57.盗賊を引き渡してみよう。
進んでいます、次の村を目指して。
ビセンテを取り逃がし、盗賊のアジトを漁るが、大した物はない様だ。神眼の常時発動の練習を兼ねて見てみたが、これと言って心奪われるものはなかった。
多少のお金、誰かから剥ぎ取った装備各種、そして誰かの遺品・・・。
装備の中には特殊能力付きの物もあったが、能力値極小Upばかりで・・・
遺品にしても困ってしまう、名前が書いてあるものは、まだマシだが何も無い物もあり所有者の遺族を探すのは困難だろう。
取り合えず全部まとめて収納空間へ入れ、ノウの方で冒険者ギルドへ届けてもらおう。
捕まえた盗賊達を馬車に詰め込み、誰と一緒に乗って行きたいかを聞いてみる。
な、な、何と、俺が一番人気でした。
どうしても俺が良いと言うので、俺は貞操の危険を感じ二番人気を聞いてみた。
ジュリアさんが二位、ラヴィーニャが三位、レイリー、メイド達と続きます・・・。
俺としては、ジュリアと一緒はご遠慮願いたいのだが・・・
想像してみよう、まず俺、ジュリア、盗賊だと・・・盗賊の前で確実にお説教されてしまう未来が見える、何故あそこで漁師になろうなんて言ってしまったのか?これが後悔先に立たずなのか?
続いて、俺、ラヴィーニャ、盗賊だと・・・盗賊達にお似合いですぜ親分と持てはやされ、ラヴィーニャはニコニコ、俺は困惑って感じかな?そして口が滑って言い過ぎた者はパンチだな。
次は、俺、レイリー、盗賊だと・・・盗賊達は無言、レイリーは剣や剣聖の話をニコニコと、俺無言で頷く感じか?
最後、俺、メイドの誰か、盗賊だと・・・俺無言、盗賊無言、メイド無言だな。俺の胃に穴が開きそうだな。盗賊は知らん!
ヨシ!良い組み合わせが無いことがよくわかった、自業自得な所もあるが今回は俺の貞操のみの犠牲でいいだろう・・・。
組み合わせは、俺と盗賊達で行こう!
「「「えーーーー」」」っと声がするが、聞こえない。
「順番に乗り替わればいいんじゃないでしょうか?」
「うむ、名案なのじゃ」
「私も、それがいいかな。お兄ちゃんとお話したいし。」
「私たちは遠慮しておきます。」
「ではそう言うことに決まりましたので、イオリ様。最初はジュリアからでいいですね?」
えっと、こっちで決まったことはどうなったんですかね?
「えっ?何かあったんですか?」
どうやら、向こうも聞こえていないを押し通すようだ・・・。
こうなってしまっては、俺に勝ち目はないので、言われるがまま同意する。
仕方がないまずはジュリアからね・・・。
早速お叱りが始まる。
「お兄ちゃん、戦いの時はもっと真面目にやらないと、いつか怪我しちゃうよ。お兄ちゃんが怪我をすると私、私・・・」
目をウルウルさせて俺を見るジュリア・・・ごめんなさいもうしません。こんな感じで怒られては、ウルウルされての繰り返しで俺のハートは完全に反省モードとなりましたとさ。おしまい。
「まだ、終わってないけど?お兄ちゃん!そういうところだよ!」
お説教が長引きましたとさ。おしまい。
「だから・・・、終わってないけど?」
その後、海より深く反省をし許してもらいました。
他のメンバーとの交代までまだ時間があったので、魔法のなんたるかを色々と教えてもらい、盗賊達には親分もっと真剣にできないんすか?と言われやり過ぎたなと反省をした。
次はラヴィーニャのようだ。
「旦那様はな、やるときはちゃんとやれるのに、敢えてふざけるところがあるから、時と場合を選べるようになるとよいのじゃ。」
フムフム、勉強になります。
「わらはは、旦那様がドンだけふざけようが、全部まとめて好いておるから問題ないのじゃ。いつでも触りに来るといい。」
盗賊の前で改めて告白されても、反応に困る・・・。
「親分さすがっす!モテモテっす!」盗賊達が囃し立てる。
あれ?ラヴィーニャさんの雰囲気が変わった?
