秘密(ざ・しーくれっと)
えー。毎度お馴染みの幹部会議です。はい。
開幕早々、博士さんが幹部の皆さんに謝りました。
サイサクさんに逃げられちゃった事。
それにより今後のバリア作戦は、常にサイサクさんの邪魔が入る危険性を踏まえながら遂行しないといけないため、ゲリラ的に時々しかやれない事。
そして、自分が四天王だと世間にバラしちゃった事。
「代々の四天王達は、その座を狙う野心的なモンスター達に襲われちゃう宿命にありますが。これで自分も狙われる事になっちゃいました。自業自得なんですけどねー」
博士さんは、さほど深刻では無い様子で言います。
私やミズノちゃんも四天王なりたての頃は、よくマッチョなモンスターさん達に戦いを挑まれました。っていうか私は未だに挑まれます。
博士さんの場合は、全長二十メートルもあるロボットに戦いを挑む者など無く、今までマッチョチャレンジャーとは無縁だったらしいです。
しかし正体が明かされた今、続々とマッチョさん達が……
来ると思っていたのですが。
来てません。
「あれから毎日、余計に頭使う事が増えて。頭痛の種ですよ」
そう言って博士さんは、こめかみを揉み揉みしました。
実は先日の暴露放送後。緊急に、
「第一精鋭部隊長は兵器開発力を見込まれ四天王になった人材。四天王の座を奪うのなら、力でなく頭脳。それも科学力で勝負しないと認められませんよ」
といったアナウンスを、なんと魔王様が直々にされたのです。
とは言え、巨大ロボットを作るような科学力に対抗できるモンスターなんて、中々いません。
では次の四天王の座を狙うモンスター達がどういう行動に出たのか、というと。
なんと、沢山のモンスターが「第一精鋭部隊もしくは兵器開発局に異動したい」と希望して来たのです。
軍内部だけでなく、軍外の研究所や学生からも「兵器開発局に就職したい」との申し出が。
つまり、博士さんの下で働く事で技術力を受け継ぎ、代替わり的に時期四天王の座を奪おうというワケですね。
勿論そんな事が出来るのはモンスターの中でもインテリな部類のお方達。
今までの『軍で成り上がるには力技だけだ』という常識が崩れ、燻っていた頭脳派の方々のモチベーションが上がったのですね。
博士さんも最近多忙で、いい加減新しい助手や研究チームを作ろうかなと思っていたらしく。
渡りに船で、希望者との面接を始めました。
「でもとにかく希望者が多くて多くて。多忙を和らげるための人員確保で更に多忙になってる状況ですねえ」
博士さんは大あくびを一つ。
「とは言え『好戦的なマッチョ兵士たちに襲われ続ける』って状況よりは、だいぶマシですが」
「その時はスー様が付きっ切りでボディーガードしてくれるのよね。ふふっ」
イタズラっぽく呟くミズノちゃん。
それを聞き、スー様は慌てた様子で立ち上がりました。眼鏡がちょっとズレています。
「そそっ、そ、その妄言! なんでミズノさんが知ってるんスか!」
右手で眼鏡を上げ、左手で机を叩きながら、大声で叫びました。
「ふふっ。ミィお姉ちゃんやテレビ局の人から聞きましたぁ~」
「ミィさん!」
「あっ、はい……えっ、言っちゃダメなんですか?」
ああそっか。
博士さんとスー様は敵対派閥。
まだ子供な私とミズノちゃんはともかく、大人な二人がお友達みたいにしていると、色々と不味いのかもしれませんね。
その各派閥のトップであるディーノ様もサンイ様も、興味無さげな顔で座っておられますが。
サンイ様なんてうつらうつらしています。本来は夜型の吸血鬼なので、眠いのでしょうか。
まあこのお方はいつも、魔王様に関係する話題以外ではたいていこんな態度です。
「ところであの捕縛した人間……侯爵のことなのですが」
私達がわいわい言ってると、ヴァンデ様が挙手して発言されました。
侯爵。つまりあの偉そうに怒鳴ってた、小太りで口ひげで髪の毛が燃えてハゲになっちゃったおじさんの事です。
「調査部隊によると、前々国王と第十八夫人の孫、つまり傍系の王族です。貴族の中でも更に上等な人間ですね」
つまり今の王様のハトコらしいです。
この報告を聞き、モニター越しの魔王様が楽しそうな声を上げます。
「なるほど王族ですか。しかも下位ながらも立派に王位継承権がある立場。サイサクさんは逃げてしまいましたが、これはもっと大きな拾い物ですよ」
白い仮面を揺らし、お喜ばれになる魔王様。
更にお言葉を続けられます。
「しかし王族ならば、何故勇者はあの侯爵を助けなかったのか、という謎も残りますね」
その魔王様の疑問に、皆難しい顔をして考えました。
「勇者が現れた時、侯爵はコンテナ内にいました。勇者は侯爵の存在に気付かなかったのかもしれないですね。テレビに映したのはサイサク君だけだったし」
「ふむ……」
博士さんの仮説に軽く頷かれる魔王様。
そして、
「ミィさんはどう思いますか?」
「えうぅっ、わ、わたひですかあ!?」
突然、私に話をお振りになられました。
な、なんで私なんかに……
「えっとぉ……そのぉ……わ、分かりません」
「なるほど。そうですか」
魔王様は何故かそれで納得されました。
とりあえずこの話はここで終わり、後は定例となっている個々人の業務報告です。
「侯爵おじさんも、このメロン魔人チョコを美味しいと言ってました。舌が肥えてそうな王侯貴族のお口にも合うと証明されたのです!」
「ふふっ、さすがトーナメント優勝の最強お菓子ね」
「コケエエエ!」
幹部会議が終わった後、私とミズノちゃんは会議室に残りお喋りをしつつ、トサカさんにメロン魔人チョコで餌付けしていました。
するとヴァンデ様から「用がある。一緒に来てくれ」とお声をかけられました。
私はミズノちゃんとトサカさんにお別れの挨拶をし、ヴァンデ様と一緒に部屋を出ます。
廊下を歩きながら、私はヴァンデ様に聞きました。
「ご用事とは一体?」
ヴァンデ様は人目を気にするように、辺りをキョロキョロと見回します。
誰もいない事を確認し、小声で答えてくれました。
「あの人間……侯爵に会いに行くぞ」
ヴァンデ様はいつもキャラ作りでやっている無表情を少しだけ解き、どことなく楽しそうです。
「父上やサンイ様には秘密で、勇者の情報を聞き出そう」
秘密……私はその言葉にちょっとドキっとしちゃいます。




