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異世界に侵食される現代世界  作者: キヨ
第一章 侵食は始まった
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第16話 哨戒網突破、突入へ

 俺とコハク、そして石山警部が神社から出て暫く。僅か三人の奇襲部隊は町の西側に広がる山のふもとまで来ていた。コハクと警部の話では、この山の一角に敵の本丸と化した地下迷宮だのジオフロントだの言われる代物の入り口の一つがあるらしい。

 いよいよ敵の本丸。そう思える位置まで来たはずなのだが……


「静か、ですね」

「あぁ、どうやらゴブリンどもは戦力の大半を町の攻勢に割いたらしい。それと、ジーさんと嬢ちゃんが仕掛けた罠が効いてるんだろ」

「罠?」


 罠というと落とし穴やトラバサミの様なアレだろうか。そう俺が疑問を持つと、警部が懐から折り畳まれた一枚の紙を取り出し、それを広げて見せてくれる。無数のバツ印がついているが……これは、山の地図か?


「ふむ、どれどれ? なるほど、察するにこのバツ印が罠の位置かの? 凄まじい数じゃ。一応通り道はある様じゃが……」

「俺がジーさんに相談して、ジーさんと孫の嬢ちゃんでつい昨日仕掛け終わったやつでな。まぁ、中には法に触れないように罠とはいえないのも混じってるが……だとしても知らずに歩けばバックリ、という訳だ」

「ジーさんと孫……? あぁ、食堂でアルバイトをしてた猟師少女の。なるほど、なるほど。となると私達はこの地図の通り道を歩けますが、ゴブリン達はそうではないと」

「流石に罠だけでくたばりはしてないだろうが、行き足が止まるのは間違いないだろうからな。哨戒のゴブリンは少ないだろう」


 コハクと二人地図を借り受けて覗き込みながら、俺は合点いったと何度か頷く。これなら敵の本丸に突入するまでにこちらが疲弊する可能性は低いし、哨戒の密度によっては完全な奇襲も可能だろう。

 猟師少女とそのお爺さんに協力を得て実現した策。それが、警部の勝機の一つか。確かに全く勝ち目が無い訳ではなさそうだ。


「では、この地図を頼りに突入を?」

「そういう訳だ。……準備はいいな?」


 そう言いながら警部は懐から拳銃……それもリボルバーではなく自動拳銃――あれは映画でもよく出てくるかの有名なM1911、通称コルト・ガバメントでは? 日本の警察は持っていないはず――を取り出し、コッキング。いつでもブッ放せる準備を整える。

 見ればコハクも巫女服から護符を取り出して確認し、それをまた元に戻しており、準備は既に終わっている様子だ。俺は特に準備する物も確認する物もないので覚悟を決めるだけ……いや、覚悟は既に決まっている。痛いのも嫌なら死ぬ気もないが、逃げ出すつもりは欠片もないのだから。ならば。


「覚悟は出来てます。……行きましょうか」

「うむ。こちらも準備は出来ておる」

「良し、行くぞ。俺に続け、はぐれるなよ。俺が通った道を歩くんだ」


 そう強く告げた警部は物騒なのを懐へと戻し、俺から地図を受け取ってそれを片手に早足で山へと入っていく。山道すらない場所へズンズンと足を進める姿を見た後、俺は何気なくコハクの方をチラリと見て――視線がぶつかる。


「……行きますか」

「そうじゃの」


 レディーファースト。いや、そんな場面でもないので俺が先に足を踏み出して警部の後を追えば、コハクはその半歩後ろをついて来た。

 そんなコハクと話をする事もなく。俺は獣道すらない場所へと足を踏み入れ、警部から一メートル後ろを続いて歩き、茂みをかき分け、警部が立ち止まればそれに合わせ、また歩き出す。ゴブリンの姿は……見えない。罠で動けないのか、それともハズレか。


