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酔っ払い撃退作戦(きもちわるくさせること)

「ミィ、なんか作戦ある?」


 二人の人間さん達が酒瓶に口を付けつつ千鳥足でじりじりと近づいてくるので、とりあえず私たちもじりじりと後ずさりしながら間を持たせてます。


「作戦ですか……えっと、相手は人間で、酔っ払いだから……えっと……」


 そうです。


 そう言えば私の前世も酔っ払いでした。

 周りも酔っ払いだらけでした。

 酔っ払いのプロフェッショナルと言っても過言ではないのです。


 酔っ払った人間の弱点、それは…………えっと、なんかありましたっけ?



―――――



「先輩! 和田君がゲロ吐きながらぶっ倒れました!」

「酒飲みながら縄跳びなんてするからだろアホ!」

「笑えるからーオールオッケー」

「またお前が仕向けたのか美奈子!」



―――――



「……あのおじさん達がなるべく頭を振り回すように誘導して、動き回って」

「頭を振り回す?」


 急な私の言葉に、ヨシエちゃんが聞き返しました


「うん、周りをぐるぐる回ったり……それで酔いが回って足が更にフラつくと思う……」

「なるほど」


 ヨシエちゃんは頷くやいなや、高くジャンプし、人間さん達の頭上を飛び越えます。

 着地したヨシエちゃんは狼の姿に変わっていました。


「なんだ、犬!?」

「ガウゥゥッ!!」


 アニキさんが驚いて言った言葉に、ヨシエちゃんが抗議の吠え声を上げました。

 訳すと「犬じゃなくて狼だろ見て分かんないの? 頭悪いねおっさん。馬鹿でしょ」です。


 ヨシエちゃんは狼の姿で二人の周りを走り回ったり飛び上がったりして翻弄します。

 それを追い掛け回す二人は右往左往し、ヨシエちゃんと一緒に走ったり飛んだり……


「うっ……気持ち悪……」


 ついに人間さんの一人がふらつき、足を止めました。

 ヨシエちゃんはその隙を逃がさず、凄い速さで体当たりします。

 ゴンっという鈍い音がし、人間さんは泡を吹いて倒れました。

 そこにヨシエちゃんが追い打ちのストンピングをかまします。


「お、おい……おええっ!」


 もう一人のアニキさんも、気持ち悪さに動きを止め、うつむきました。


 はっ! チャンスです。今なら蹴り放題で私のクリスタルレインボーが決まるかもしれません。


 ……いや、さすがに何度も蹴りまくるのは危険なので、一発だけ蹴って会心の一撃に賭けましょう。

 駄目ならとりあえず武器を奪ってまた離れれば、相手も降参して逃げるかもしれませんし。


 そう決意した私は、私の近くでグロッキーになってるアニキさんの元へ駆け寄ります。

 そして向こうズネに蹴りを一発えいっと……



「おい、何やってんだ?」



 蹴ろうとした足をアニキさんに掴まれてしまいました。

 私の考えは甘かった……


「あ、えっと、その……ご、ごめんなさぃ……」 

「ふざけんなよチビ!」


 足を持ち上げられ、私はひっくり返って尻もちをつきました。


「ウォーーーンッ!」


 ヨシエちゃんの「逃げて!」という鳴き声が聞こえましたが、私は恐怖で腰が抜けて、立ち上がる事ができませんでした。

 そしてアニキさんは両手で刀を振り上げ……私は言葉を発す事も出来ずに、振り上げられた刀をただ凝視し……


「グオオオオオォォォッ!!」


 その瞬間、咆哮と共に巨大な影が現れ、アニキさんが吹っ飛びました。


 アニキさんは衝撃で数メートル飛んで、喫茶店の壁にぶつかりました。

 ぶつかった壁は大破し、アニキさんは気を失ったようです。


