表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アウター・ワールド  作者: キョウペイ
2/22

エピソード0-2

 男の手が銃に触れる――その寸前に、別の手によって銃は取り上げられた。

「よし。よくやったわ」

 そう言うなり、声の主であるリコは銃を両手で構える。その動作は無駄のない熟練されたものだった。

「動かないで。両手を上げて」

 リコは銃の狙いを男につけ、脅すように言った。

「……」

 男は無言のままゆっくりと両手を上げる。

「あなたは離れなさい」

 リコに指示され、ユイは男から腕を放すと、警戒しながら後退った。男がユイとリコを交互に睨みつけている。リコは再び指示を出した。

「ユイ、ドアを開けてくれる? スライドさせれば開くから」

「了解」

 ヘリには側部にそれぞれドアが付いている。ユイは男に注意しつつ左のドアに向かった。取っ手を掴むと、思い切り横方向に力を込めた。鈍い音を立ててドアが開く。

 ドアを全開にすると空が一望できた。雲一つない青空が、どこまでも続いていた。

 ユイはリコのそばまで移動する。

「お前、一体何者だ」

 男は両手を上げたままリコにそう尋ねた。

「私? 私はただの調査員よ」

「人身売買調査のスペシャリストってわけか?」

「さぁ? どうかしら」

「これからどうする気だ?」

「とりあえず、無力化して連れていくわ。話はそこで――」

 ――その瞬間。

 機体が大きく揺れる。

 リコとユイは慌てて足を踏み込むが、それでも体勢が崩れるのは避けられない。そして、本能的に自分の足元に視線が行ってしまう。

 だからこそ、気づくのが遅れた。

 男が立ち上がり、こちらに接近してきていることに。

 その手には鈍色に光るナイフが握られていた。

 男のナイフがリコに迫る。リコは左手でナイフの軌道を逸らそうとする。だが、その左手を男の右手が掴んだ。

 男の左手に握られたナイフが、リコの腹部に突き刺さった。

「――ぐッ!」

 リコの口から苦痛の声が漏れる。しかし、その状況でもなお、彼女は動く。右手の銃を男の横腹に当てると、迷わず引き金を引いた。

 発砲。弾丸は男の腹部を貫通し、開いたドアからヘリの外へ飛んでいった。

「ぐあああッ!?」

 男の悲鳴が機内に響く。たった十秒ほどの出来事だった。

 ――その時。

 ヘリが再び、大きく揺れた。

 リコと男の傷は決して浅くはない。立っているのがやっとの状態である。そこに追い討ちをかけるように揺れが襲った。

 それだけではない。機体がどんどん横に傾いていく。傾斜は十度を超え、二十度超え、やがて三十度に近づく。

 足元がおぼつかないリコと男は、その傾きに耐えることができず、滑り落ちていく。その先には、まるで獲物を待つかのように開いたドアがある。

「――ッ!」

 ユイは彼女を助けようと動く。しかし、慎重にしか動けない。一歩間違えれば自分も外へ落ちる危険性があった。

 不意に、リコの右腕が外側へ払うように振られた。拳銃がこちらに飛んでくる。それをユイは両手で受け止めた。それと同時にリコが口を開いた。

「これは人身売買なんかじゃない! これはもっと別の何かがある!」

 そこまでを一息に話し終えると、彼女は。

 ――男と共に、ヘリの外へ落ちていった。

「…………」

 ユイは中腰のまま立ち止まる。思考が空白化する。

 落ちた。人が、落ちた。……死んだ。人が、死んだ。

「……っ」

 様々な感情が錯綜していた。

 どうしてこんなことになった。これからどうすればいい。何をしたらいい。

 徐々に機体が水平に戻っていく。それと同時に思考も落ち着いてきた。

「……あたしは」

 生きるんだ。

 失った。いろんなものを。綺麗さっぱり。

 何もかもなくなった。だから、新たに始められる。

 ここからまた、歩き出そう。

 始めよう、新しい世界を。

「ははは」

 ユイの口から薄い笑いが漏れた。心が固まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