1話 転生したら盗賊に捕まりました
「うーん、まぶしいな…」
目を開けると俺は、太陽の光が降り注ぐ草原のど真ん中に寝ころんでいた。
「ここはどこだよ?」
大学進学を機に上京し一人暮らししていた俺、夏目たかしだが入学1か月後には大学に行くことはなくなり、親の仕送りで引きこもり生活を送っていた。そんな俺が、こんな太陽光降り注ぐ大草原にいる意味が理解できない。
「意味がわかんねーな…」
そう呟きながら寝起きで働かない頭を必死に働かせようとし、記憶を辿る。
たしか昨日は夜お腹が空いて近くのコンビニに行って…そうだその帰りに信号無視した車に轢かれたんだ。でもそれなら今はこんな場所で寝てないで病院で寝てるはずだろ…しかも体に怪我したような形跡もないし。
記憶を思い出しても現状の意味がわからないな。まあ、こんなところにいても仕方ないし、はやくこの草原を抜け出すか。
そう結論づけ、とりあえず人のいる場所を目指し何も考えずに歩き出した。
「勇者召喚失敗です…」
私はオーガスタ帝国王女ミカエラ・オーガスタ。魔王復活の兆しを観測し勇者召喚を試みるものの失敗してしまいました。確かに勇者召喚の呼びかけに応じ、魔法陣は光輝いたのですが、勇者が召喚されるはずの魔法陣の中心には何も現れませんでした。
「勇者が現れないだと…もうこの世界も終わりだ…」
「仕方ないだろう…我々の力でどうにかするしかない。とりあえず近隣諸国に連絡を取り魔王討伐のため協定を結ぶのだ。」
この場には元老と、国王がいたが勇者召喚失敗によりみな動揺した。
100年に一度白夜の日にしか行えない勇者召喚はそれだけ重要なことだったのだ。
これは私の責任です…どうにかして魔王と戦えるだけの戦力をみつけなくては。
勇者召喚されるはずっだったたかしはそんなことつゆ知らずオーガスタ王国とは正反対の方向に進んでいくのであった。
あれからしばらく歩いていると前方に馬車のようなものとその周りに人が集まっているのが見えた。
「ラッキー!さっきまでまったく人と遭遇しなかったのにあんなに集まってるよ。おーいそこの人~。」
久しぶりに人を見かけた喜びで俺はそこめがけて走り出した。
あれ?普段運動なんかしないのにずいぶん体が軽いな?そんなことに気を取られて気が付くのが遅くなったが集まっている人たちのもっているものを見て背筋が凍り足が止まる。
なんであの人たち剣なんて持ってるんだよ…。
「おい!まだ取り逃がしたやつがいるぞ。」
その集団の中でもひと際体の大きい男がそう叫び俺のほうを指さしている。
やばい。そう思ったもののびびって足が動かなくなっていた俺はなすすべなくその集団に捕まり馬車に放り込まれてしまった。
「なんなんだよこれ…。」
「にいちゃんも運がないな。」
理解が追い付かずに絶望していると隣にいた男が話しかけてきた。
「何なんですかあの人たちは?」
「あいつらは盗賊だよ。俺らをさらって奴隷商に売りつける気だよ。男は一生肉体労働、ならまだいいが魔法の実験台にされるかもしれねぇ…女はまあ大方性奴隷になるだろうな。」
あぁなるほど、やっと理解したよ。俺は現実世界で死んでこんなわけもわからない世界に転生してきたんだな…。まあ現世に思い入れもないから別にいいけど。こんな世界でも一生働かさせられるなら転生なんてしないで死んだほうが良かったな。
馬車の中には10人ほどの男女がいた。年齢はバラバラだが俺と隣の男以外はみんな女だ。
脱出しようにも鎖でつながれているし周りに何もない。下手なことしたら殺されるだろう。別に死んでもいいが痛い思いはしたくないから脱走はやめておく。
嫌なことばかり考えられなかったがふと現世で読んだ異世界ものの小説のことを思いだした。たしかあの手の小説では転生者は特殊な力を持っていたな。でも俺にその力があるのかわからないし…ステータス画面なんかがあればなぁ。そう考えたとき目の前にある画面が現れた。
名前 夏目 たかし
年齢 21
LV 1
HP 150
MP 582
STR 38
VIT 32
AGI 95
DEX 83
LUK 97
スキル
・鑑定
・借用
もしかしてこれ俺のステータス画面か?
スキルに鑑定があるから見れるのかもしれないな。
試しに隣の男も見てみよう。
名前 ゼニー・ロックバーグ
年齢 27
LV 12
HP 182
MP 28
STR 86
VIT 75
AGI 56
DEX 28
LUK 33
スキル
レベル12なのに俺と比べるとあまり強くない気がするな。やっぱり転生者はこの世界で強めなのか?
その他に捕まっていた女たちを見たがみんなレベルは10以下で能力も低め、スキル持ちはいなかった。
ためしに盗賊のも見てみるか。そう考えて馬車の隙間から見張りをしていた盗賊のステータスを見てみた。
名前 ランジ
年齢 19
LV 33
HP 280
MP 126
STR 312
VIT 388
AGI 254
DEX 122
LUK 219
スキル
やはりスキルはないがレベルも高いしステータス面ではかないっこない。しかもこれ以外にあと4人はいるのだ。逃げることはあきらめよう。そう思い俺は寝ることにした。