第12話 琥珀と柊
警部と狐さんと共にゴブリンを殲滅した場所から駆けて、駆けて。俺はようやく神社が見える場所にたどり着いていた。既に辺りは薄暗く、夕日も殆んど沈んでしまっている。夜。そういっても間違いではないだろう。
「ぬぅ、暗くなってしもうたか……お主、家に連絡せんで良いのか? つい先程公衆電話があったが」
「いえ、連絡する家が無いので」
「……そうか」
お姫様抱っこされたまま小さくコクリと頷く狐さん。その様子をチラリと見つつ、俺は公衆電話を知ってるのかー俗世を知らない訳ではないんだなー等と考えていた。
これなら化石のあまり話が合わないなんて事は起きないだろう。そんな事を思いながらも足を動かし、綺麗に掃除された神社への石階段を飛ぶように駆け登っていく。そうしてたどり着くのは数日振りの稲荷神社の鳥居前だ。
「ん、降ろしてくれるか? 招くでの」
「……了解」
ゆっくり丁寧に、そっと狐さんを地面に降ろす。彼女がスッと立てば尻尾がふわりと動き……そこで俺は腕から暖かみが離れていくのを感じた。
━━もう少し……
果たして何を思おうとしたのか。何かの思考が横切る俺の脳内に、唐突にリン、という鈴の音が響く。
リン、リン、と。鈴の音が数度響き、鳥居の気配が……変わった。
「これは……?」
「ふふ、準備おーけーじゃ」
この身体になって第六感が覚醒でもしたのか、この手の気配を感じ取れるようになったが……まさか無機物である鳥居の気配が変わろうとは。驚きだ。どうやら危険性は無さそうだが、何かファンタジーな変化が有ったのは間違いない。そして、それは恐らく。
「さぁさ、入るとよいぞ」
「では、失礼します」
一歩、二歩と鳥居へ近づき、そのまま歩いてその下を抜ける。
瞬間、辺りの空気が一変した。
当たりなれた日常の気配と空気は消え去り、代わりに清々しい空気と気配が境内に満ち溢れる。清浄で、神聖な気配。最初狐さんと会ったときと、同じ空気だ。辺りの光景はまるで変わっていないのに、流れている空気だけが違う。間違いなく、ここはヒトの領域ではないのだろう。例えるならば、神の領域か。
「ようこそ、我ら妖狐の隠れ家へ。お主は二度目じゃが……しかし、わらわが知る限り、ここに足を踏み入れたのはお主で二人目じゃ。光栄に思うと良いぞ!」
「妖狐の隠れ家。なるほど、道理で空気が違う訳ですね。ところで、一人目は?」
「……石山のじゃ」
「あぁ……」
どうやら石山警部は前々からファンタジーな……というよりは妖しい世界に足を踏み入れていた様子。道理でドラゴンにも理解を示す訳だ……まぁ、補導されたくないから好んでは会わないけどな!
