サイドオプス1
サイドオプス1 ヘリと魔術加工
エヴァは黒く塗装がされたヘリを見て、感慨に耽っていた。
自分がこれを操縦して、ここまで来たのだ、と。
天界にはヘリや自動車など、技術でできた乗り物が存在しない。なぜなら、飛べるからである。エヴァを含め天界人の多くは空を飛ぶことができる。それなりの速さで飛べるため、移動の技術が発達しなかったのだ。
その環境も相まって、エヴァはヘリを操縦するということに人並み以上の感慨があったのである。
「エヴァが神妙な顔でヘリを眺めてるんだけど」
そんな彼女をミキとレミィは眺めていた。
「……それで話は何?」
「いや、ヘリについての話なんだけどさ。飛んでる時の音ってかなり大きいよね」
「……うん」
「音で変に目立ちたくないんだよね。どうにかならないかなぁ」
ミキは期待を込めた眼差しでレミィを見る。これはあからさまにどうにかしろと言っている。レミィは小さく溜め息をついてから、少々困った依頼主に返答した。
「……音が外に出ないようにすることは可能」
「さすがレミィ! それを今からお願いできる?」
「……了解」
魔術師レミィがヘリに向かって歩き出す。ミキもあとに続いた。
いつの間にか隣に二人が立っていることにエヴァが気づく。
「あら、どうしました?」
「ヘリの爆音を何とかするのよ。目立つでしょ?」
「確かにあの音は目立ちますね」
「だから、何とかしようかなって」
「それならいっそのこと、姿も外から見えなくしてしまうのはどうでしょうか」
「それもいいわね。レミィ、それもできる?」
「……たぶん可能」
ミキとエヴァが会話した結果、注文が一つ増える。このまま四つも五つも増えたりしないだろうか。……そうは言っても、結局はやるしかないのだが。
レミィはさらにヘリに接近する。閉じられた昇降ドアの、その黒い外装にそっと触れた。その材質を感じ、ヘリの大きさを目測し、頭の中にヘリを構成していく。
そんなレミィの姿を、ミキとエヴァは不思議そうに見つめる。魔術師ではない二人には、彼女が何をしているのか見当もつかなかった。
レミィはヘリを把握すると、今度は魔術の組み立てを頭の中で開始する。必要な魔法陣の大きさと形状、付加する魔術文字を考える。
「……ん」
魔法陣の組み立てが完了すると、レミィは右手を持ち上げた。人差し指を立てる。すると、その人差し指の指先に青白い光が現れた。
その青白い指先でヘリに触れ、腕を動かす。ヘリの黒い外装に青白い線が引かれていく。青白い線は次第に円と三角形、四角形が複雑に組み合わさった魔法陣へと変化した。
最後に魔法陣の内外に魔術文字を付加し、魔術はめでたく完成となる。その瞬間、魔法陣がひときわ強く輝いた。
「おお!」
魔術が完成する様子を初めて見ることができたミキは思わず声を漏らす。
魔法陣の輝きはやがて弱まった。ヘリのドアの位置に、魔法陣は薄くその姿を残している。まるでマークのようだった。
レミィはミキたちの方を向いた。
「……完成」
「ありがとうレミィ!」
「さすがですね」
「……この魔術で自分たち三人以外からは、姿も見えないし音も聞こえない」
「これで一段と行動しやすくなるわね」
そこでミキはふと気づく。
ヘリのプロペラの回転音は、自分たちの会話の邪魔にもなっていることを。
「ねぇ、レミィ。ちょっと相談があるんだけど……いい?」
「……う」
ミキのその言葉に、さすがにレミィも気づく。
その後、魔法陣が改良されたのは言うまでもない。