不機嫌だったはずの私と、住岡くんの幼馴染
二人で大きな石にお祈りしてちょっと間を置いて、私はいつものように元気を貰いにはなやへ向かった。
相変わらず優しい笑顔の住岡くんは、私の来店を喜んでくれた。
だけど、今日はいつもと少し違った。
「きちゃった」
住岡くんの幼馴染らしい男の子が突然現れたのだ。
苗字は確か三枝くんだったけど、下の名前を思い出せない。
住岡くんが何度も呼んでいたはずだが、住岡くん以外の情報をシャットアウトしていたせいで記憶に齟齬が生じている。
そう、私は住岡くんの幼馴染があまり好きではない。
三枝くんの顔はかっこいい。学校でもさぞかしモテるのだろう。
全身から自信のようなものが溢れている。
女の子が自分を好きになるのは当然と思っているタイプだ。
私はそんなタイプの人が苦手だ。
彼らは何故か決まって「俺と君が付き合うのは自然な事だろ?」と言外に言ってくる。
私と言葉を交わしたこともないのに、顔を見ただけでそう判断するなんてどうかしている。
ただ、良い事もあった。
いつも物腰の柔らかい住岡くんが、幼馴染の彼と話すと少しだけぶっきらぼうになるのだ。
穏やかな住岡くんや、少し冗談を言って笑う住岡くんしか知らなかった私は、新しい彼の一面を見て嬉しくなった。
だってあの住岡くんが、棒で人の頭を叩くなんて!
なんだかまた一歩住岡くんに近付けた気がして私は思わずへらっと笑ってしまった。
笑ってから、緩み切った顔をしたと自覚して恥ずかしくなったけれど、ココナッツムースのおいしさに恥ずかしさは霧散してしまった。
帰り際、何故か三枝くんが私を送ると言い出した。
言葉を濁さずに言えば、嫌だ。
気が付いたら「けっこうです」と口から出ていた。
しかしどういったメンタルをしているのか、なかなか諦めてくれない。
それに送ってくれるなら住岡くんがいいに決まっている。
私は無意識に住岡くんをじっと見つめていた。
今日はほとんど二人きりで話を出来ていない。
もっと一緒にいたい、そんな事を考えていた。
すると住岡くんは探るように私を見つめてふわりと笑った。
「僕が送るよ」
「うん」
またしてもいつの間にか返事をしていた。
私の脳は口に直結しているのかもしれないと思いつつも、嬉しさに頬が緩む。
三枝くんは「なんだよ! 俺は邪魔ものかよ!!」と不貞腐れたように店から出て行った。
「あ…」
酷い断り方をしたあげく存在を忘れていたのはさすがに失礼だったかもしれないと彼が去ったドアを見つめていると、住岡くんが「大丈夫だよ。明日ケーキ作ってあげたらすぐに機嫌直すから」と笑った。
「それよりもごめんね。和希、苦手なタイプでしょう?」
見抜いたような問いかけに私は顔を赤くした。
「ごめんなさい…」
なんだか住岡くんの友達を悪く言ったようで、罪悪感がこみ上げる。
どうしよう、住岡くんに嫌われてしまう。
ああ駄目だ。今も自分の事しか考えられない私は、最低な人間だ。
ちょっと泣きそうになって俯くと、住岡くんは慌てたように手を振った。
「あ、違うよ、違う! なんにも気にしてないからね! 和希は男友達としては悪い奴じゃないんだけど、女の子に対しての振る舞いは僕も思うところがあるんだ! だから花岡さんに合わせるつもりなかったのにあいつが!」
「……ほんとう…?」
「当たり前だよ。これからも無視していいから。その前にできるだけ合わせないようにするけどね」
不安げに私が見上げると、住岡くんは「それに」と続けた。
「僕の友達だからって無理に仲良くする必要なんてないよ。今日だってゆっくり二人で話したかったのに、邪魔されて怒ってるくらい」
“邪魔されて怒ってるくらい”
何気なく言われた言葉に、私は顔を真っ赤にした。
和ますために住岡くんは言ってくれたのかもしれないが、好きな人からこう言われて嬉しくないわけがない。
「あ、わたし、も……もっと二人で話したくて、だから送ってくれるって言ってくれて、嬉しい、です」
この喜びを伝えようと頑張って言葉を探すが、なかなかうまく話せない。
耳まで真っ赤になっている自覚があるだけに、恥ずかしさも倍増して住岡くんの顔が見れない。
「……そっか」
「はい……」
ちょっとの間、奇妙な間が流れる。
なんだろう、むず痒いような、転げまわりたいような、この感じはなんなのだろう。
「じゃ、じゃあ、行こうか」
「はい。よろしくお願いします」
帰り道は、恥ずかしさで結局住岡くんの顔が見れなかった。