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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
超スーパーウルトラバリア大作戦編
90/138

発電(こてんてきほうほう)

「ひうぅぅぅっ!?」


 博士さんの研究室の扉を開けた瞬間、私はつい悲鳴を上げてしまいました。

 中には、恐ろしいモンスター達が待ち構えていたのです……


 ツノが生えてるモンスターさん、馬やトカゲの頭を持つモンスターさん、それに手足が何本もあるお方まで……

 とりあえず、全員が全員マッチョです。

 マッチョさん達の一部は、扉を開けた私をジロリと睨みました。

 新人で子供の私に、あまり良い感情を持っておられないようです。


 っていうか、私に四天王の座を賭けた勝負を挑んで来た悪魔さんの姿も見えます。

 私はいつもダッシュで逃げているので、戦った事は無いのですが。


「やあミィちゃん。こっちこっち」


 博士さんが、部屋の一番奥で手招きしています。

 私はコワモテモンスターさん達の間をビクビクしながら通り抜け、博士さんに近づきました。


「博士さん、この方々は……?」


 私は横目でチラリとマッチョ軍団を見ながら、そう尋ねました。


「バリアの発電機を回すために集まってくれた、総勢十名の精鋭達さ。各所属部隊の隊長さん推薦の怪力達。きっとエネルギーをバリバリ発生させてくれるだろうなあ。いやー若いって素晴らしいね」


