わず耳を塞ぎました。すると、どこからかサルのなかまたちが次々と枝にやってきて、10匹にもなろうとしたとき、枝が折れました。気がつくと、1匹の子ザルが、頭の上にしがみついていました。びっくりして、頭を振ると、何か水を出しながら跳んで逃げていきました。小便です。どこか、死んだ祖父に顔が似ていると思ったのは、思い違いでしょうか。ズボンのチャックのあたりが冷たいことに気がつきました。こんな格好では、死ねないなと思いました。

これは、偶然なのか...

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