「こうまで姿が見えないと、かえって不安になりますね……」

「いや、その心配はないぞ」


 思わず口にしてしまった不安に、背後から答えが投げ掛けられる。見れば不機嫌そうなコハクがピクピクとミミを動かしながら答えてくれた。


「嫌な気配が充満しておる。間違いなくこの地下じゃろう。つい先日は、ここまでではなかったのじゃがな」

「なるほど……ゴブリンの数が増えているのでしょうか?」

「分からぬ。しかしこれは……いや、あるいはもっと悪い何かが居るのやも知れんな」

「もっと悪い何か……」


 コハクが呟く様に吐き出した可能性。そこから連想した悪い何かは――例のおぞましき触手だ。まさか、奴が? だとすれば願ったり叶ったり、積年の恨みを晴らす絶好の機会。

 そう俺が笑みを浮かべそうになった、その瞬間。警部が立ち止まる。また地図の確認か、それとも迷ったのかと辺りに注意を払えば……耳障りな叫び声。ゴブリンの物だ。


「警部、これは」

「あぁ、間違いないだろう。……脇を通る事になりそうだ。慎重に行くぞ」

「ふむ、こちらに気づく様なら先手は貰おうかの」


 フフン、と。どこか得意げなコハクをチラリと見た後、こんな木々が生い茂る場所で狐火を放っても大丈夫なのかと疑問に思い、しかし自信満々なコハクの様子に大丈夫だろうと一人納得しておく。きっと狐火はファンタジーな調整が出来るに違いないのだ。たぶん、きっと、メイビー。


「む、あれは……」

「なるほど、トラバサミか。一応哨戒は出ている様だな」


 一人別の事を考えながら獣道を進む事暫し、俺達はついにゴブリンと遭遇した。といっても遭遇したそいつは罠に足を取られて一歩も動けない状態だったが、脅威には違いない。少なくとも、警部の言うとおり哨戒があるのはこれで確定したのだから。

 そんな事を考えていると、ギャーギャーと叫んでいたゴブリンがこちらに気づく。一拍、辺りに沈黙が下りる。そして。


「はぁッ!」


 今にも叫ばんとしたゴブリンに、炎がブチ当たる。コハクの狐火だ。彼女の炎はゴブリンを瞬く間に焼き焦がし、悲鳴を上げる暇すら与えずに塵へと変える。凄まじい火力の狙撃。これでゴブリンは哨戒としての役目を果たせぬまま散った。これは間違いなくお手柄だろう。


「グッジョブ。嬢ちゃん」

「ふんっ、貴様に褒められても嬉しくないの」

「……やれやれ、根に持ってるなぁ」

「わらわが死ぬまで根に持ってやるのじゃ」

「何百年先だよ、それは。勘弁してくれ……」


 因縁の相手らしい警部に褒められてもコハクは嬉しくないそうだが……ふわりふわりと揺れる尻尾を見るに、全く嬉しくない訳でもないらしい。素直じゃない、というより警部が積み上げた悪行が多すぎるのか。まあ、何はともあれ。


「お見事です。コハク」

「フフン。それほどでもあるがの!」

「態度違い過ぎ……あぁいや、何でもないですよっと」


 ホント、いったい石山警部はコハクに何をしたんだ? 俺に軽く撫でられて笑みを浮かべているコハクを思えば、やらかした数は一つや二つでは無さそうだが……今は置いておこう。


「それじゃあ、行きますか」

「あぁ、そうだな。哨戒も出てはいる様だし、ここからは最短かつ急ぎで行こう。遅れるなよ?」


 そう言うなり警部は獣道から茂みの中へと突っ込み、ズンズンと先へ進んでいく。慌てて後を追うが……非常に歩き難い。地面がぬかるんでいたり、腐り気味の落ち葉で足を滑らせそうになってしまう。その上太い木の根っこや急斜面が道を阻む事もあって、正に道なき道といったところだ。どうやらここまではそれなりに道を選んでいたらしい。