 博士さんは、エアロバイクのような機械をいじりながら、説明してくれました。


「十名って……昨日の今日でこんなに集まったんですかぁ?」


 という私の問いに、博士さんではない女性の声が答えてくれました。


「どの部隊も、兵器開発局との繋がりを欲しがってるんスよ。専用武器とかで贔屓して貰えるかもしれないッスからね」


 振り返ると、スカートスーツ姿のスー様が、マッチョモンスターさん達の横をすり抜けこちらへ歩いて来ています。


「現にこの兵器開発局長のおっさんは、妖精部隊ばっかり贔屓してるって言われてるッス」

「いやー、だって彼らときたら、何でも廃品回収してくれるしさあ」


 妖精さんを贔屓、ですか……


 ここ最近、たびたび博士さんの実験に付き合っていた私は知っています。

 博士さんは、妖精さん達に微妙な発明品を押し付けて、勝手に実地テストさせているのです。

 贔屓と言うより、むしろ利用しているのですが……

 だけど、珍しモノ好きの妖精さん達は結局喜んでいるし、他の方々には贔屓に見えるかもしれませんね。


「ところでスー様は何故ここに?」


 私が尋ねると、スー様は「ウチも発電メンバーを見に来たんス」と答えてくれました。


「あんな馬鹿な予算使うだけの価値があるか……ちゃんと確かめないといけないッスからね」


 そう言って、スー様は博士さんを睨みました。

 博士さんはその視線に気付いているのかいないのか、変わらず涼しい顔で機械をいじっています。


「まあ、ウチも暇じゃないんス。勿論それ以外にも来た理由はあるッスよ。兵器開発局長、これ」


 スー様は博士さんの鼻先に、カード型の小型記憶媒体装置を突き付けます。


「……またデータ印刷してくれって事?」

「そうッス」


 機械音痴のスー様は、デジタルな雑務を博士さんに依頼する事が多いのです。


「スーちゃんもさ、そろそろ自分で操作方法覚える気は無い?」

「無いッス。無理ッス。だってコンピューターもプリンターも、ウチが触ると爆発するんスよ!」

「……分かったよ。じゃあ後で印刷しておくから」


 博士さんは記憶装置を受け取り、胸のポケットに入れました。

 丁度機械の整備も終わったようで、立ち上がり、マッチョさん達の方を向きます。


「はい、お集りの皆さんお待たせ。じゃあ今から一応、発電機回すための適正テスト受けて貰いますんで。まあ皆の筋肉見ると大丈夫だろうけどさ」





「うぬおおおおおおお!」


 マッチョマンさん達が必死に自転車を漕いでいます。

 バリアなんてハイテク防衛兵器を動かすためのエネルギーを、まさか自転車発電なんて古臭い方法で補うとは。

 まあこの部屋に入った時、博士さんがエアロバイク風な機械をいじっていたので、なんとなく予想はついていたのですが。


「大丈夫。オジサンが作った発電機だから。内部に魔力とかちょっと言えない危険な動力源が入ってて、ペダル漕ぐだけで凄いエネルギー出るから」


 と、博士さんは言ってましたが。


「あーいいねえ皆さん。予想以上のエネルギーが発生してるよ。この調子だとバリアも一時間は保てそうだ」


 博士さんは、机の上に置かれたメーターを見て、何やら機械を操作しつつ言いました。


「さすが皆鍛えてるね。良い感じだよ」

「オッス!」


 マッチョさん達は、立ち漕ぎになって元気よく返事します。



 その後、自転車発電は一時間ほど続きました。

 皆さん無事合格。疲れ果てて横になっています。

 発電適正テストが終わるまでの間、私はボケっと座って発電の様子を眺めたり、オレンジジュースを飲んだり、スー様と雑談したりしてました。

 だって、やる事無かったんですもん。


 って言うか、なんで私ここにいるんですっけ?

 ああそうだ、博士さんに呼ばれて来たのでした。


「あのぉ。私、なんでここに呼ばれたんですかぁ?」


 今更ですが、博士さんに聞いてみました。

 博士さんは自転車発電機を再び整備しつつ、答えます。


「ああ、それはね。ミィちゃんの速い足なら、たくさん発電出来そうだなと思ってさ」

「……はい?」





 私は自転車のサドルに跨り、ペダルに足を置きました。

 ちなみにスー様に魔法をかけて貰い、ジャージ姿に早着替えしています。


 私も試しに発電機を回してみろ、との事らしいです。

 急にそんな事言われても、全くノリ気がしない……と言うのは嘘になりますね。


 自転車で発電。よくテレビなどで見る古典的手法です。

 しかし私も、私の前世の美奈子さんも、実際にやった事はありません。

 つまりこれが発電初体験なのです。ちょっとだけワクワクしてたり……


 でも周りの視線が気になります。

 マッチョマンさん達が、私に変な期待の目を向けています。

 特に鬼さん達……


「あのカチカチ少女、鬼人兵の新人試験に乱入して暴れ回ったらしいぜ。どうも虫の居所が悪かったらしい。そして止めに入ったイローニさんを半殺しにしたとか」

「イローニって、村長の孫の……? 嘘だろ、あの鬼強おにづよ娘を!? あっ、今の鬼強娘の鬼ってのは種族としての鬼ではなく、名詞や形容詞の前に付く接頭辞としての鬼って意味で……」

「さぞや凄まじいペダルの漕ぎっぷりを見せてくれるんだろうなあ」


 などと、根も葉もない噂を。


 違います。

 鬼人の試験には、面接官として正式に参加したのです。

 乱入したのはイローニさんの方。

 当然、半殺しになんてしてません。

 むしろ私が一方的に殴られてました。


 そして鬼さんだけで無く、他のモンスターさん達も変な視線を向けています……


「あの悪魔老師やガシャさんさえも太刀打ち出来なかった、呪いの人形を木っ端みじんにやっつけたとか」

「うちの隊長がその場に居合わせたらしいぞ。まさに鬼人のような強さ……ああ、今の鬼人ってのは種族としての鬼人ではなく、一般的な比喩表現としての」

「しかもその呪いの人形は、たった一体だけでもガシャさんより強いと言うが……あのチビ、いやカチカチ少女は、一気に人形三十体も相手にしたんだとよ」

「マジ? ゴリラやん」


 これまた無責任な噂が。

 三十体は無理ですよ!

 そしてゴリラじゃないですよぅ!


