情緒不安定な僕と、伝えたい気持ち
「……はああああ……」
僕は今、一心不乱にガシャガシャと生クリームを泡立てている。
「うううううう……かわいい……」
さらに、ああもう、と、乱雑に泡立てた生クリームにカスタードクリームを追加した。
僕は花岡さんと和希が初めて会った日から、時折情緒が不安定になる。
それというのも、和希が帰った後の出来事が、後になってからじわじわと僕の心を乱すからだ。
あの日、和希が苦手だろうと言った僕に、花岡さんは申し訳なさそうに俯いた。
だから僕は慌てて気にする必要なんかない、むしろ無視していいと言った。
問題はその後だ。
僕はついうっかり「今日だってゆっくり二人で話したかったのに、邪魔されて怒ってるくらい」などと本音を漏らしてしまった。
うっかり言っちゃったな、と思った後だ。
“あ、わたし、も……もっと二人で話したくて、だから送ってくれるって言ってくれて、嬉しい、です”
これを、その、耳まで真っ赤になりながら花岡さんは言ってくれた。
その時の僕は恥ずかしさと混乱でうまく情報を処理できず、とりあえず花岡さんを送った。
道中は顔を見る事も出来ず、なにを話していたのかも思い出せない。
次の日も、まだよくわかっていなかったと思う。
思い出すとボーっとしてしまう感じだった。
そしてその翌日、突然あの時の顔を真っ赤にした花岡さんの顔が浮かび上がって、いてもたってもいられなくなった。
言われた言葉や、彼女の潤んだ目が忘れられない。
だってあんな嬉しいことを、あんな顔で言われて戸惑わないわけがない。
ああああああああなんだろうこれ、わけが分からない。こんなのは初めてだ。
もう本当に自分で自分を制御できなくなった僕は、考えを整理するようにとりあえずスコーンを焼いた。
それでも気がおさまらなかったので、スコーンにつけるジャムも作った。
でもやっぱりおさまらないのでパンを焼き、焼いたパンでサンドイッチを作り、小さなケーキを作った。
朝からテーブルに完璧なアフタヌーンティーセットが出来上がっている光景に両親は驚いていたけど大層喜んだ。
父からはたまに喫茶店でも作ってくれとせがまれ、僕は放心状態のまま頷いた。
僕は自分が理性的な方だと思っていたけれど、そんなことは無かったのかもしれない。
こんなに自分を抑えられないほど走り出したい衝動に駆られるのは初めてですごく疲れた。
徹夜明けで少しだけ落ち着いたけど、その後もぶり返すように走り出したい衝動が沸き起こった。
その度に僕は大量のお菓子や料理を作ってしまい、両親や和希を喜ばせた。
みんな喜んでいるからそれはいいとして、僕は疲れ切っていた。
受験勉強とかどうやったらいいんだ。このままじゃ落ちてしまう。
こうしてシュークリームを作り出したのもそれが理由だ。
僕は、その、平凡な人間だ。
だからこんな考えは気のせいとか、自意識過剰とか、おこがましいとか、そういうのだ。
だって、そんな、もしかすると花岡さんも、僕を好きでいてくれるんじゃとかあああああああああああああああああああああああああああああああ
どうしよう。シュークリームが焼きあがってしまった。
そうだじゃあ次はサブレを作ろう。どうせなら形も凝ろう。
バラの花びらを再現すればすぐに作り終えないで済むかもしれない。
そんなわけはない、でもまさかもしかして。
これが僕の混乱の大きな要因だ。
僕だけの感情ならここまで持て余すことも無かったのだけれど、あの時の花岡さんの可愛さは常軌を逸していて天使みたいで芽吹いたばかりの花のようでもう自分でも何を言っているのか分からない。
どうしてあんなに花岡さんは可愛いんだろう?
ただでさえ何もしてなくても可愛いのに、あんな、だってあんな、そんなこんな……
だって、すごく、嬉しいんだ。
自分を制御できないし、苦しいし、転げまわりたいし、駄目だったらと考えるだけで辛いけれど。
例え気のせいだったのだとしても、伝えたくてどうしようもないんだ。
押し付けたくなんかないのに、怖がらせたくないのに、居場所を奪いたくないのに。
自分勝手だと思っているのに。
きっと次に君の顔を見たら、僕は言ってしまう。
君がどうしようもなく好きで、ずっと隣にいたいのだと。