129.勇者を引退してみよう。
やってまいりました、駄龍の住処へ。
残すところ夏希さんの問題だけとなったので、転移で駄龍の所へ飛びます。
騎士団の方々には「本当にもうやめて!ねっ?お願いだから……」と懇願されましたが、俺には返事ができませんでした……
だって、剣聖さんもレイリーもまた来ます!と嬉しそうに言うんだもん……俺にはそれを止めることは出来ないよ……
騎士団の皆様ともしばしの別れです、駄龍の居るところへ転移します。 駄龍は居場所をわからないようにとかなんとか言っていたが、バレバレなのです。
あの駄龍、俺を舐めすぎなんだよ! 一先ず、駄龍の下顎ベッドをアイツにぶつけてから俺達は転移しましょうかね?
う〜んと…… う〜んと…… ここか……ニヤッ ではベッドさん行ってらっしゃいませ〜
俺は駄龍にぶつけるべくベッドのみを転移させる。 「イタッ!」 ふっ、確かに俺の心には届いたぜ、お前の声がな!
では行きましょうか、駄龍のもとへ。夏希さん達は初めて会うと思うので、念のため援護魔法は一通りかけておきますね、それと気持ちをしっかり持ってくださいね。 一応は腐ってもドラゴンなので、頭は腐ってますけどね……ぷっ!
「イオリ様!メッ!」
くっ! 怒られてしまったか…… この仕返しはしなくてはなるまい、駄龍にな!
では皆様行ってきます! 「もうくるなー!」「頼むから来ないで!」「夏希殿のパーティーなら歓迎です!」 騎士団の叫びが聞こえますが、召喚獣を手に入れたらまた来ますね!
それまでしばしのお別れです、別れに涙は付き物ですが、そこまで涙をながすとは……俺達と別れるのが寂しいんですね……? 分かりました出来る限り早く戻ってきますね、では!
俺達の視界の空間がグニャリとなり、視界が真っ暗になる。そして目を開ければ、古代竜こと駄龍の目の前だ。
「えっ? これが? 伊織君がバカにしているドラゴン? えっ? えっ?」 夏希さんパーティーのメンバーは腰を抜かしている…… まぁ初めて見ればそうなるよね、だってこいつの顔キモイんだもん!
「おい!悪魔! お前だろこれぶつけたのは! それよりも、どうして儂の居場所がわかったんだ?」
あぁ〜うるさいな! お前は俺を舐めすぎなんだよ! そんな事よりもお前、この人の召喚獣になれ! これ命令な!
夏希さんこいつ頭は弱いですけど、まぁまぁ強いから取り敢えず、こいつでいいよね?
「はぁ? 何を言っておる悪魔? この儂にか弱いい人間ごときの僕になれと言うのか? ぶあはははは、悪魔の癖に冗談を言うとわな! 全く笑えんわ!」
今笑ってたじゃないか! やはり頭に異常が……?
「無理、無理、無理、無理。私には無理! 恐いよ恐すぎるよ! このドラゴンさんの前で立てる気がしないもん……恥ずかしいけどちょっと漏らしちゃってるし……」
見た目ロリ巨乳のお漏らしか……ふっ、俺の心には届いて無いようだ……よかった俺は変態ではないと証明されたようだ!
「そもそも、その小娘では儂を扱うことは出来ぬ! 召喚獣と言うものはな召喚士からエネルギーを貰い召喚されるのだぞ、この儂を召還できるほどのエネルギーがその小娘にあると思うのか?」
そうなんだ……じゃ〜お前が夏希さんにあう魔物連れてこればいいのでは? そもそも俺達はどうやったら召喚獣にできるのか知らないし……
「なっ!なぜ儂がそんな事をしなけらばならんのだ! 調子に乗るなよ悪魔め!」
駄龍は俺達を威圧するように睨みつける。 夏希さんが座り込んでいる地面が薄っすらと湿っている様子が見て取れるが、紳士の俺はスルーだ。
調子に乗っているのはどっちか、わからせてやる必要があるようだな、この駄龍が!
「こらっ! 二人ともやめなさい! もっと冷静に話し合いなさい! そもそもイオリ様では話になってませんので私達と交代してください!」
ぐぬぬ、また怒られてしまったではないか……
いいよ、いいよ、そっちはそっちで話して! こっちは世界樹さん呼んでドリアードの件を話すから! ぷいっ!
「はい、はい、イオリ様ナデナデしてあげますから、隅っこで静かにお話しててくださいね。」
なぜ俺が隅っこなんだよ、そもそも世界樹さんを今から呼ぶんだよ?静かにできるわけがないじゃんか……
じゃ〜世界樹さんを呼ぶから、世界樹さん知らないか? まぁ魔王みたいなもんだから、夏希さん達はお腹に力をいれて威圧感に耐えてね。 世界樹さん〜〜〜〜〜ベッドできましたよ〜〜〜〜
「ま、待って、これ以上は私達には無理〜〜〜〜」
「やっぽ〜イオリ君、ベッドできたって?どれ?どれ?見せて見せて!」
強烈な威圧感と共に軽い口調の世界樹さんの気配を感じるが、相変わらず姿は見えない。
夏希さん達は、ギリギリアウトか……? みんなの座り込む地面が色濃く濡れているし口から泡が出ている…… しかしこれも対魔王の練習と思ってもらうしかないかな?