 ――身体能力が強化されてなかったらヤバかったな。


 例え拷問されても身体を改造された事に礼を言う気はないが、改造されてなければこんなハードな山登りについていく事は出来なかっただろう。

 巫女服のせいか歩き難そうにしているコハクに手を貸しつつ、俺はそんな複雑な事実を胸の奥に蹴り込んでおく。そんな事より今は警部について行く事が先決だ。あのオッサン年の割にスイスイ歩いて行くから、モタモタしてると置いてかれる。恐らく山歩きに慣れてるんだろうが……


「……ずいぶんと慣れてますね。警部?」

「ん? あぁ、この山には若い頃から結構入ってるしな。猟師のジーさん嬢ちゃん程じゃないが……まぁ、庭みたいなもんだよ」

「そうですか」


 そう言って警部はぬかるんだ場所を巧みに避けて歩き進み、木の根っこで出来た壁を軽々乗り越えて進む。確かに自宅の庭感覚のようだ……警部はな! こっちは違うんだよ! コハクとか歩き難そうにしてるの気づけや! 全く、見かねて遠回しにペースを落とせと言ったのにそれに気づかないとは……


「大丈夫ですか? コハク」

「うむ。問題ない。……手を掛けるの」

「いえ、お気になさらず」


 ぬかるんだ場所を踏み越え、一足先に自然の壁を登った俺は上からコハクに手を差し出して引っ張り上げる。機嫌良さげにふわりと動く尻尾を軽く見て、振り返ってみれば警部は更に先へと進んでいた。……そういうとこやぞ。ん? 流石に気づいたか?


「どうした、何かあったか?」

「いえ。……警部は妻帯者でしたか?」

「あ、あぁ。そうだが、それがどうかしたか?」

「いえ…………」


 警部が着けている指輪の位置からまさかと思ったが……そうかぁ、これで妻帯者かぁ。この気遣いの無さで? ハハッ。


「警部のお嫁さんには同情しますよ」

「そうじゃな。コン姉もなぜこの様な奴の嫁に…………すっかり変わってしもうたし……騙されているのではないか?」

「おいこら」


 解せぬ。そう言いたげな警部だが、なぜ罵倒されてるのか分からない時点でアレだと思う。デリカシーとか気遣いとかあれば直ぐ分かる話だし、そうでなくてもレディが困ってるんだから手を貸せという話だ。

 しかし警部の嫁さんはコハクの姉なのか……耳に挟んだ話含め、コハクとの因縁の理由がだいたい透けて見えるな。下手すると嫁姑問題に匹敵しそうだ。


「はぁ……援軍の当てを間違えたかね、これは」

「仕事はしますから、気にしなくて結構ですよ」

「そうじゃな。石山のより活躍する自信がある」

「……嬢ちゃん達がやる気を出してくれた様で、オッサン嬉しいよ」


 そこら辺は流石に大人というところか。警部はため息を一つと肩をすくめながらも早々に折れ、話をまとめて見せる。これでデリカシーや気遣いがあればなぁ……いや、無理か。今もこちらを気にせずガンガン道なき道を踏破して行ってるし。だからレディを気遣えと。


 ━━元野郎の俺がデリカシーだの気遣いだの、ましてやレディとか笑えるが。


 まさか素で身体に引っ張られた? ……いや、これはあくまでもコハクに対する思いやり的なサムシング。乙女思考のアトモスフィアは微塵もない。たぶん、きっと、メイビー。


「あー、そういえば警部はどこから地下に侵入する予定なんですか?」


 あまりに恐ろしい想像から目を逸らすべく、俺は山歩きのせいで垂れてきた白髪を後ろへとサッと回した後、唐突に警部へ質問をぶつける。この山の地下には坑道跡地、鍾乳洞、地下施設跡地、下水道と様々な物が広がっているらしいが、一体どこから突入する気なのかと。

