エピソード2-2
「……もうすぐ到着」
魔界出身のレミィが到着をお知らせする。
三人を乗せたヘリは現在、魔界上空を飛行中。何も問題は発生していない。眼下には青々とした森林地帯や緩やかな草原地帯が広がっていた。
フロントガラスから地上を見渡したミキが呟くように言った。
「すごい緑が生い茂ってるんだけど。魔界ってもっと毒々しい感じじゃないの?」
「……それは偏見。大体はこんな感じ」
「なんだぁー、普通」
「……南西には、空も陸も赤黒い場所があるって聞いた」
魔界には大きく分けて四つの地域がある。
魔術師が多く集まる、魔術の発達した北部。魔界全体の管理・調整を行う行政地域の中部。半人半魔――通称『魔人』や、魔物が集まる南東部。そしてレミィの話にも登場した、赤黒い謎多き土地の南西部。この四つの地域である。
それからもヘリは順調に飛行を続け、ついに目的地に到着した。
「これが、魔術の都……」
視界に入ってきたのは、土色の建物。多くは住居用と思われる一般的な家屋だが、その間の各所には尖った屋根を持つ塔がそびえ立っていた。
街の右側には独特な長方形の学校のような建物がある。そして街の奥には、ひときわ目を引く大きな城のようなものもあった。
「どこに着陸しますか?」
エヴァが訊いてくる。
「……あの辺りが良いと思う」
ヘリは街の入口からやや離れた、街道からも遠い平地の上空で停止し、ホバリングに移行した。それから徐々に機体の高度を落とし、無事に魔界の地に降り立った。
人目に注意しつつ、ドアを開けて三人はヘリを降りる。柔らかい草の感触が靴底から伝わってくる。
穏やかな風が頬を撫で、澄み切った空気を感じた。
「……ボス」
「ん、何?」
「……一応、人払いしとく?」
レミィが提案したのは人払いだった。人払いとは、つまりヘリに他人を近づけさせないようにすることだ。言われてみれば確かに、偶然このヘリに接触して発見される可能性はゼロではない。
「お願いしてもいい?」
「……了解」
レミィが地面に魔法陣を描き、ヘリの着陸地点周辺に人払いの魔術を施す。
「……完了」
「ありがと。さぁ、行くわよ!」
先陣を切るのはもちろんミキ。レミィとエヴァがそのあとに続く。
街の外周は高い壁で囲われており、中に入るには開いた大門を通るしかない。三人は徒歩で入口の門まで向かう。二台の馬車が横並びで通ってもまだ余裕のある大門だ。
特に検問などはなく、すんなりと街に入ることができた。
「すごいすごい」
ミキが楽しそうに呟く。
魔術の都ロンドール。石やレンガ、木材で組み立てられた家屋が軒を連ねる街。そして行き交う人々の多くが、レミィと似たローブを身に纏っていた。
「レミィってここの出身なの?」
「……違う。ここには魔術を学びに来ていただけ。出身は中部のレティシア」
「へー」
レミィの話に反応しながら、ミキはふとエヴァを見た。すると彼女の様子が少しおかしい。しきりに周囲を見回している。キョロキョロしていた。
「どしたの?」
「私、浮いてないですか?」
「え?」
「魔界に天使がいるのですよ。絶対に浮いていますよ私」
三人の中で一番大人びたエヴァは、意外にも三人の中で一番小心者なのだった。
「……珍しいのは間違いない」
地元民のレミィにもそう言われてしまう。
「そう、ですよね……。うぅ……」
「大丈夫、あたしだってこんな姿だから」
ミキは自分のセーラー服を指差す。
「気にしない気にしない。はい、復唱」
「気にしない気にしない……。……やはり無理です!」
結局、天使として少し人の目を集めることになった。たまに面倒くさいお誘いの声を掛けられたりしたが、適当にミキとレミィがあしらいつつ進む。