それにしてもオタムさんのお漏らし姿、妙に俺の心に響く…… だが同時に俺の脳内にまだ早い!と警報が鳴り響いている。俺は脳内の警報を信じ、そっと扉を閉めることにした……いつか分かる日が来ないようにと願いをこめて……
世界樹さんも呼び出したことなので、ドリアードから貰った一振りの枝に呼び掛ける…… 呼び掛ける…… 返事がない……ただの屍のようだ……?
世界樹さんお願いします。
「ドリアードちゃんいらっしゃ〜い!」 新婚さんいらっしゃいの感じで世界樹さんがドリアードを呼ぶ…… 何故知っているんだ?
「はい!喜んで!」 意味不明な現れ方で登場したドリアード、ビビり方が半端ない……
そんなドリアードを可愛そうに思うわけで、かくかくしかじかと早めに説明を終えドリアードの同意を求める。当然世界樹さんのプレッシャーはドリアードに向かっている。
ドリアードは嫌そうな感じで、モジモジしているが、世界樹さんの「あ゛!?」の一声で快く同意してくれたようだ。当然報酬のチョコレートはきっちり渡すのでwinwinの関係になれることだろう?
どうして世界樹さんが俺に協力的なのかというと、まだ駄龍下顎ベッドを隠しているからであって、多分ドリアードと夏希さんには全く興味がないので早く話を終わらせたいだけなのだろう。
それでは、いよいよ駄龍下顎ベッドの登場なのだが、ここでひとつ問題が…… 俺的にはたいした問題ではないのだが、世界樹さん的には大問題なことがある。それは駄龍下顎ベッドの出来があまりに良すぎのだ、そして全く臭くない、いやむしろ寝るにはちょうどよい、ほのかに香る森林の匂い……
そのことを世界樹さんへ伝えるのが恐い…… だが伝えなくては話は進まない…… 案の定世界樹さんは怒り出す、「なんで、なんで臭くないのよーーー!」と……
あまりにも理不尽な言い分だが、これがこの世界に存在する神のお言葉なのだ…… 世界樹さん的には、駄龍の口が臭くて、ベッドをぶつけるところまでがひとつの笑いだったのだろうが、世の中そんなに上手くはいかない。
怒りの感情をさらけ出す世界樹さん…… 繰り広げられる駄神と駄龍の言い合い…… 一応俺達には気を使ってくれている様だが、俺がガッチリ結界貼ったり壁を造ったりしなければ死人がでるレベルの言い争いが目の前で繰り広げられている……
最終的には神である世界樹さんの神罰により決着がつき、駄龍が「もう歯を磨かないから許して……」と謝っている…… それはそれでどうかと思うが俺には何も言えなかった。
ふぅ〜 一通りの話も済んだかな……? では戻ろうか、訓練場へ……?
「「「待った!!!」」」 駄神・駄龍・夏希さんから待ったがかかる、何故だ?
まず、駄神の言い分だが、「今回笑ってない」というので、先日エリクシア様と共にレイリーに怒られた話をして事なきを得た。
次に駄龍だが、「ウルリカを連れてくるな!」と言われたが、そんなの知らん!と言っておいた。
最後に夏希さんなんだが、「私、勇者やめてお嫁さんになる!」と海賊王にでもなるかのような訳の分からない宣言をして、俺をじっと見る……
……。
よし帰ろうか! 剣聖さんはここに残る? そう? わかった、ちょくちょく様子見に来るね、では頑張って〜〜〜!
ぐぉっ!油断した! 夏希さんに、がしっと!両肩を掴まれ 身動きが取れない! さすが勇者! 無駄に身体能力が高いだけの事はある!
「私、優柔不断と勇者は今日で止める! さっきの二人の言い争いを見て、私には無理ってわかったから…… だからねそのことに気付かせてくれた伊織君のお嫁さんになる! 恥ずかしい姿も見られちゃったし、もう私は迷わない!」
あんぐりと口をあけ、あばあばと言ってしまう一同…… 世界樹さんだけは、何故か笑っている……
勇者として頑張ってもらおうと思った今回の出来事が、何故か勇者を止める決断をする切っ掛けになり、優柔不断ともお別れとな……? そして何故俺の嫁に……?
あぁ〜わかった! おっぱいにすべての栄養が行ってしまっておバカになったんですね? そうに違いない!
まったく理解が及ばない展開だが、俺の脇腹にはラヴィーニャの拳がめり込んでいる……
「さすがイオリ君ね! 最後に私の腹筋を破壊しにくるとは、完全に油断したあははははははは……」
駄神ことウルリカの笑い声のみが、その場を包み込む……
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