エピソード1-2
食料を得るあたって問題となったのは、どこで何を調達するかというものだった。
この世界には、大きく分けて三つの領域がある。北の人間界、西の魔界、東の天界だ。西と東とは言うものの、南にもその領域は広がっており、両方は隣接している。また、人間界と魔界・天界も隣接しており、簡単に言えば円形状に世界は繋がっている。
そしてその三界の中央にあるのが、現在ミキたちのいる荒廃地と呼ばれる領域である。この領域は所有権が決定されておらず、どの世界の法も適用されない。
食料を得るにあたって、どの領域に行くかがまず重要となる。
「最悪、人間界で強盗することになるかもね」
「……それなら姿を消して盗んだ方が効率がいい」
基本が悪人かつ波長の近いミキとレミィは、いきなり悪事の話から始める。基本が善人のエヴァにとっては、もう少し穏便な方法にしたかった。
「もう少し穏便で平和的な方法を考えませんか……」
それとなく方針修正をしてみる。
「強盗とかはあくまで最悪の場合よ。そりゃ穏便な方がいいに決まってるわ」
「あ、よかったです」
「ただ、真っ当な行いは期待しない方がいいわね」
「? どういう意味ですか?」
「たぶん報酬を得るために、悪事を行うことになるから」
「それは……仕方がないですね」
「まぁ、強盗っていう『ただの悪』と、報酬のために悪事を行う『必要悪』は大分違うけど」
ミキとエヴァが会話している間に、レミィは黙々と食料確保について思考を巡らせていた。ようやくまとまりがつき、彼女は小さく手を挙げる。
「お? 何?」
「……まず前提の話。魔術で食料は作れる」
魔術の根本は事象を生み出すということであり、何かを生み出すということも例外ではない。魔術のイメージといえば炎や氷を出したりといったものだが、それこそが事象を生み出す――発生させるということなのだ。
それが食料でも可能なことは、魔術師なら誰もが分かっている。しかし、それを本気でやろうとする者はいなかった。理由は単純。どう足掻いても、不完全なものしかできなかったからである。
どんなに方法を変えようと、魔術で作った食料は実物と同一にはならない。必ず、味が変だとか、人体に悪影響があるとか、何かしらの欠点が発生する。
欠点が出るのに、その原因が分からない。その状態のまま、長い月日が経った。
だが、ついに魔術師は、完全な食品を作ることに成功したのだ。
「……魔界北部には魔術の都がある。そこには魔術食料プラントがある」
その魔術で食料を作る行為を最大限に効率化したのが、魔術食料生産工場――魔術食料プラントだ。
「……そもそも魔術食料がまだ人々に浸透していない。これまでの魔術食料のイメージが払拭できていないから。プラントが稼働したのも最近」
「つまりは、上手くその魔術食料、ひいてはその工場に取り付こうってことね?」
ミキが要約すると、レミィは小さく頷いた。
「……状況と交渉次第だけど」
「可能性があるだけマシよ。それに面白そう」
ミキの根底にあるのは、普通な世界からの脱却。普通の街で普通に働いて、その報酬で得たのでは何のために組織を設立してこうなったのかと思う。だからこそ、レミィの提案には大いに賛成だった。
「レミィの案を採用します。エヴァは異論ある?」
「ありません」
「なら決定! 目的地は魔界北部!」
アウター・ワールドとして第一歩を踏み出した。