Ep. 4 小話集1ーキーファ(実習後)
*設置してあるWEB拍手のお礼の小話です。
スマホでは閲覧できないので、時間がたったので一部公開にしました。
(現在、全話公開予定ではありません)
実習直後のお話です。
「あ、リディ。こっち」
せっかく、時間をずらして食堂に行ったのに。
――なぜいる?
筋肉隆々の百戦錬磨的な団員たちの中では、まだ若々しさが目立つ学生のうちの一人、ウィルがリディアを見て、軽く手を上げて呼んでいる。
リディアは軽く視線を流し見渡すが、食堂は満員で、そこが一番空いていてかつ向かいやすい席だった。
(仕方がない)
彼らは生徒だ。あまり露骨に距離を取るのはよくない。
なんで、愛称で呼ばれているかもわからないけど、一応席を取ってくれたのだ。
ありがたいと思わねば。
実習後の魔法師団施設内の食堂。
休憩まで教員と一緒は気まずかろうと、わざとお昼をずらしたはずなのに、まだまだ食べていたとは誤算だった。
リディアはミートボールのクリームシチューセットをテーブルに置いて、席の礼を言う。
気にした様子もないどころか、ウィルの意識の大半は、目の前の食事なのだろう。
小気味良いくらいにガツガツとスペアリブに齧り付いている。
「――お、リディア。久しぶり。お前、いい加減彼氏できたか?」
と、背後から昔の顔なじみの団員が背を軽く叩き、背後を通り抜けていく。
「ちょっと!」
リディアが振り返ったときには、すでに彼はだいぶ通り過ぎていた。
それどころか、リディアが口を開いたときには、もう聞こえない距離だ。
彼は答えが聞きたいわけじゃない、失礼なセクハラ発言をしたかっただけ。
リディアが結局何も答えず顔を戻したときには、生徒たちは笑いを噛み殺していた。
やっぱりなーという生温かい目で、嬉しそうに笑うのはやめてくれますか?
「リディア、やっぱり彼氏いなかったんだ?」
ウィルがニヤリと笑うから、リディアは彼を睨みつける。
「別に、彼氏がいなかったとは言っていない」
大学院でいなかったとは言っていない。
「は?」
ウィルがいきなり真顔になり、睨めつけてくる。
マーレンはヤンに視線を向け、ヤンが慌てて首を振る。
その後マーレンはいきなり個人端末を操作し始めて、指をせわしなく動かす。
リディアは全員を悠々と無視し、パンをちぎりスープに付ける。
その眼前に、マーレンが画面を突きつけてくる。
「お前の言うのはコレだろ。ジェフリー・ファース」
卒業セレモニーの時の彼の写真が突きつけられて、リディアは軽くのけぞる。
「が、キスの手前でお前がNOを出して終わり。その一ヶ月後に別れている」
リディアは無言だった。
椅子を軽くマーレンから離して、リディアは彼を遠い目で見つめ返す。
「な、なんだよ! ちょっと俺の配下が――」
(ちょっと怖くて、キモい)
ストーカーですか?
その気持ちが目に現れていたのだろう。
マーレンは、うっとうめいて肩を落とす。
「殿下。個人情報の利用と開示には十分に気をつけるようにお伝えしたはずですが」
ヤンの言葉にはツッコミたいことだらけだ。
(その前に、私の情報を取らないでほしいんですけど!)
ウィルが面白くなさそうに頬杖をついて、ちらりとリディアに目を向ける。
「――ていうか。アンタが自己紹介した時に『あ、こいつ処女だって』わかったけど」
リディアは無言でトレイを持って立ち上がる。
ウィルは見た目に反して真面目、と評価していたが前言撤回。
遊び人め!
しかも失礼だ。
「――先生、どうしたんですか?」
テーブルを離れようとしたリディアの前に、スラリとした姿勢のよい背の高いキーファが、通路を塞ぐ形で訝しげに見下ろしている。
彼は実習後にディアンに呼ばれていたから、これから食事なのだろう。
手にしているトレイには、ウィルと同じスペアリブと白米が山盛りに載っている。
結構大食漢のようだ。
「いいえ、その。私はあっちに行こうかなと」
彼は歯切れの悪いリディアに、すぐに事情を察したようだ。
「先生はこちら側に座ってください」
キーファはリディアを座らせて、斜めに椅子をずらして座り、その高い背で壁のように彼らの視線からリディアを塞ぐ。
なんだろう、この安心感。
リディアがそっと礼を告げると、振り向いたキーファは眼鏡の奥の瞳を微かに柔らく細めて笑った。
「いつでも。――盾になりますよ」
そして彼が視線を前に戻した時に、仲間に向けた視線をリディアは知らない。




