情緒不安定な私と、伝えたい気持ち
「ああああああああああ」
私は今、ベットに仰向けに転がってひたすら足をばたつかせている。
「ああああ、恥ずかしいいいい」
もう駄目だと、クッションをボスボスと殴るが、手ごたえの無さに思わず自分の頬をべしっと叩いた。
あの日以来、私はずっと情緒不安定だ。
だって思い返す度に恥ずかしくてしょうがない。
そもそも三枝くんが送ると言ったのを断った時、私は何を考えていたのか。
じっと住岡くんを見つめて、送ってほしいとねだったのだ。
住岡くんにはバイトもあるのに、私ときたらあんな風に無言の圧力をかけるだなんて!
浅ましいやつだと思われていたらどうしよう。
「それに! 好きなのがバレてたらどうしよう…」
あんなセリフを顔を真っ赤にしながら言ったのだ。
人の機微に聡い住岡くんなら察してしまうかもしれない。
「うう…フラれて会えなくなるなんてやだあ」
まだ言われてもいないのに、考えるだけで涙が出てきた。
だって、住岡くんはとびきりかっこいい。
お菓子を作るのが上手で家の手伝いをしててとっても優しいのに、それを鼻にかける事も無い。
成績だけよくたって、生まれつきの顔を褒められたって、それ以外に私に自慢できることなんか何もない。
住岡くんは、豊かだ。
彼は分かっていないみたいだけれど、住岡くんが見ている世界と私の見ている世界は大きく違う。
現実をしっかりと見ているはずなのに、彼の世界は美しく鮮やかに色付いている。
だって住岡くんが言葉を紡ぐたびに、私の見える風景が変わった。
彼に出会う前の私は学校に通うのが憂鬱だった。
友達と一緒にいれば楽しいけれど、心無い言葉を聞こえよがしに言われたり、ニヤニヤと顔や体をじっと見られたり断ってるのに何度もやってくる人たちと相対するのはひどく疲れる。
帰り道だってナンパが怖くて顔が見えないように俯いて歩いていた。
だから空が毎日どんな表情をしているのか、風がどんな音を奏でているのか、どんな香りを運んでくれているのかなんて全然知らなかった。
コンクリートを突き破る雑草の強さや、少しずつ色を変えていく植物たち。
古びた用水路に流れる水の音や、夕方の住宅街に広がる晩御飯の匂い。
どうでもよかったものが愛おしくなった瞬間に、私の心も鮮やかに染まっていった。
不思議な形の木を見るたびに、綺麗な石を見つけるたびに、住岡くんを思い出した。
これを見た彼が何て言うの楽しみでしようがなくて、一緒に面白いねって、綺麗だねって、楽しいねって笑いあえたらいいのにと思うようになった。
好かれたり嫌われたりする事だけが日常だった、私の狭い世界の扉を開けたのは住岡くんだ。
そんな彼をどうして好きにならずにいられるだろう。
一緒にいれば学ぶことばかりだった。
誰かを喜ばせる時の言い方や、さりげない気遣いの仕方。
困った人に対しての、感情の置き方。
話していてわかるけれど、彼はとっても大人だ。
顔が良かったとしても、こんな薄っぺらな自分を好きになってもらえる自信が無い。
だけど心の奥底では、あの時の住岡くんの言葉が場を和ませるためだけのものじゃなくて、本心なんじゃないかと期待してしまう。
同じように、住岡くんが私の事を思ってくれているなら、どれだけ幸せだろう。
そう思ってしまうと、私は自分の気持ちを抑えられなかった。
きっと次に彼の顔を見たら、私は言ってしまう。
あなたがどうしようもなく好きで、ずっと隣にいたいのだと。