この先の進路と、悩んでる僕
面倒事はあるけれど、それなりに穏やかに日々は過ぎている。だからといって、呑気にしてもいられない。
高校2年ともなれば、進路について悩まなければならないからだ。
とは言っても、僕のしたいことははっきりしている。父が作ったはなやを継ぐことだ。
これに関しては中学の時から父に相談していて、責任を持って自分の力でやっていけるなら構わないと約束をもらっていた。
現状は道楽で開いている店で儲けはあまりない。はなから稼ごうとしていないのだから当たり前だ。
僕の場合は道楽ではなく食べていかなければいけないから、今のままではダメだろう。
バイトの人はいるけれど、料理担当は母でスイーツ担当は僕。アフタヌーンティーセットなんかも最近では出しているけれど、将来的にはどちらもこなせるようになりたいと思いつつ、スイーツに集中した方がいいのか悩んでもいる。
それにはなやを継ぐ前に、他の飲食店でも経験も積んでみたい。ご飯は美味しいものの、あくまで趣味で作られたはなやでは学べることは限られている。
「大学か専門学校かどうしようかな」
両親からはどちらに進んでも構わない、学費に関しても心配するなと言われている。
家は金銭的に余裕のある方だから、学びたいことを学べる環境がある程度整っていた。こういう時、本当にありがたいなと思う。
「一度美月にもちゃんと話さないとな」
僕たちは付き合っているけれど、お互いの進路に口を出すことはない。どれだけ好き合っていても個人である事に変わりはないからだ。
ただそれで話をしないというのは嫌だった。僕の中の未来には、はなやも美月も当たり前に存在している。
だから彼女に自分の進路についてきちんと話しておきたかった。
明日ははなやが休みだから、彼女に予定がなければ放課後に誘ってアフタヌーンティーを傍らに話をしないかと連絡してみると、すぐに「行きたい!」と返事が来た。
楽しみにしてくれてるのが文面から伝わってきて、どんなセットにしようかと頭を働かせる。
スコーンはプレーンにして、リンゴがあるからりんごのジャムを作ろう。クロテッドクリームの在庫も大丈夫なはずだ。
サンドイッチは一つはたまごにして、もう一つは夕飯の余りの鶏肉を使って照り焼きチキンにしよう。パンは米粉を使って少しもちっとさせたい。
ケーキは試作中のチョコケーキと季節限定で出している桃のタルトがいいかもしれない。
夕ご飯が食べられなくなったら困るから、スコーンもサンドイッチもケーキも小さめなものがいいだろう。クッキーは作り置きがあるから大丈夫なはずだ。
「あ、父さんと母さんもいるかな」
台所に向かいながら居間にいる母と書斎にいる父に声をかけたら即答で「食べる。朝がいい」と返事がきた。
両親の分は通常のサイズを作ることにして、明日に向けての下拵えを始めた。
材料を混ぜていると、楽しくて頬が緩む。やはり自分はこうした作業が好きなんだろう。
それを食べた人が美味しそうにしていたら、もうどうしようもなく嬉しい。そう考えると、やっぱり褒め上手な美月は僕を喜ばせる天才なのかもしれない。
「喜んでくれるかな」
パンの生地を捏ねながら、僕は彼女の笑顔を思い浮かべた。