エピソード0-4
ユイは男を開いたドアの前まで移動させる。
「さぁ、降りて」
「お、降りる!? どうやって!?」
「飛び降りればいいと思うよ」
「勘弁してくれ! た、助けてくれ!」
「しょうがないなぁ」
ユイは溜め息をつき、両手で構えた銃の引き金を引いた。発砲音と共に予想以上の反動が腕に伝わる。しかし、この距離ではさすがに狙いも外れない。弾丸は男の左肩甲骨の下辺りを穿った。
男は激痛の声を漏らす。足が震え、立っているのがやっとのようだ。
「撃たないとでも思った?」
「……」
「それじゃ、さようなら」
ユイは男の背中を蹴った。男の体は簡単に空中に投げ出される。姿が見えなくなって微かに断末魔が聞こえたが、一瞬でその声も聞こえなくなった。
一仕事終えると、ユイはドアを閉めて二人のもとへ戻る。
「さて、これからなんだけど」
ファルとアリアに聞こえるように言った。
「二人は、もといた場所に帰りたい?」
あのような生活に、あのような場所に、あのような世界に。
住む理由などない。生きる意味などない。存在する価値などない。
ユイはそう思っていた。そして、二人にも同じ雰囲気を感じたのだ。だからこそ、二人に訊いた。
…………。
その問いに対する答えは、なかなか返ってこなかった。しかし、それはつまり、答えが揺れていることを意味していた。
沈黙は三十秒以上も続いた。だが、ようやくファルが口を開いた。
「……自分は帰らない」
その横顔には、確固たる決意が秘められていた。それを見たアリアが、感心した様子で一つ息をつく。それから彼女も言った。
「私も帰りません」
「……本当にいいの? 何か無理してない?」
「無理はしていません。100%の意思です。……もう、あのような場所にいたくはありませんから」
そう言うと、アリアは自身の右の翼を見た。左よりも半分近く小さく、弱々しいその白い翼を。今、それについて訊くのはよそう。ユイはそう思った。それはまた別の機会に。
「じゃあ、二人も帰らないなら、あたしから提案があるんだけど」
ファルとアリアはユイの顔を見た。
「三人で新しい生活を始めない?」
ユイは心底楽しそうに言う。
「自分で生きて、自分のために生きる。何でも思い通り。行きたいところへ行って、やりたいことをやる」
たぶん自分は今、笑っているのだろう。心から楽しいと思っているのは、いつ以来だろうか。心の奥底からわくわくしているのは、いつぶりだろうか。
「ちょうどいい移動手段も手に入れたしね。絶対楽しいと思うんだけど、どう?」
ファルとアリアは互いに顔を見合わせ、そしてユイの提案に賛同した。