179.説得してみよう。
やってまいりました、魔族の街へ。
カオスの世界の収集もついたことだし、レイリーが帰ってくる前に一つ用事を片付けておこうと思う。
その用事とは、ミニクさんの説得なのだが…… まぁ成功確率は1%を切っているだろう。それでも挑戦しようと思うのはやはり魔族では珍しいあの律儀な性格が気になるわけで。
そしてやって来ました、ミニクさんの目の前に……
今回、俺は嫁達に内緒で一人単独行動をとっている。 嫁達にバレたらただではすまない危険な行動に出ている。剣もヒカリさんに渡してしまっているので全くの丸腰で敵の将の前にいる。
少し早まったか!?とも思ったが、ミニクさんは紳士的に接してくれたのでとても助かった。
ミニクの部下と思われる人たちも静かに俺の動向を見守ってくれるようだ。
「また来たのか? 先日魔王様にやられてからそう日もたってないと言うのに、こりんやつだな!」
はは、また来ましたよ。前回は完全に俺のミスでしたので、今回は丸腰単独行動ですよ。思う存分油断してください。
「ははは、敵に油断してくださいと頼む奴がいるとわな! それで今日はなにしに来たんだ?!」
将来の展望をお話に来ました。
「将来の展望……?」
少し興味ありげにミニクさんはおれの話に耳を傾ける。
俺は魔王討伐後のこの世界のあり方を話していく。
俺の望んでいる世界のことを……魔族、人間、獣人等が平和に暮らせる世界の話を……
「ふむ、話はわかった。相変わらず甘い考えの勇者だということがよくわかった。しかしその話に出てくるお前の望む世界は永久に訪れることはない!」
な、なぜ?!
「そんなことも分からんのか? それは、お前が魔王様を倒すことが出来ないからだ!」
ふむふむ。確かに確率で言えば俺が勝つ確率のが低いよ、しかし俺が勝てなくても、いつか魔王を討伐する誰かが現れる。 この世界はそのように出来ているからね。 その理を覆すのは今の魔王にはムリだし、この先エリクシアよりも強力な力を持った存在が現れるとは思わないけど?
「お主…… 神の理の話をするのか?! やはりお主は侮れん! とぼけた顔で、神を平気で語るお前は何者なのだ!?」
ん? そんなことは知ってるでしょ? 俺はエリクシアの旦那で、エリクシアの姉妹のアリーヤを倒すものだよ!?
「お主は自分が何を言っているのか分かっているのか? この世界の神の伴侶を語るとは驚きだ! 我らは神を信仰していないが、エリクシア様は我ら魔族にとっても神なのだぞ?! この世界の唯一神なんだぞ!?」
へ、へーそうなんだ? てっきり歴代の魔王を信仰してるのかと思ってた…… なら話は早いか? 神の伴侶である俺の意見は神の意見? ってことにはならないかな?
「なるわけないだろ! 我ら魔族をなめるでない! そもそも、お前のは自称だろうが!」
この人達の調査は肝心なところがいつも調査不足だよね……
ミニクさんも頭に血が登ってしまったようだし…… 話の持って行き方を間違ったな…… 本当に使えない情報網のおかげで大失敗だよ……
はぁ〜仕方がない、そろそろおいとましようかな……
次、会うのは魔王の城かな? 次回はこの街にはよらないから、直接魔王の城に向かうからね! そこでもまた今日の話をさせてもらうよ、その時までしっかりと考えてね。
じゃっ!
……。
「甘い勇者めっ! エリクシア様の伴侶であることなんぞとっくに分かっているわ! おしゃべり勇者めっ!こうでとしなければいつまでも帰らんではないか!」
ミニクは勇者が帰ったであろう方向を見て語りだす。
「なぜあの勇者は我等に気を使うのだ!? あやつの力を持ってすれば我等などなんの障害にも成らんと言うのに! 本当に甘い勇者だ! これでは儂の決心も鈍ると言うものだ!」
しかし伊織は知らない…… その昔イオリと同じ考えをした勇者がいたことを……
しかし伊織は知らない…… 人間と魔族はあいまみえないと言う過去があったことを……
人間たちは誰も知らない、勇者の提案により人間と魔族が平和に暮らしていた時期も確かにあったことを…… 平和な時間は長く続かなかったということを…… 勇者がこの世を去るまでの短い間だけだったということを……