「えぇいっ、そんな事はどうでもよい。こちらに来るのじゃ。先ずは傷を手当てせねばな」
「あー、放って置いても治るのでお気になさらず」
「遠慮するでない。わらわに取ってお主は……まぁ、恩人じゃからな。遠慮は無用じゃ。それに怪我を放置すれば膿んでしまうし、毒を盛られた可能性もある。手当ては必要ぞ?」
「む……」
そう言われては反論しようがない。あのゴブリンどもは見た感じ毒を盛っている様には見えなかったが、某スレイヤー=サンもゴブリンをナメてはいけないとインストラクションしていた。ここは大人しく治療を受けよう。
そんな事を考えつつ狐さんに続いて歩いていると、神社の建物とはまた造りが少しだ違う建物が目についた。何らかの力を少しだけ感じるそれは小屋……いや、庵だろうか? ちょっと休むには丁度良さそうな建物だ。
「ほれ、遠慮せずに入ると良い」
「……そうですね。では、失礼します」
ガラリと障子張りの引き戸を開け、一歩中へ踏み込んで見れば玄関と廊下が見える。だが、広い。目に見えたそれは明らかに外観以上の奥行きがあった。
俺はその矛盾する事実を『はいはいファンタジーファンタジー』と内心で無理矢理流しつつ、靴を脱いでより中へと足を踏み入れていく。とはいえ人の家? で好き勝手するのもアレなので狐さんの案内の元だが。
「この部屋で待っていてくれ。薬と着替えを取ってくるでの」
そう言って俺に部屋を案内した狐さんを見送り、俺は指示された部屋に入って軽く見回す。
個室としては充分な広さのある落ち着いた和室。高そうな座布団が複数と、それに合わせただろう大きくも背の低い机。置物としては……掛け軸か。
「月下咆哮……?」
月下咆哮とは……? と掛け軸の持ち主のセンスに疑問を持ちつつも、俺は座布団の一つに座ってみる。程良くやわらかい。これなら正座もしやすいのではないだろうか? やらないが。まぁ、あぐらで座って待てば……いや、待て。
「あぐらはマズイか……?」
別にスカートを履いている訳でもないのだから気にしなくてもいい気もしなくはないが気にしたほうが……いや落ち着け。俺は男だぞ? 別にあぐらの一つや二つ…………
「━━すまない。待たせたのじゃ」
「いえ、大丈夫です」
悩みに悩んだ末、結局俺は両手に物を山盛りにした狐さんを正座で迎えていた。いや、招かれた身だし、最大限お行儀良くしとくべきかなと……うん。多少身体に引っ張られた感があるのが悔しい。大丈夫、キツくなったら崩すから大丈夫………正座でキツくなるのか? このスーパーボディ。
━━無さそうだ。
何か大事なモノが削れる音を幻聴しつつ、俺は背後に回ってくる狐さんをボンヤリと眺める。どうやら山盛りの荷物は薬瓶や包帯のせいではなく、複数の服を持っているからの様だ。
……いや待て。なぜ複数の服を持ってきた?
「さ、脱ぐのじゃ」
「……へ?」
待て。待て待て待て! このケモロリ今なんて言った!? 脱げ、脱げと? ここでか!? 何だってそんな事をしなければ━━
「? 何をしておる。お主が脱がねば治療出来まい?」
「そ、それはそうですが……その、傷は放って置けば治りますし」
「却下じゃ。全くお主は、いつまで遠慮する気ぞ?」
「いや……その……」
遠慮とかじゃないんだよ! 少しは恥じらいを持てって話なんだよォ! 俺は男で、狐さんは見た目美幼女と美少女の中間にある綺麗な異性なんだから━━いや、今は同性か。なら問題は……あるわ! 普通にあるわ! 落ち着け、俺。身体に引っ張られるな。ここは狐さんが納得するナイスな言い訳、あるいは折衷案を…………
「ほれ、観念して脱ぐと良い。それとも両手を上に上げて万歳するか? わらわが脱がせないと駄目かの?」
「うっ、そ、そうです。治療なら私一人でも出来ますし……」
「そうじゃな。背中の傷まで手が届くならの」
背中の傷? そんな場所に食らった覚えは……いや、どうだろう。ゴブリンとの戦いは途中からアドレナリンでも出たのか、所々で痛みを感じなかったからな。そのとき貰っていたなら……うん。流石に背中の傷の手当ては出来ない。
「ほれ、ばんざーい」
「う、ぐ……」
最早ここまで。俺は大人しく観念してホールドアップし、ケモロリにパーカーを剥ぎ取られる。続いて下に来ていた薄手のシャツも。
「ん? それはサラシ、かの?」
「……スポブラって言うらしいですよ。どうしても慣れないならこれかなーて、店員さんが言ってました」
「ふむ? よく分からんが、それは今は脱がんでも良かろう」
当たり前だよ!? これまで剥がれたら前が見えちまう! ……こーいうの男だったときはそこまで気にもならなかったんだがなぁ。こうして気にする様になっている辺り、男としておしまいなんじゃないかと思わずには居られない。
「では手当てを始めていくからの」
「お願いします……」
もうどうにでもなーれ。そう言わんばかりに俺は狐さんに全てを任せる。声掛けから一拍し、ヒヤリとしみる痛みが背中に走るが━━我慢だ。我慢。イチイチ反応して堪るか。
「ん? 既にふさがり初めているのもあるの」
「あー、なんか治癒能力が高いみたいで……」
「ふむ? ……なるほど。お主、ヒトではないのか」
「それは」
どういう事か? そう聞こうとして、察する。これだけの身体能力を持っておきながら人であるというのは無理があり、あの日。俺がTSした日に、俺は男だけでなく……人ですらなくなったのだろうと。
なら何になったのかという話だが……
「これは……何じゃろうな? わらわが知らぬ何かが混ざっておるのか?」
「分かり、ませんか?」
「分からぬ。とはいえ、これで幾つかの事に合点がいったわ。……お主、苦労しておるのじゃなぁ」
「いえ……」
なぜか知らんが勝手に納得されて同情された。解せぬ。とはいえ、TSで苦労しているのは間違いないので同情は素直に受け取っておく事にする。
しかしファンタジーな狐さんでも、俺に何が混ざっているのか分からないのか。一体、何をどう弄くられたんだ……?
