平凡な僕と、美しい彼女
僕の彼女はとても美しい。
光沢を帯びたような、透き通る白い肌。
整った鼻筋に、愛らしい唇。
真っ直ぐでサラサラの黒い髪。
長い睫毛に縁取られた大きな黒の瞳は吸い込まれそうなほど魅力的だ。
彼女が歩くだけで男女問わず誰もが振り返る。
とびきりの美少女で、僕の彼女。それが花岡美月だ。
これは自慢だけれど、彼女は顔だけでなく頭もいい。それに運動もそこそこできる。
料理が少し苦手だけれど、それもギャップがあっていいんじゃないかなと思っている。
何より性格がとても可愛い。僕を見つけると嬉しそうにはにかむところはもっと可愛い。
自慢ばかりだけど、本当に彼女は素敵なんだから仕方ない。
対する僕は、どこをどうとっても平凡な高校生だ。
見た目は普通、というか少しだけふくよかかもしれない。平均体重より4キロくらい多いくらいだ。
成績も、中の上。体育も10段階で6。
あ、でも料理には自信がある。これは実家が喫茶店をしていたから影響されたのもあるし、食べるのが好きなのもある。
でもまあ、やっぱり僕は平凡な人間で、僕はそんな自分も、この人生も嫌いではない。
けれど人間というものはなんやかんや厄介で、平凡な人間と特別な人間を分けたがる生き物だ。
「おいデブ、早く美月様と別れろって言ってんだら」
「マジでむかつくんだよ死ねよ」
「釣り合ってないってわかってんだろ」
僕に話しかけているのはクラスの違う男子たちだ。
僕は彼らの名前も分からないが、彼らは僕を知っているらしい。
当然だ。僕は“あの花岡美月の彼氏”なのだから。
彼らや、ほかの人間によると“特別可愛い彼女”に“平凡な僕”は不釣り合いなのだという。
僕はふん、と首を傾げて鞄から小さな袋を三つ取り出した。
「これあげるよ」
「ああ?」
「んだよコレ」
僕が一人一人に袋を渡すと、彼らは困惑したように受け取った。
「自信作のチョコクッキーなんだけど美味しいから食べてみて。美月とは別れられないし、そのお詫びにね」
それだけ言い終えると僕は彼らの前から去った。
通りすがりで話しかけれただけなので、困惑しながらもすんなり道を通してくれる。
今回焼いたチョコのクッキーは結構な自信作だ。
サクサクホロホロ、大粒のちょっといいチョコチップが口に含むととろけていく。
次は紅茶のクッキーを焼きたいなと考えながら僕は足を進めた。
「大成」
「美月」
教室から出てきた彼女は僕を見つけると顔を綻ばせて駆け寄ってきた。
出会ってからもう三年ちょっとは経つけれど、今でもこの笑顔が一番好きだ。
「今日はバイトの日だよね。行ってもいいかな?」
「もちろん。新作のケーキがあるから食べてほしいし」
実家でやっている喫茶店で僕はバイトをしている。
喫茶店自体、両親の道楽の延長なので実は結構自由な感じだ。
父の本業はそこそこ売れてる小説家で、母は人気の料理研究家である。
父は物語に出てくるような気まぐれな喫茶店が欲しいと喫茶店を開いてしまった。
バイトを好みのコーヒーを淹れるまでに育て上げ、料理は母が作る。
僕もここ数年でスイーツを作ったりしていた。
これが結構好評で、なかなかいい収入にもなっている。
ちなみに美月は、僕の作るスイーツのファンだ。
「やった!」
軽く跳ねて喜ぶ美月の姿を、僕は眩しく見つめた。
不釣り合い、そんな言葉はいくらでも聞いたし、僕が相応しいと思っているわけじゃ無いけれど。
彼女を笑わせる事ができるなら、それでいいんじゃないかと思う。