 そして、さっきまでアニキさんが立っていた場所に、五メートルはある巨大な狼が佇んでいます。

 突如出現した巨大な狼に、周りで見ていたギャラリーさん達も一斉に逃げ出しました。



「お、お兄ちゃん……」

「ガルッ」



 その巨大な狼……私のお兄ちゃんは「大丈夫かミィ。来るのが遅れてすまない」と言っています。


「ミィ、怪我してない?」


 人間の姿に戻ったヨシエちゃんが駆け寄ってきました。

 その間にお兄ちゃんも人間の姿に戻ります。


「あ、あの。お兄ちゃんありがとう……」

「立ち上がれるか?」

「ううん……腰が抜けて無理かもです」


 お兄ちゃんは私を抱え上げてくれました。私は安心して、お兄ちゃんの首に抱き付きます。


「すまなかったなミィ。最初から俺も一緒に行けば良かった」

「そんな……私の方こそ、迷惑掛けてごめんなさい……」


 私は抱き付く腕に力を入れて……そして気付きました。



 お兄ちゃんの顔の横から見えるアニキさんが、銃をこちらに向けていることに。


「お、お兄ちゃん危な」

「死ね死ね死ね死ねぇぇっ!」


 そう叫びながらアニキさんは銃の引き金を……


「死ね死ねし……し……な、なんだ……撃てない……手、手が……いや、体が、動かない……?」



「貧弱な人間が、調子に乗ったら駄目だよぉ?」



 アニキさんは体が固まってしまったかのように、銃を構えたまま動かなくなりました。

 そしてその隣には、いつの間にか、ミズノちゃんが立っていたのです。


「外が騒がしいと思ったら。ごめんねお姉ちゃん達。店内が忙しくて気付くのが遅れちゃった」


 そう言いながらミズノちゃんは、アニキさんが持っている銃にちょこんと触れます。


「こんな道具使っちゃって。人間って生意気よね。ふふっ」


 次の瞬間ポンッという軽い音と共に、銃が砕け散ってしまいました。


「ひっ!?」


 アニキさんは顔面蒼白になり、言葉を失ったようです。

 

「……ミズノ様? 何故ここにいるんだ」


 お兄ちゃんが驚きの表情を浮かべました。

 さすがお兄ちゃんもボスキャラなだけあって、ミズノちゃんと面識あったみたいです。


「ちょっとお仕事でこの里に来てて。偶然ミィお姉ちゃん達と会って、一緒に遊んでもらってたの」


 そう言ってミズノちゃんは笑顔でお辞儀をしました。私達はミズノちゃんとアニキさんの傍へと駆け寄ります。


「お久しぶり、クッキーお兄ちゃん。ミィお姉ちゃんが言ってた『お兄ちゃん』ってあなたの事だったんだ。そう言えばちょっと顔が似てるかも」


 ミズノちゃんは私とお兄ちゃんの顔を見比べました。


「ところでクッキーお兄ちゃんこそどうしてここにいるの? ミィお姉ちゃんの話だと、今日はホテルで待機してるって事だったけど」

「妹の悲鳴が聞こえた」

「へぇ。さすが狼さん、耳も良いんだね」


「こ、この化け物どもが……」


 アニキさんがミズノちゃんを睨みつけています。

 お兄ちゃんとミズノちゃんの会話中に多少元気を取り戻したのでしょうか。

 しかし相変わらず体を動かす事は出来ないようです。


 そのふてぶてしい態度を見て、ミズノちゃんが面白そうに笑いました。


「ねえおじさん。金縛り解いてあげるね」


 ミズノちゃんが人差し指で、アニキさんの右の手首に触れました。

 するとポキっと枝が折れるような音がして……


「うぐああああっ!」


 アニキさんが動き出しました。

 そのまま右腕を抑えてうずくまって……よく見ると、右手首が折れてだらんと垂れ下がっています。


「ごめんねおじさん。この金縛り、何かショックを与えてあげないと解けないの。ふふっ。あと骨は粉々に砕いたから。腐っちゃうからもう手首から先は切り取った方がいいよ?」