「さて、背中は終わったぞ。次は前と横じゃ。こちらを向いてくれ」
「あ、はい」
狐さんに促されるまま、俺はその場で向きを変える。そうして目の前に合ったのはモフモフのケモミミ。狐さんのものだ。
「では始めてゆくぞー」
視線を少しだけ下ろせば、そこにはしゃがんで俺の身体を手当てする狐さんの頭があった。やわらかな小麦色の、サラリとした長い髪。ふわりふわりと揺れる豊かな尻尾が三本。ピクリと動くのはモフモフのキツネミミだ。
「ん? どうかしたかの?」
「い、いえ。なんでもありません」
俺の下手な返しに狐さんは「そうか?」と苦笑を浮かべながら言って、再び作業に戻る。……言える訳がない。綺麗な子の顔が直ぐ近くにあって緊張した等と。
「あー、そういえばこの家には他に誰か?」
内心の気恥ずかしさを誤魔化すべく、俺は自分から話題を振る。先ずは無難なところを……
「いや、今はわらわ一人じゃ。前は何人か姉様も居たのじゃが……皆住みかを変えてしまってな」
はいダウト。地雷踏んだ。こんな広い家に一人で住んでるとかどう考えても訳あり。それを話題にするなど、人の心に土足で踏み入るが如き諸行。ここは転進しかない!
「コン姉は嫁に行ってしまうし、ハク姉は旅に出るし、他の姉様も皆バラバラじゃし、狐様などと崇められておるらしい親戚のおば様にも連絡がつかぬし……うむ。そう思うとあのときお主に出会ったのは幸運であったのやも知れぬ」
「……あの、夜ですか」
「うむ」
やはり深くは立ち入られたくはなかったのだろう。向こうから話を変えてくれた狐さんに乗りつつ、俺は狐さんが妖狐となった理由に頷いていた。元々妖狐ではあったが、あの石で本格的に覚醒したのだなと。そして更に石を食ったのか……とも。
「うむ。おかげでここの辺りにはもうあの石はないがの」
「……幾つか持ってますが、要ります?」
「む」
ホンの少しだけ迷って口にした提案に、狐さんがミミをピクリと反応させながら顔を上げる。上目遣い。すんだ黒の両目が綺麗。
「━━いや、止めておくのじゃ。それはお主が持っておくと良い。不定形のべちょべちょした奴はそうではなかったが、おぞましき触手には効果があるようじゃからの」
「了解です。……そういえば、何だって狐さんはスライム……不定形のべちょべちょした奴のところに居たんですか?」
「ん。それはの……まぁ、有り体に言えば嫌な予感がしたからじゃ」
「嫌な、予感」
「うむ。実を言うと今も感じておる。町の西側の辺りからひしひしとな……」
狐さんは俺の身体に包帯を巻き付けつつ、どこか悲しげにそう口にする。心なしかケモミミもしょげている様で……なんとかしてあげたい、そう思ったのも仕方ないだろう。
「まぁ、今日は町の南側からも嫌な感覚があったからそちらに行ったのじゃが……ほれ、終わったぞ。あとは肩と左腕じゃな」
「そこで再び出会ったと。あぁ、お願いします」