 勿論、中には疑わしい目で私を見ている方もいます。

 尾ひれが付いちゃった大袈裟な噂のせいで、勝手に疑われています。

 なんだかちょっと悲しい。


 このデタラメな風評を払拭するため、今この場で説明しようかな。

 なんて思いましたが、マッチョマンさん達の方をチラリと見て、それはやめました。

 皆さん背が高く、腕も足も太く、オマケに顔が怖い。

 しかもほぼ初対面なので。

 私は、話しかける勇気が無かったのです。


「と、とにかく。一度発電してみましょう」


 私は気を取り直して、発電機のペダルの上に置いた足に、力を入れてみました。

 私の足がエネルギーを作り出す。

 魔法も使えない、私がですよ。

 ドキドキものですね、これは……これは……これ、は……うううんんん?


「ぉぉぉぉ……重くて動きませぇぇん……」


 ペダルが固い。動かない。ガッチガチですよコレ。

 私は額に汗を流し、顔を真っ赤にして踏ん張り続けます。

 しかしペダルはビクともしません。


 私が顔を真っ赤にしているのは、足に力を入れているせいだけではありません。

 周りで見ているモンスターさん達の視線が、恥ずかしいのです。


「……なんか聞いてたのと違わない?」


 と、期待外れで唖然としている方々。


「やっぱりな、思った通り。あの噂全部デマだろデマ。軍のプロパガンダだよどうせ」


 と、それ見た事かと冷ややかな視線を浴びせる方々。

 そして何も言わず、ただ失笑している方々。


 うぅぅ、恥ずかしい。帰りたい。

 穴があったら入りた……あ、いえ。落とし穴はもう懲り懲りだから穴には入りたくはないです。


「ああ、ごめんごめん。ミィちゃん用に調整するつもりが、忘れてたよ」


 博士さんが慌てて近づき、自転車サドル下部分のカバーをパカッと開けて、中身をいじくり始めました。


「ミィちゃんの足の速さを活かしたいからね。一回転分の発生エネルギーは減るけど、軽い力でも回せるようにして……と、はい。もう一回やってみてミィちゃん」


 と言って、カバーを元に戻しました。


「もう一回と言われてもぉ……うーん……」


 さっきまでのワクワクは、とうに失せてしまいましたが。

 それでも私は、渋々ペダルに足を乗せました。


「ほらミィちゃん、よーいドン!」

「あぅ……その掛け声はやめてくださ……あ、あれ?」


 茶化す博士さんに抗議するため体を傾けると、ペダルがすいっと動きました。

 私は恐る恐る、自転車を漕いでみます。

 動きます。くるくる回ります。

 むしろ普通の自転車より軽いです。


「おぉぉぉ……でんき! 電気は出てます!?」


 私はなんだかちょっと楽しくなってきました。

 マッチョマンさん達は完全に『はしゃぐ子供を見る目』になっちゃってますが、気にしません。


「エネルギーはまだ発生してないねえ。ミィちゃん、全力で回してみてよ」

「分かりましたぁ!」


 私は心の中で、封印したはずの掛け声を唱えます。

 よーいドン!

 ペダルは勢いよく回り始めました。


「……あれ? なんか……あれ、あの回ってる足……速くね?」


 周りで見ているマッチョマンさん達がざわめき出しました。


「速いって言うか……見えない?」


 何やらどよめきが起こっていますが、私は発電に夢中なので気にしません。

 ますますスピードを上げていきます。


 そして次の瞬間、後悔する事に。


 博士さんとスー様の、慌てる声が聞こえました。


「……えっ、あれ? うぇえ!? ちょっとちょっとミィちゃん、ちょ待ってタンマ、待……おおおおっ!?」

「なんスか!? その機械なんか光ってるッスけど……あ、ええっ!?」


 そして、閃光に轟音。





 部屋の中で、大爆発が起こりました。





 …………





「……けほっ」


 黒い煙や粉塵が漂う中、私は咳を一つして、辺りを見回します。

 博士さんとスー様は、床にへたり込んで呆然としています。

 そしてさっきまで笑っていたマッチョマンさん達は、怯えた表情で私を見ていました。


「……やっぱゴリラだわ……」

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