185.優しい視線に耐えてみよう。①
やってまいりました、魔族領へ。
昨夜レイリーにポコスカと殴られ大事なアイデアが危うく失われてしまいそうになった昨日この頃…… 正直全ての記憶を失う危険もあったわけで…… レイリーさんのポコポコパンチを舐めてはいけなかった。
それに昨夜のことは俺が悪いわけではないのだから、怒る相手が違うと抗議して現在に至る。
ここは俺のテント。緊急家族会議が行われている。 出席者は今はまだ家族ではない夏樹さんとマリーアも参加しているが、今回俺はマリーアに期待している。
昨夜の出来事でラヴィーニャはガッツリみんなから怒られているが、俺の話はそれではない。
俺はマリーアに問う。 魔物を狂わす薬物や香はないのかと。 マリーアさん年齢だけはかなりのお年を召しているし、何だかんだ言ってエルフだ、森で生活していた時に魔物を誘き寄せたり、寄せ付けないようにする薬品を使っていたに違いないと俺は勝手に思い込んでいる。
「エルフ秘伝の魔物を狂わす香があることにはありますが、上位の魔物には効き目がないと思います。」
ふむ、ふむ、やはりあるのか! 効果が弱くても俺にかかれば……
ふふふ、魔族達はどうせ前回と同じく魔物を引き連れてくるだろうからな、その香で魔物を誘き寄せてしまえば俺達が対処できる。
ドラゴン類が沢山居ると獣人や人間では相手はできないからな、魔族と引き離し俺達が一網打尽にすれば、あとは数の暴力で魔族を捕らえることも可能なはず!
そうなれば、ふふふ、待ってろよミニクさん!
翌日。
開戦を迎える。
俺がくる前に負けたということは何故だかノーカウントになってしまったみたいだ。こちらの軍だけの話なのだが、兵達は俺の戦いぶりを見て何だか行けそうな気がするーとなったようで……
切り替えが早いのは良いことだね!
マエリスの情報によると、こちらの軍は全体で約三万。魔族軍は魔族三千と、魔物一万と言ったところで、予想通り魔物を引き連れて来ているようだ。
ずばり、俺たちがいない状態で戦えば普通にこちらの敗けだね、よく一万人の犠牲ですんだよ! よく逃げ切ったよ! だって今回の魔物の群れのなかには巨大なベヒモスとサイクロプスが含まれてるらしいし…… あれはその辺のドラゴンより強いよな……?
その二匹はレイリーさんに任せておけば粉々に切刻んでくれることだろうから問題ないな……。
双方が対峙するまでにはまだかなりの距離がある。どうやら魔族達は陣を構え俺達が接近するのを待っているようだ。 これはチャンス! マリーアさん出番ですよ!
昨日マリーアに言われるまま魔物を狂わす香を作るための色々な材料を集め………てあったのだ! さすが俺、普段の薬草集めがこんなところで役に立つとはな。 魔物狩りの時レイリーに戦わせて俺はせっせと薬草を採っていた甲斐があったと言うわけだ、ふふふ、褒めて!
レイリーが遠くで戦ってください!って言っているが聞こえない!
そしてマリーアに作ってもらった香を、俺のスキルでパワーアップ! これなら魔王でも狂っちゃうよっていう香り玉を作ることに成功したのだ。 魔王は魔王でも、今のアリーヤではなくアリーヤが倒した前の魔王のことだけどね。
その香をジュリアが風魔法で魔族陣営に送り込み……
……
……
魔族陣営から砂煙がたち始めたな? 魔物が暴れてるんだな? ふふふ、思惑通りだ。
そしてそのままコチラへ魔物だけ向かって来てくれれば…… 更に興奮を煽るためにちょこっと攻撃しておこうかな?
「どうしたと言うのだ! なぜ魔物達が暴れておる?!」
「よくわかりませんが、先はほどより敵方から風が…… その風に乗って何やら奇妙な臭いがするのですが……」
「奇妙な臭いだと?」
ミニクは周りの臭いを嗅ぐが……
「しまったな今回、クサイオの軍を連れてきたのが仇となったか? 臭いがよくわからぬ!」
クサイオ=サン ダニエラに言わせればクサイオッサンなのだが、この男魔族10将の第7席「腐」を司る将なのだが、率いる軍はアンデッド系で臭い! なお本人の名誉のため言っておくが本人は臭くない! 例え臭くても臭くないのだ! 誰がなんと言おうと臭くないったら臭くない!
おじさんはいじめてはダメなのだ!
よし、ジュリア風にのせて攻撃魔法で相手を攻撃してくれないか?
「お兄ちゃん…… いくらなんでも遠すぎるよ……」
そうなの? そうかだったのか、魔法にも射程距離があったのか!? 知らなかった……
ならば俺が敵上空へ転移し攻撃すればいいな。
スッと転移を行い敵陣の真上に移動する。
……
えっ?!
くっさ!
何ここ? 臭い……
早く逃げないと鼻がもげる!
マリーアの香の臭いなんか全くしない、するのは腐臭のみ…… よく見ればアンデッド系の魔物が見てとれる…… こいつらが犯人か? 焼き払っておかないと鼻がもげる! 特にこちらは鼻のいい獣人が参戦しているのだこの臭いだけで倒れてしまう。
恐ろしいことをよく考えるものださすがミニクさん!
おっと、敵陣の真上で敵を絶賛していても仕方がないやることをやってとっとと帰還しよう。 俺は手にバスケットボール大のファイアボールにスキルで消臭効果を付け…… くっ! マリーアの香の臭いも消えてしまうではないか?
「おい!あそこに何かいるぞ!」
しまった、どうやら居場所がばれたようだ…… 数人の魔族が騒ぎ出したようだ。 仕方ないの俺の弱々ファイアボールをお見舞いしてとっとと逃げよう。 臭いは後で対処できるからな。
激しく暴れている魔物にファイアボールを投げつけ自陣へ戻る、さてどうなるかな?
「敵襲! ミニク様敵襲です! 上空より魔法で攻撃されましたが…… 被害が…… ないですね…… 魔物は少し興奮状態になりましたが、どの個体も傷ひとつついていません!」
「あ、あやつか? いったい何を考えているのだ? 読めぬ!」
自陣へ戻った俺は、敵陣の動向を探る…… …… ……
どうやら失敗したようだ……
ぐぬぬ……なんて統率がとれているんだ!
恐るべし!
「イオリ君…… 私見てたけどあの魔法では…… 相手も興奮できなかったと思うけど……」
……
マエリスさん…… 俺も分かっていて敢えて誤魔化したのに…… しくしく……
「あっ! ごめん……」
そういって優しく俺の方に手をのせるマエリスの目はとても優しかった……