ここ数日会わなかったのは逃げていたのではなく、単なる偶然なのだろう。そう思いつつ狐さんに腕を差し出すと、それを支える為か狐さんの手が俺の腕を軽く掴む。暖かい。
「これは、矢傷か? 腹の傷といい、ずいぶん無茶をしたの。お主、傷つくのが恐くはないのか?」
「恐く……ですか。…………いえ、特にないですね」
痛いのは嫌だし、死ぬかも知れないとなれば恐怖は感じる。だが傷つく事を恐れるというのは……思えばなかった。
この辺り、神経も弄くられたのかも知れないな。
「これ、その様なくすんだ目をするでない。全く……」
「そんなに、くすんでますか? 死んだ魚の様に?」
「いや? 死んだ魚というより死人の目じゃな。生気というものが欠けておるわ。……しかし、安心せよ。お主はもう大丈夫じゃ」
「はぁ……?」
生気が無い。まさかハイライトが足りてないのだろうかと疑問に思えば、今度は狐さんに慰められた。解せぬ。
「まぁ、直ぐに治るものでもないか……うむ。毒の類いは使ってなかった様じゃ。多少呪いの様な力があったようじゃが、それもここに居れば自然と祓える」
「そうですか、有り難うございます。狐さん」
「良い。気にするな。お主はわらわに取って恩人でもある……が」
肩に包帯を巻き、微笑を浮かべながらそう言葉を紡いでいた狐さんはそこで口を閉じ、半目となって俺を睨む。なぜに?
「未だに狐さんとは、他人行儀に過ぎるのでないか?」
「あぁ、いや……」
「そうじゃな。自己紹介もしてないわらわも悪いの。今度は、聞いてくれるの?」
「はい……」
おこなの? おこですね、これは間違いない。そんなに他人行儀が嫌なのか、それともゴブリン戦のときに自己紹介の機会をブッた斬ったのを根に持っているのか……前者だと思いたいところだ。
「わらわは琥珀。家名は……まぁ、特にはない。コハク、と呼び捨てにしてくれて良い。今後は宜しく頼むの?」
狐さん……コハクは俺の腕にギュッと包帯を巻き付けつつ、ズイッと顔を近づけて自己紹介をしてくる。正直、気恥ずかしい。
とはいえ自己紹介されたのだから名前は覚えなければならないだろう。そう思いながら視線を逸らそうとして、コハクが何かを期待する様な目を向けている事に気づく。……あぁ、そうだな。アイサツされたのなら、返さなければなるまい。しかし俺の場合は……いや、変に誤魔化すのも失礼だ。大人しく白状しよう。
「あー……期待しているコハクには悪いんですが、私は自分の名前を忘れていまして。自己紹介出来ないんです」
「む……それは、いや。そうか、混ざりモノになったときか?」
「はい。そのときにキレイサッパリ」
「そう、か……」
やはりこの手の知識があるのだろう。コハクはこちらの事情を察して退いてくれた。しかしミミはしょんぼりと倒れ、尻尾もペタリと元気が無く、当人もすっかりしょげてしまっているが……そうだな。いっそ偽名でもいいか。
名無しの権兵衛……いや、今の姿なら洋画の登場人物ぽい名前でも良いかな?