「わらはと旦那様の会話に入って来るとは、お主達勇気があるのぉ?耳障りだから、見せしめに1人殺っとこうかのぉ?」
のじゃはどこいった?
ラヴィーニャさんの本性はこれなの?俺の前では見せたことないよね?
「いやーすまんのじゃ旦那様。久しぶりの旦那様との二人きりを邪魔されては流石のわらはも怒りたくなるというもなのじゃ。」
と言いながら、尻尾でホレホレ触るか、みたいにやってくる・・・
この馬車二人しか乗ってないんだ・・・知らなかった。
そして、盗賊達は目と耳と口と鼻を塞いでおれと言われ涙目になっていた。
よくよく考えるとラヴィーニャと二人で話をするということもほとんど無かったので獣人の国の事を聞いてみた。
確か前は王になるのはどうでもいいとか何とか言っていたが本心はどうなの?みんなの前では話せなかったとかある?
闇魔法の得意な敵がいることがわかったし、実はお姉さんは洗脳されているとか?
「旦那様は考え過ぎなのじゃ、もっとわらは達を頼ってくれてもよいと思うが、そこの所はどうなのじゃ?」
逆に聞き返された、そりゃー頼りにしてますよ、頼りきりで、頼りっぱなしですけど?
「ふふ、そうじゃのぉ、そういうことにしておくとするのじゃ。」
わかっておるわかっておるのじゃとウンウンと頷いている。
うやむやにされた感はあるが、ラヴィーニャはとにかく俺を誉める。
褒められると、調子に乗りそうになる、嗜めるの繰り返しで上手いこと手のひらで踊らされている感じで、そしてふと思う、ラヴィーニャ自身の事を聞いたことがないと・・・
「結婚する気になったのかのぉ?なら話してもよいのじゃ。」
・・・、話したくないのか?
まぁ無理に聞くこともないので、話したくなったら話してもらおう。
そしてラヴィーニャの頭をそっと撫でる。獣耳もこっそり触りながら。
レイリーとの交代の時間が来たようだ。ラヴィーニャが馬車から降りたとたん盗賊達が女の子は怖いっすと言ってくる・・・
どうやら、コイツらとは仲良くなれそうだ。レイリーの注意点を教えておこう。
やっぱりレイリーはレイリーだった。剣聖の話と剣術の話をひたすら喋りまくる、剣聖の話は面白く聞けるが、剣術の話は俺の理解の範囲外の事を言っているため、なるほど!と、そうだったのか!を使い分け頷くしかない。
しばらくレイリーの独壇場だったのだが突然、
「シュッ!」っと。
誰も反応出来ない速度でレイリーが刃渡り15cmほどの短い剣を振り抜く・・・
そんな剣も持ってるのね・・・?
「虫です。」
そういって短い剣の上で半分になった虫を見せてくれた。
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」・・・
虫を斬るためでしたか。そうでしたか。
盗賊さんの内の一人は少し斬れてますけどね・・・
いつも言うけど、加減をだな!虫を斬るついでに人を斬るなーーー!
「てへっ。」
てへっじゃない!てへっじゃ!
こうして馬車の中は村に着くまでの間、レイリーは
「この短い方の剣もイオリ様に頼んで買ってもらおうかな・・・」と嬉しそうにニマニマ、ブツブツ言っている、俺は無言で頷き、盗賊は恐怖に引き攣り無言となる。
村へ着き、盗賊達を引き渡した。メイド達に・・・メイドネットワーク恐るべし!
その時に盗賊達に言われた、「もう親分と一緒の馬車はゴメンです」と分かるよ!俺にも分かるその気持ち!
でもね安心して、馬車の中の方が幸せだったと思える日が来るから・・・。
ここのメイド達も、あのメイド達と中身同じだから・・・。生きていたらまた一緒に旅をしようね。
「ぎゃー」「イヤダー」「ここで殺して・・・!」
盗賊達の悲鳴が聞こえる。




