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面倒な同級生と、以心伝心な僕たち

その日の授業が終わってすぐ僕は美月を迎えに行った。

美月のクラスを覗いてみると、帰ろうとする美月に男子生徒と女子生徒が話しかけているのが見える。

あまり歓迎はしていないようだと美月の笑みを見れば分かった。それどころか、少し怒っているみたいだ。


「美月、帰ろう」

「あ!大成!」

先に約束を取り付けてたし、何より美月が迷惑そうだったので僕は迷わず美月に声を掛けた。

その瞬間、美月の表情がパッと華やぐ。こんな時は自惚れでなく本当に自分を好いてくれてるんだなと思ってしまう。

お互い好きあって付き合ってると分かっていても、それを実感できるのは素直に嬉しい。


「迎えに来てくれたんだ。ありがとう」

「うん」

はにかみながら美月が小走りにやってきた。あまりの可愛さに口元が緩んでしまう。

しかし、廊下でニコニコと顔を合わせる僕たちになぜか先程の男女が寄ってきた。


「住岡くんさ、最近女の子にモテて勘違いしてるらしいじゃん。花岡さんがいるのに調子に乗ってたら痛い目見るから気をつけた方がいいよ」

「そうそう。こないだ見た時、女子との距離が近くて驚いたもん俺。こんな綺麗な子と付き合ってて浮気とか正直ないわ」


突然なんか始まった。


言われた僕は、きょとんとして2人を見つめた。

顔に見覚えはないし、話したこともないはずの同級生。美月からも特に話を聞いたことはないはずだけど、なんでちょっと美月と親しい人ポジション風で僕に話しかけてくるのだろうか。


「モテた記憶も調子に乗った記憶も女子に近寄った記憶も浮気した記憶もないんだけど、なんの用かな?そもそも僕は2人が誰かも分からないんだけど」

面倒そうな2人だったので、僕はできるだけ語気を強めて微笑んだ。

堂々としている僕に怯んだのか一瞬挙動不振になりはしたが、2人はすぐに気を取り直して僕を睨みつける。


「だってミサキが言ってたし。ちょっとふざけて声掛けたら住岡くんがすぐ勘違いしてきたって。自分は相手にはしなかったけど、他の子は怪しいから花岡さんにも忠告した方がいいって」

「俺もそう聞いた。しかも住岡、実際女子と一緒にいたろ。怪し過ぎるっつーの。花岡さんと付き合ってるくせに不誠実だろ」

「はあ」

本当に何を言われてるのか理解できなくて、僕は思わず気のない返事をしてしまった。

そもそもミサキさんとは誰なのか。どこから現れたのかミサキさんは。

そんな事を考えていると、なぜか美月が後ろで笑った気配がした。しかしとりあえず今は置いておこう。


「それで?」

「え?」

「は?」

「それを僕に言って、2人はどうしたいの?何を言ってほしくて、何をしてほしいの」

「何って…」

「だから調子に乗らない方がいいって忠告を…」

僕の問いかけが予想外だったのか、途端に2人がしどろもどろになる。


「うん。だから、忠告をしてどうしたいの?何が目的?僕にどうして欲しいのかをはっきり言ってくれないと分からない。僕に調子に乗るなって忠告した結果、何がどうなる事を望んでるのかちゃんと言葉にしてくれないと、何も分からないよ」

まだ帰っていない生徒がそれなりにいて聞き耳を立てられてるし廊下の端とはいえ固まって立ってなきゃいけないのが申し訳なくて、手短に済ませたかった僕の語調が少し早くなる。


「え、だってそんなの花岡さんがかわいそうだから…」

「そうだよ。お前が調子にのると花岡さんが傷つくんだよ。だから俺たちは親切心で…」

モゴモゴと結局は似たような事しか言わない2人に僕はため息をついた。

「答えになってないよ。それに2人がどうして僕が浮気してるって決めつけてるのかも分からないし…」


因みに横目で見た美月は非常に冷ややかな表情を浮かべていた。当たり前だ。ありもしない気持ちを勝手に代弁されて喜ぶ人間はいない。

あまり見ない顔をしている美月も魅力的だけど、僕はやっぱり美月の笑顔が見たいのだ。

そう思って、僕は美月に笑いかけた。


「美月、ごめんね?」

「え!?」

僕の突然の謝罪に驚いたのか、美月の肩がびくりと揺れる。それが小動物みたいでとても可愛らしい。

「だってこんなに美月のことが好きなのに誤解されるなんてさ。愛情表現の不足かなって」

言いながら美月の顔を覗き込むと、美月の顔が真っ赤に染まる。

「そ、そんなことないよ!それなら私だって足りないから誤解されちゃったのかもだし」

「美月からはいつも充分にもらってるよ」

「それなら私だって!」

美月と惚気るように言い合ってから、ポカンと口を開けて固まる2人に向かって僕は微笑んだ。


「2人とも、気にしてくれてありがとう。でもこの通り僕は美月に夢中だから安心してほしい。それに2人の問題は2人で解決するから、心配しないでくれると嬉しいな」

それじゃ、と。相手が何かを言い出す前に2人に手を振りながら、僕は美月の手を取って歩き出した。悪目立ちしていたし、早々に撤退するべきだろう。

呼び止める声がしなくてちらりと振り返ると、2人はまだ硬直しながらその場に立っていた。





早足で校内を出てしばらく歩いて、僕たちはようやく一息ついた。


「なんか変なのに絡まれちゃったね」

「うん。実はこの間もあんな風に絡まれたの。その時は流したんだけど、今日はしつこくて」

「そうなんだ。美月のクラスメイトだから僕も適当に流しちゃったけど、何かあったらちゃんと言ってね」

「ありがとう」

心配する僕に頷くと、ふと美月は何かを思い出したように「ふふ…」と笑いだした。

「どうしたの?」

「……あのね、さっき大成あの2人に「はあ」って返事したでしょう? 初めての時、私も同じようなリアクションしちゃったの。最後の断り方も似たような感じだったから」

「えっ!」


なんてことだ。美月もあの気のない返事をしていたというのか。しかも断り方まで被っていたと。そういえば「はあ」と言った時、美月から笑った気配がした事を思い出す。

「僕たち、意図せず同じ反応してたってこと?」

驚きながらもその光景を想像すると、なんだかおかしくなってきて僕は思わず吹き出した。

「そうなの。だからなんか不思議でおかしくて」

「そっか…それは、うん。確かにおもしろいね」

「ね」

声を上げて笑いながら、僕はなんだか不思議な気持ちになった。

だってこうして2人で笑いあっていると、先ほどの厄介な出来事も悪くないものに思えてしまう。

彼女といれば、どんな困難でも笑いながら乗り越えられるんじゃないかと思ってしまう。


ただ、それでもやっぱり何事もなく過ごせるのが1番なので、願いの叶う石を通りかかった時に「変な人が絡んできませんように」と2人で祈ったのだった。

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