171.誰か俺を責めてくれと言ってみよう。
戻ってきました、サイナルヘ。
魔族の街から戻った俺達はすぐにマエリスの治療に取りかかる、俺の全身全霊をかけマエリスをもとの情態に戻すために。
……。
どうやらマエリスは意識はないようだ、レイリーの処置のおかげで死に至ることは無さそうだが、傷は深く内蔵にも傷があるのがわかる。
あの黒い稲妻でできた傷は治りが悪い、俺自身も体験済みなのでわかるが、俺の全力の聖魔法でも治りが悪い。
傷の治りが悪いことは承知の上なのに気持ちばかり焦ってしまい上手く魔法が使えているのか不安になる。
「イオリ様……」
レイリーの悲しそうな声に答えてあげることも出来ないほど焦っているようで……
しかし俺の焦りとは関係なく徐々にだが傷は治っていく、治療の途中でマエリスの意識が戻り皆安堵する……
そして一言……
「ねっ言ったでしょ、私が死ぬわけないって……」
俺は自分の不甲斐なさにうんざりした。俺が良からぬことを考えていなければ、レイリーの対応も遅れることなくマエリスも傷を負うことなく全て上手く行ったに違いないのだから!
「ふふ、イオリ君の魔法暖かいな……」
マエリスまだ喋らないで……
「すみませんでした、私が油断したばかりに……」
「ふふ、レイリーちゃんのせいじゃないでしょ? あそこで魔王が表れるとは誰も思わないんだし……」
そうだ、レイリーのせいではない!全て俺の責任だ! 俺ならきっと予測できたのだ! ミニクさんが魔王に報告しているなんて当たり前のことを見過ごしていただけなんだ……
「イオリ君どうして顔を見せてくれないのかな?」
いや…… 見せないのではなくて見れないのだ…… こんな傷を負わせてしまった自責の念から…… この子達を守ると豪語したのにこの有り様なのだ、会わせる顔がないというか……
「あぁー イオリ君の顔を見ないと死んじゃうかも〜」
マエリスは俺の顔をギュット掴み無理やり俺と目をあわす…… いや、まだ無理はダメだよ……
「そんな顔しないの! 私の大好きなイオリ君はそんな顔しないよ? 傷が治ったらお説教だね……」
「イオリ様……」
「旦那様……」
レイリーもラヴィーニャもひどい顔をしてる……
はぁー俺は一体どんな顔をしているのだろうか……? お説教してくれるのならぜひお願いしたいよ……
一体どれ程の時間が経過したのだろうか、マエリスの傷はほとんど塞がったころ、マエリスは少し疲れたと言い眠りについた……
治療も無事に終わった夜、俺は部屋で一人マエリスの看病をしている。
メイド達が後は任せろと言ったが、断固として拒否した。
すぅーすぅーと寝息をたてるマエリスを見て、安堵の気持ちと自分を責める気持とで俺の中の葛藤が渦巻いている。
このままマエリスが目を覚ましても、俺の事を責めないだろう、お説教だと言っていたがお説教もないだろう……
レイリーもラヴィーニャもメイド達ですら俺を責めないだろう……
誰か俺を責めてくれ!叱ってくれ! 頼む……
「私が叱ってあげますよ?」
あぁエリクシアか……
「イオリ、そんな顔をしていてはダメです! 普段のアホそうな顔の方がずいぶんカッコいいのですから! その子マエリスも同じ事をいうと思いますよ?」
全然責められてないのですが?
「そうですか? あなたは只の人間です、神の私でも、間違いがあるのですよ? その子マエリスも死んでいないのです、一回や2回間違えたところでやり直しはききますよ?」
いや、エリクシアはおっちょこちょいだし……
グハッ! 雷で撃たれたような衝撃が! 久しぶりの天罰は効くな! そうこういったお怒りを今の俺は求めているのです!
「イオリは求めていても、あなたの周りは誰も与えてくれませんよ? あなたは自分が思っているよりもこの子達に愛されているのですから。」
あは、こんなダメな俺をですか?
「そう、こんなダメな俺をです! 私を始めもこの子達もあなたの事が大好きなのです。自覚はあるのですか?」
……。
「どうやら、マエリスの目が覚めそうなので私は引っ込みますね。 最後に一つ、イオリあなたは私の伴侶なのですからシャキッとしなさい!」
俺もシャキッとしたいよ、でも今回の反省はしっかりとしておかないと、また繰り返す可能性もあるわけで……。
「う…… うっ…… あ、あれ? イオリ君?」
あっごめん起こしちゃったかな?
マエリスはゆっくりと上半身を起き上がらせる。
動くにはまだ早いよ?
「どうしたの? あっ!手っ!ずっと握っててくれたの? だからいい夢見れたのかな?」
今回は全て俺の責任だから、せめて看病くらいはと思ってね……
「はぁ〜 せっかくいい夢だったのに、起きてみたらイオリ君の元気のない姿とは……トホホだよ。」
……。
「はぁー もう!仕方ないわね。イオリ君!今回の件では悪い人は誰もいません! 以上終わり! 今後この話はしません! いいですね?」
良くない! 俺のせいでマエリスは傷を……
「ん? どこに傷があるんですか?」
服を捲って見せなくてもいいですから……
「ふふふ、エッチですねイオリ君は!」
えっ!見せてるのはマエリスだろ? うぉっ?
マエリスはぐいっと俺の顔を自分の胸で包み込むように引っ張り、一言だけ……
「今夜だけ許します、泣き言を言うことを……ね」 と
……。
あぁ、ありがと……。
自然に口から出た言葉は、ゴメンではなくありがとうだった……。
「……」
マエリスは無言のまま俺の頭を撫で続けた……。
マエリスの優しさに救われ、今夜は恥ずかしながらお嫁さんの胸で声を殺しながら涙を流した。