「あー……そういう訳なので、コハクの好きな様に呼んでくれて良いですよ。ジョン・ドゥでも、ジョン・スミスでも、なんならハンス・シュミットでも結構です」
「……確か、それは外国での名無しや偽名を意味するのではなかったか? それも男性名じゃと思うが」
「おや、知っていましたか。コハクは博識ですね」
「やはりか。ハク姉が前にそんな事を言っておったのじゃ。……うむ。ならばそれらの名前は駄目じゃな。仮の偽名にしても合わなすぎる」
コハクは手当てに使った道具をテキパキと片付けながらうんうんと唸り、片付けて脇に避けた後も唸り続ける。どうやら俺の偽名で悩んでいるらしい。こうも真剣になってくれるのは嬉しいが、そう唸る程悩まれるとそれはそれで悪い気もしてくるな。
「あの、そこまで悩まなくても大丈夫ですよ? 別においとか、白いのとかでも大丈夫ですし」
「むー……嫌じゃ。何か考える故、暫し待て」
「いや、本当に大丈夫ですから……」
「わらわが嫌なのじゃ。名前は大事ぞ?」
思ったよりも頑固に唸り続けるコハク。これは説得するのは無理そうだと諦め、彼女が閃くまで言われた通り暫し待つ。そして。
「柊」
ポツリ、と。外へと繋がってるだろう障子の方を見つつコハクが呟く。柊、ヒイラギか。そういえばこの神社にも生えていたな。
「ヒイラギ。どうかの? 何かと良くない事に首を突っ込むお主に丁度良い名だと思うが」
「それは、どういう意味ですか? コハク?」
「さて、の」
尻尾をふわりと動かしながらすっとぼけるコハクを見つつ、俺は柊の意味を思い出してみる。といっても詳しくはないので花言葉なんて知らないが……確か魔除けの意味合いがあったはず。
うん、仮の偽名にしては上等過ぎるぐらいだろう。
「では私はヒイラギです。名字は……そのうちで良いでしょう。宜しくお願いしますね、コハク」
「うむ。宜しくじゃ、ヒイラギ」
満面の笑みを浮かべてこちらの手を取るコハクに、思わず微笑を返す。パタパタと動く尻尾が微笑ましい。
……ところで、コハクはいつまで俺の手を握っているつもりだ? そろそろ気恥ずかしくなってきたのだが。
「では、ヒイラギ」
「何ですか? コハク」
「着替えようかの」
「……はい?」
俺の手を握っていた手を離し、コハクはその手を俺のズボンへと掛ける……いや、いやいやいや待て待て待て!?
「なっ、何をする気で……?」
「どうせヒイラギの事じゃ。わらわが着替えるように言っても断るであろう? そんなボロボロだというに、またあの夜の様になるまで耐えてしまうじゃろうな。ならば、最初からこうした方が早いというものじゃ。……嫌でも着替えて貰うぞ、ヒイラギ」
うん読まれてら。しかし、だからといって脱がせるというのは性急に過ぎませんかねぇ!? てかコハク、テンションが天元突破してないか? あ、ちょ、やめ、ヤメロー!?
「一応言うておく、遠慮は無用ぞ?」
「いえ、そういう訳には……」
「で、あろうな。じゃからこそ、こうじゃ!」
「ちょっ、分か、分かりました! 着替えます! 着替えますから!!」
「……そうかの?」
コハクのあまりの押しに負け、俺は自分から着替える事を彼女に伝える。このまま脱がされては本格的にナニカを失うと。
彼女の策略にハマったなと小さくため息を吐きつつ、コハクが差し出した綺麗に畳まれた服を受け取り……気づく。これは、女性物ではないか? それもスカートタイプの。
「あの、コハク? これは……?」
「ん? それか? それはハク姉が以前着ていた物じゃな。もっとも、ハク姉がその大きさに合う人化をする機会はあまりなかった故、殆んど着られていないが……ヒイラギならピッタリじゃろ」
「いえ、そうではなく。なぜこう、ヒラヒラしたスカートなんですか?」
「? 今時のおなごはそういう服を着るものだと、ハク姉が言っておったぞ?」
うん、ソウダネ。そのハクさんとやらは何も間違ってはいないし、これをチョイスしたコハクのセンスも悪くない。俺が元野郎だという一点を除いてなぁ!
えぇいっ、こんなヒラヒラしたスカートなんぞ着れるか! 俺は着替えるのをやめさせて貰う!
「あー……やっぱり着替えるのは今後で良いんじゃないかなぁ。ね、コハクさん?」
あ、ちょっ、やめ、ヤメロー! 無言でズボンに手を掛けるな!? 引きずり下ろそうとするなぁ!?
「コハク! や、やめ━━」
「そぉい!」
う、うわぁぁぁ━━!?