エピソード1-1
エピソード1 誕生
「では、着陸します」
そうアリアが言い、ヘリは着陸の動きを始めた。
機体の高度が下がり、地平が見えてくる。地面が近づくと、接地用のタイヤが機体下部の四ヶ所に出現する。
慎重に高度を下げ、ヘリのタイヤが地面を捉えた。着地の衝撃が体を揺らす。
プロペラの回転がおさまると、操縦者のアリアは肩の力を抜いた。
「はぁー、緊張しましたわ」
「お疲れ様! これからも操縦をよろしく!」
「仕方ありませんね」
そのように言いながらも、アリアは嬉しさを隠し切れなかった。こんなふうに言われたのは初めてだったからだ。
ドアを開け、三人は外に出た。
ヘリが降り立ったのは、世界の中央。通称、荒廃地と呼ばれる場所だった。
「見事に何もない!」
ユイは思わず叫んだ。
その言葉通り、荒廃地には何もなかった。人も水も植物も、建物でさえも。そこにあるのは砂と岩くらいだった。
ユイはくるりと二人に向き直ると、声高々に宣言した。
「ここに、あたしたちという組織の設立を宣言します!」
パチパチとたった二つの拍手が鳴る。
「なお、名前はありません! まだ決めていません! なので、今から考えたいと思います! 各自一分間で考えるように!」
三人は瞑目して沈黙し、考えを巡らせる。そして一分後。トップバッターはユイだ。
「『放浪者の宴』はどう?」
「……ださい」
「できれば遠慮したいです……」
あまり好まれなかった。このセンスが理解できないなんて……、とユイは目を細める。続いてはアリアだ。
「『華撃乙女団』というのはどうでしよう。ちなみにカゲキは、華に攻撃の撃と書きます」
「なるほど、つまりは過激というわけね。いいセンスだわ」
「あ、ありがとうございます。……えへへ」
「でも、それって男だったらどうするのよ?」
「え?」
褒められてからの突然のツッコミにアリアは目を丸くした。
「今後男が仲間になった場合、男なのに乙女を名乗ることになるんだけど」
思わぬ障害にぶつかり、あえなくアリアの案は不採用となった。残るはファルだ。
「……『アウター・ワールド』」
「へ? なにワールド?」
「アウター・ワールドだそうです」
「……意味は『世界の外』」
アウター・ワールド。世界の外。今までの世界をやめた自分たちに相応しい名前だった。
「素晴らしいセンスよ、ファル! 決定! 」
再び二つの拍手が鳴る。ユイは、続きまして、と言って次に進んだ。
「新しい生活、新しい人生が始まるということで、個人の名前も新しくしたいと思います。また各自一分で考えるように」
三人は岩と砂を眺めながら、思考を巡らせる。そして一分後。今度は逆順で、最初はファルからだ。
「……レミィ」
「私はエヴァにします」
「あたしはミキで」
ファルはレミィに、アリアはエヴァに、ユイはミキになった。けれど、その名前に込められた意味は、今は訊かないでおく。
なお、当のユイはただの思いつきで決めただけなので、特に深い理由も意味もないのだった。
「それでは、いよいよ今後の行動方針について決めたいと思います。今のあたしたちには何が足りないと思いますか?」
「……食料」
「ヘリの……燃料? も必要だと思います」
「あたしは武器も足りないと思う」
「……お金」
「ヘリがあるとは言え、住居は必要だと思います」
「仲間も足りないわね。主に技術者」
三人で片っ端から意見を出す。当たり前と言えば当たり前だが、全然何もかも足りていないし、持っていない。
そして現状、最優先で確保しなければならないのはーー。
「食料!」
「……食料」
「食料ですね」
満場一致で食べ物に決定した。