182.ラヴィーニャさんの強さを教えてあげよう。
やってまいりました、魔族領へ。
「この者を引っ立てるのじゃ…… 国に帰ったら極刑に処す…… これはわらはの判断なのじゃ…… 旦那様には関係ないのじゃ……」
ラヴィーニャ……。
「ラヴィーニャ!ラヴィーニャ!お前はその男に騙されている! 今からでも遅くはない儂と一緒に獣人の国を……」
「ラヴィーニャ様! いくらなんでも極刑はやりすぎでは……。」
従軍している他の獣人達がゲロルドの減刑を願い出る。
「本当にこの男の言いなりでよろしいのですか?!」
……。
そうかこいつらも俺が気に入らない一派の一員か…… それでここまで軍の進軍が早かったのか……
すまんラヴィーニャ、こいつらには少し痛い目にあってもらうよ……
「旦那様……?」
「ラヴィーニャ様!ご決断を!」
俺はふらふらと宙に浮き獣人の兵達の中心へ飛ぶ。
「わかったよ…… 力がものをいうのならば俺の力を見せつけてやる! 今からお前ら獣人どもを力で押さえつけることにした、お前ら全員でかかってこい!」
そう言い放ち獣人達の軍の真ん中へ降り立つ。
どうみても万を超える獣人の兵隊が居るがそんなことは関係ない。 ここにいる兵達は所詮ただの人なのだから……
「ぜ、全員だと!? 気でも狂われたか婿殿? ここにはまだ1万3千の獣人の兵がいるのだぞ?」
唖然としている兵達…… 普通ならばそう思うよ…… 普通なら俺もそう思う……
しかし俺は元神に戦いを挑む者、そして神に認められし者なのだ。
たったそれだけで俺に勝てると思っているのか? もし俺に触ることが出来たらお前らの勝ちだ、どこからでもかかってこい!
「婿殿と言えそこまで馬鹿にされては我らとて黙ってはいられませんぞ!」
はぁ〜 こいつらは結局俺とおしゃべりがしたいのか? 俺の強さが見たいのか……?
そっちが来ないなら、こっちから行くから! 死なないように気を付けろよ!
そう言い放ち俺は魔王と同等程度のプレッシャーを辺りにまき散らし獣人どもを威嚇する。威嚇だけでほぼ全員の膝が震え、中には座り込み立ち上がれないものもいる。
あぁ〜俺はこんなことができる化け物と戦おうというのか……
そして最近6属性全ての魔法を覚えた俺は、ジュリアがやっていた6属性全てを融合する魔法アトミックキャノンを獣人達の頭すれすれにぶっ放す。
一応言っておくが今のはわざと外したんだからな。
「……。」
なんか言えよ! 一万人もいるんだからさ!
「ふ、ふざけるなー!」「我らをなめるなー!」
威勢だけはいいな。ガクガク震えなが俺に斬りかかってきても、そんなへっぴり腰では、一生俺を斬ることはできないぞ?
俺の回りには空気を圧縮した見えない分厚い壁がはりめぐらされているからな、まぁこの壁が斬れるのはレイリーと剣聖さんくらいだろけど……
次はどんな攻撃をと思い考えていると、猛烈な勢いで俺に向かってくる気配がある。
見知った気配だったため完全に油断し考えを事をしていると……
がんっ!!! と大きな衝撃音とともに俺の回りの空気が揺れる? いや、この辺り全体の空気が揺れているかのような衝撃…… その衝撃の正体はラヴィーニャのマジパンチ……
ここからはとある兵士視点でお送りします。
凄まじい衝撃音、そして衝撃。 ラヴィーニャ様の攻撃が婿の防壁を吹き飛ばす勢いで行われている。
初撃は勢いに任せた攻撃だったため、恐ろしいほどの威力を感じることが出来た。 初撃だけでは婿の防壁はびくともしない、恐ろしい男だ。 ラヴィーニャ様は攻撃を続けるが、その攻撃も恐ろしい。
この場に纏う空気に衝撃が伝わっているかのように、ビリビリと震える空気……
ラヴィーニャ様がこれ程お強いとは思いもよらず…… いや王の子なのだから戦闘力が高いのは頷ける。
しかしラヴィーニャ様はまだ幼い。 顔も体つきにもまだ幼さが残っている。 そんなラヴィーニャ様がこれ程の戦闘力を持っているとは……!
しかしラヴィーニャ様の攻撃をもってしても婿の防壁はびくともしない。 これではらちが明かないと思ったのか、ラヴィーニャ様は気合いを入れる……!
そしてその光景に自分の目を疑った。 ここにいる者全員が同じことを思ったに違いない。
気合いを入れたラヴィーニャ様が獣人の国では伝説の戦闘形態と言われている獣化をしたのだ。 信じられない気持ちでいっぱいになった。そもそも獣化できる王が現れる時は国が混乱するときと伝わっているのだ。
今獣人の国はこれと言って混乱していない。 なのに何故? もしかしたらこの婿が関係しているのか? 多分皆同じ事を感じているだろう。
獣化したラヴィーニャ様は白く美しくそして大きい。 もとの体からだと一体何倍に膨れ上がっているのか分からないほど大きく、圧倒的な力を感じる。
これならば! ここに居る全員の気持ちが一つになった、そんな気がするほど絶対の力を感じる。
そして、ラヴィーニャ様の渾身の攻撃、唸る拳! それを余裕をもって迎え撃とうと片手を伸ばす!? 片手だと? ふざけるな! 獣化した獣人の力を舐めている! バカにするにもほどがある。
正直ラヴィーニャ様のパンチ絶対喰らいたくない! 喰らえば=死 明らかに分かる攻撃を片手で防ぐだと? やはりこの婿はバカなのだ、ラヴィーニャ様を騙すことに長けているだけでバカなのだ。間違いない!
そして婿の手とラヴィーニャ様の拳がぶつかる! 先ほどの衝撃よりもよりすごい、周りの兵達が衝撃でよろめくほどの衝撃!
これは、これは「いったーーーーーーー!!!」
間違いなく婿もろ共吹き飛ばしているに違いない、でなければおかしい! 衝撃波だけでビビっている俺がこんなこと言うのもおかしいが、ラヴィーニャ様の攻撃の方がおかしい! この攻撃に耐えれる者がいるとするならば神のみだ……
「……」「……」「……」「……」 「……」「……」「……」「……」
呆気にとられた…… これほど開いた口がふさがらない出来事は今まで生きてきたなかでなかった。 口がふさがらない理由は呆れてではない、婿が片手で何事もなかったように平然と受け止めたのだ! 開いた口が塞がる要素がない! 肩が微妙に光っているからきっと何かしたに違いない!
恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい、この婿が恐ろしい! 完全に勘違いしていた! この婿、強すぎる! 強さの次元が違う! 人の強さではない!
婿はラヴィーニャ様を優しく包み込むように抱き支える…… ラヴィーニャ様が大きすぎて抱きついているようにしか見えないが、この婿、カッコ良すぎる!
あぁ〜ラヴィーニャ様はこのことを知っていたのか…… 我らが愚かだったのか……
この婿ならば我が国は安泰! 何故って? どう見てもこの婿世界最強だろ? この二人の子が弱いわけがないからな、ならばもう何も文句はない、獣人は強きものが正義なのだから。