 そんな自然に見える俺の問いに、警部は悩む様子も無く答えを返してきた。


「坑道跡地の入り口から突入しようと思ってる。あそこなら他より侵入しやすいし、崩落の危険も殆んど無い。それに構造も頭に入ってるからな、手始めとしては上等だろう」

「なるほど」


 どうやら手頃なところから攻めていく予定の様だ。警部の話が本当なら道案内も出来る様だし、洞窟探検としては難易度が低いといえるだろう。

 そんな事を思いつつ急斜面を途中木に手をかけながら登り、時折後ろを振り返ってコハクの様子を確認する。勿論、危なそうなら手を貸すつもりで。


「助かるのじゃ」

「いえ」


 とはいえコハクも山歩きに慣れて来たのか、手を貸す必要はあまりなかったが。

 コハクの手を引き上げた自分の手を見ながら、その事を少しだけ残念に思う。……残念? いや、そこはコハクの成長を喜ぶところだろうに。


「……?」


 何だって自分は残念だと感じたのか? その理由を探ろうとして――警部が立ち止まる。静かにしゃがみ込み、こちらにハンドサイン。止まれ、しゃがめ、と。

 思わずそのハンドサインに従って静かにしゃがみ、中腰で警部の隣まで移動すれば……茂み越しに目的地だろう洞窟の入り口が見えた。そしてそこを塞ぐ様に立つゴブリンも。


「あれは、歩哨かの?」

「恐らくな。数は分かるか?」

「四……いや、洞窟入り口の影にもう一匹。全部で五匹じゃ」

「ん、多いですね……それに武器持ち。手こずれば仲間を呼ばれるでしょうし、面倒な事になりそうです」

「あぁ、静かに片付けるのはちと難しい数だ。幸い油断してるからやれない事はないだろうが……」


 目の前の面倒な問題に、俺達は小声でそう話し合う。

 せっかくここまで敵に発見されずに来たのだから、ここも何とか上手く切り抜けて奇襲を成功させたい。だが油断しきったゴブリンといえど歩哨には変わりなく、手こずれば仲間に危機を知らせるのは間違いないだろう、と。出来ればサイレントキルと洒落込み、この先でも奇襲を行いたいが……ふむ。


「初手はコハクの狙撃。それに乗じて私と警部が突入し、撃ち漏らしを即時撃破。……どうですか?」

「ベターだが、悪くはないな。しかし初手をしくじれば後がキツイぞ? いざというときは連携も必要だ」

「ふん、この程度わらわとヒイラギには何も問題はないわ。ヒイラギの手で行く。ただ、手前の四匹は撃てるが奥に引っ込んでるのは撃てんな」

「では、それは私が」

「んじゃ、俺はバックアップに回るかね。……タイミングは合わせてやる。いつでもいいぞ」


 全員が俺のベターな策に乗り、警部が警棒を腰元から引き抜いて準備を終わらせる。俺もコハクに視線をやって軽く頷き、突撃に備えて心を落ち着け……そして。


「では、行くぞ……!」


 ゴブリン達に気取られないように小さく、しかし強く発せられたコハクの声に一拍遅れて炎が走る。コハクの狐火だ。最早見慣れた炎は全部で四つ、歩哨として立っているだけのゴブリン目掛けて突き進んでいく。


 ――今だ……っ!


 この瞬間しかない! そう自分を蹴飛ばして俺は茂みから飛び出して洞窟の入り口目掛けて足を踏み出す。狙いはそこに隠れているらしいゴブリンだ。

 そうしていううちにも炎は走り続け、ゴブリンまであとホンの少し。そこで奴らが炎に気づいたのかこちらを見た。


 ――遅い。


 眼前まで迫った炎を油断していたゴブリンが避けれる訳もなく、放たれた全ての炎が着弾。炎上する。二、三メートルは空いているのに感じる凄まじい熱量。いくらゴブリンがファンタジー生物とはいえ、間違いなく灰になるだろう火力だ。ならば、俺の役目は。


