Ep12.小話集3 夏のある朝
過去に書いた拍手のお礼画面の小話です。
野営訓練で徹夜明けで第1師団基地に戻ったディアンが歩いていると、向こうから走ってくる女性がいた。
「ああよかった、マクウェル団長。第二師団で大きな怪我人が出たみたいで、今から援護に行ってもいいかしら」
ディアンはわずかに考える。
自分のところに応援の要請は来ていないから、うちの誰かが処理していてさほど大きな問題ではないのだろう。
一応、あとで詳細がくるはずだ。
「ああ。人手が必要なら連絡をくれ」
「ええ。それでお願いがあるんだけど」
彼女は、第一師団のメディカルスタッフのひとりだ。
経験も長く、ディアンにとっては母親のような年齢に近い。
実際団長とはいえ17歳の自分なんて、彼女に取っては息子のようなもの。
これも、ほぼ命令に近い。
断れるはずもなく、ディアンは頷いた。
白いカーテンの向こう、部屋にいるのはただ一人と聞いた。
ディアンは、カーテンの外から一応声をかけた。
「リディア?」
返事はない。今度は応えを待たずに、ディアンはカーテンをめくる。
そこには、真っ赤な顔をして唸る少女がひとり。
ディアンは横に添えられた椅子を探すが周囲にはなかった。
仕方なくベッドの端に腰をかけ、リディアの額に手を当てる。
「それなに?」
「俺の手だ」
リディアの目が開く、嫌そうに眉をしかめている。
熱を出して寝込んでいると聞いた。誰もいないから、しばらくそばについていてほしいと。
ディアンが断るわけがないと、決定事項としてよろしくねと彼女は去って行った。
「熱い」
「だろうな」
よく熱を出すのは、子どもだから。
自分はそうでもなかったと思うが、リディアはよく熱を出す。
38度か39度くらいだろう。
「ほしいものはあるか?」
「……ない」
目をぎゅっとつぶって苦しげな顔、希望をいってきたことはあまりない。
「眠れるか?」
「虫」
「?」
「夢に虫が出てくる」
途端に目尻から涙が溢れてくる。
「虫怖い、虫嫌だ、寝たくない………ごほっ、ごほっ」
咳き込む背をさする。
「興奮するな」
「むし、いっぱいくる。いやあああ」
「わかった、わかった」
起き上がって泣き叫ぶリディアをディアンはなだめる。
「俺と虫、どっちが怖い?」
顔を覗き込んで聞いてみる、リディアの真っ赤な目がディアンを見つめる。
「……虫」
わかった。ディアンはリディアの目を覗き込む。
「虫より俺の方が怖いの。俺がいる限り、虫は来ねえの!」
「でもくる」
「いいから寝ろ、追い払ってやる」
リディアを布団に押し込む、そうするとまたきゃーとなく声。
「落ちる、体が穴におちるの」
熱が出て平衡感覚がおかしくなっているらしい、落ちていく感じが怖いらしい。
「落ちない。俺が支えてやる」
ふとんに押し込んだリディアの横にディアンも 横たわる。
「俺が押さえててやるから落ちない、虫も追い払ってやる」
「なんで虫こないの?」
リディアの柔らかい髪を鼻先に感じながら、腕に抱え込む。
「………黒いから?」
黒いってなんだ、と思い自分の上着のことかウトウト考える。
「………そうだな」
添い寝をしながら、自分も睡魔に襲われてまぶたが重くなる。
やべえ、寝ちまうと起きようとしたら、熱を持った小さな指にしっかり上着をつかまれたままだった。
「仕方ねえな」
ディアンも諦めて、睡魔に任せることにした。
ヒロインが幼い?いやいや、熱出て弱っているので。
12歳に添い寝する17歳が書きたかっただけ。
「魔法師リディアと怖くて優しい仲間たち」の夏の朝と少し連動しています。