 こんな事しながらもミズノちゃんは可愛らしい笑顔を崩さないでいます。


 凄い。

 強い。


 モンスターの中のモンスターです。

 相手は年下の女の子ですけど、私は憧れの眼差しをミズノちゃんに向けちゃいます。


「凄いねミズノ……さすが四天王だ」


 ヨシエちゃんも感心しています。


「ミィも四天王になるなら、あれくらい強くなって、そして人間に冷酷にならないといけないんだよね」

「……自信無いです」


 のんきにそんな感想を言い合っている間も、アニキさんは痛みに悶絶し続けていました。


「いいいい痛あああああああああああああああっっ!」

「うるさぁ~い。ねえ、味は悪そうだけど、おじさんの魂食べちゃってもいい?」

「それはダメだミズノ様」


 お兄ちゃんが慌ててミズノちゃんを制止しました。


「エルフの里は中立。ミィ達が襲われたので骨を砕くくらいなら正当防衛だろうが、もしこの場所で人間を殺すような事件を起こしたら、魔王軍とエルフの里の外交問題になる」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ逃げていいわよ人間のおじさん。でも顔を覚えちゃったから、次にこの里の中で会ったら……どうしようかなぁ」


 その言葉に急き立てられるように、アニキさんは連れの人間さんを叩き起こし、悲鳴を上げながら逃げ出しました。

 エルフの里の入り口がある方角へ向かっています。このまま里を出て下山するつもりでしょうか。


「バイバイおじさん達。夜中にそんな怪我して里の外に出たら、モンスターに襲われて多分死んじゃうけど。ふふっ」


 ミズノちゃんは朗らかに手を振りながら言いました。そしてふと空を見上げて、


「あら、雨まで降ってきちゃった。これじゃますます死んじゃうね」




―――――



「こんな事になってしまって、ほんっと申し訳ない! お詫びになるか分からないけど、バイト料は五倍にして、もちろんエルフのお守りも差し上げるよ!」


 気絶から目覚めた痴漢店長さんは、そう言って私達に謝りました。


 その後お兄ちゃんを見て「背の高い人狼だ!」と驚いて、「君ウェイターとして働いてみない?」とスカウトしてました。お兄ちゃんはすぐ断りましたけど。


 とりあえず五倍になったお給料と恋愛成就のお守り、そして雨が降り出したので傘まで頂いて、私たちはカフェを後にしました。


「じゃあね痴漢エルフ店長」

「さようなら痴漢エルフおじさん。ふふっ」

「あの、お給料ありがとうございます……えっと、痴漢エルフ店長おじさん」

「うん。最後になるけど、いい加減痴漢呼ばわりはやめてくれないかな!」




「じゃあ私も帰るね。またね。お姉ちゃん、お兄ちゃん」


 繁華街を出たところで、ミズノちゃんが言いました。


「はい……あの、今日は助けてくれてありがとうございましたミズノちゃん」

「ふふっ、大したことじゃないわよ」


 余裕の表情。私より年下なのにしっかりした子です。


「それより明日はエルフの秘薬を飲むんでしょ? まっず~いから気を付けてね。その辺の雑草の方が美味しいレベルだから」

「うぅ……そうでした……」


 いくら強くなれるからと言っても、そう何回も不味い不味いと言われると今から憂鬱です。吐かないように気を付けないと……


「そう言えば、ミズノちゃんは明日はどうするんですか……?」


 せっかく仲良くなれたんだし、明日も空き時間に一緒に観光なんかできたら嬉しいな。

 なんて言いながらミズノちゃんの予定を聞いてみました。


「明日はお仕事で忙しいの」

「そうなんですか……じゃあ残念だけどここでお別れですね……」


 そう言って私がしょぼんとしてると、ミズノちゃんがクスッと笑いました。


「大丈夫。きっとまたすぐ、みんなと一緒に遊べるから」

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