「居たっ……!」


 コハクが指摘した洞窟入り口付近にいるというゴブリンは直ぐに見つかった。洞窟に数歩入ったところでボサッとしている。こちらには気づいて……いや、気づいた。だが。


「もう遅いっ!」


 一歩踏み込んで、上から真っ直ぐ殴り付ける。身体能力に任せたゴリ押しの打撃。しかし、油断しているゴブリンを叩きのめすには充分過ぎた。


「グギッ――!?」


 顔面に俺の渾身の右ストレートを受け、ゴブリンは嫌な音を立てて洞窟の奥へと数メートル吹っ飛ぶ。弧を描いて宙を飛び、ドシャッ、と。潰れる様な音共に地面に叩き付けられたゴブリンは塵と消えた。増援は……無いだろう。

 俺はそれを確信した後小さく息を吐いて呼吸を整え、硬質な、しかしベットリとした嫌な感覚を右手から振り払う。アレらはマトモな生物とすら思えないおぞましい存在。感傷は不要だ。


「おぉ、ヒイラギ。そちらも片付いたようじゃな」

「えぇ。コハクのおかげです」

「うむ。……まぁ、わらわは一匹仕留め損ねたがの」


 一瞬だけ不機嫌そうにプクッと膨れ、コハクがそんな事を言う。どうやらあれだけの火力を受けて生き残った奴がいたらしい。流石は現代ファンタジーでゴキブリ枠と言われるだけはあるという事か……?


「いや、盾持ちだったからな。咄嗟に盾で防いだらしい。っても木の盾だから結局燃えて、放って置いてもくたばっただろうが……念を入れておいた」

「不覚じゃ……」


 後から洞窟に踏み込んで来た警部曰く、そういう事らしい。口振りから察するにそのゴブリンは警部に始末されたのだろう。どうやら仕事はした様子。その代わりに尻拭いをされた形のコハクがへこんでしまったが……まぁ、変に逆襲されるよりマシだ。とはいえ、因縁の相手に助けられたコハクの胸中は穏やかではあるまいし……そうだな。


「大丈夫ですよ、コハク。失敗は誰にでもありますし、あまり気に病まずに。戦果に拘って怪我でもしたら、それこそ不覚というやつです」

「……そうじゃな。ヒイラギの言う通りじゃ。あまり気にせぬ事にしよう」

「えぇ。それが良いかと」


 ピクピクと機嫌良さげに動くミミに触れながらコハクの頭を撫でつつ、それっぽい事を言って慰めておく。一人でも立ち直るだろうが、見て見ぬ振りは好きじゃないからな。コハクとの仲だし、これぐらいはいいだろう。

 そう思いながら俺がコハクを撫でていると、その背後で警部が気まずそうに頭をガリガリとかき、意を決したとばかりに口を開く。


「あー……仲が良いとこ悪いんだが、急いでいいか? 歩哨は上手く始末したが、交代が来れば流石に畜生でも気づくだろうし、町もそろそろヤバくなって来てるはずだからな」

「そうですね。急ぎましょう」

「……そうじゃな。行くとしよう」


 俺はどこか残念そうなコハクから手を放し、先の見えない洞窟の奥へと向き直る。そこに広がるのは暗く黒い闇。不気味……いや、おぞましさを感じるのはここに潜むおぞましき者共のせいか。直視すれば怖気を感じずにはいられない。


「明かりが必要じゃな……どれ」

「へぇ、見事な狐火だな。こりゃ懐中電灯は余計か?」

「アホ言っとらんでヒイラギの前に立って歩くのじゃ」

「へいへい、オッサン頑張りますよっと」


 コハクが暖かな狐火をポポッと宙に浮かべて辺りを照らし、警部は腰元から取り出した懐中電灯で前方の闇を切り裂く。……片手サイズだというのに、余程性能が良いのを持ってきたらしい。眩しいくらいだ。


「では、案内お願いします」

「迷ったら笑ってやるから安心するのじゃ」

「そいつは迷えないな……あぁ、大丈夫だ。ここには何度も入ってるから怪しいところは分かってる。しらみ潰しにして行くぞ」


 俺は再び垂れて来た白髪を後ろへと回し、相変わらず激しい狐火の様に容赦の無いコハクと、段々慣れて来たらしい警部と共に闇へと踏み込む。

 探索開始だ。

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