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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
超スーパーウルトラバリア大作戦編
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電波遮断(ばりあ)

「博士……いや、巨大ロボットさ……いや、えっと……」


 久しぶりに巨大ロボットさんの姿を見た私は、話しかけようとしましたが、果たしてなんと呼べばいいのか迷ってしまいました。

 操縦しているのは博士さん……でもそれは秘密にしないといけない。

 だから巨大ロボットさんと呼ぶにしても……でも、これ……その。


 巨大じゃないし。

 百五十センチくらいだし。


「あのぉ……ロボットさん!」


 結局ただのロボットという呼び方にしました。


「ロボットさん、いつの間にご復帰なされたのですか?」

『バーリア! バリア! バーリア!』


 ロボットさんは私の問いを無視し、歌い続けます。


「ロボットさん?」


 様子がおかしいです。

 私はロボットさんの肩に手を触れ……


「あーコラ! 触ったらダメだよそこのチビ助!」


 突如、上方から怒声を浴びせられました。

 妖精さんが羽をパタパタと動かし、宙に浮いています。

 先程お話した、元バイトの女性妖精さんとは違います。

 今度は男の妖精さんです。


 今日は妖精さんによく縁がありますね。


「……げっ四天王のゴリラ、じゃねーやカチカチ少女様!? ヤベっ。ああ、でもダメなんですよそれに触ったらー!」


 妖精さんは私の顔を見て、慌てた様子になりました。

 一応四天王である、私の悪口を言っちゃいましたから。

 まあ私ももうオトナな女性です。チビと言った事は許しましょう。

 でも、


「ゴリラじゃないですぅ……!」


 この不名誉なゴリラ呼ばわりだけは、あだ名として定着してしまう前に訂正しておかないと。

 私の訴えに、妖精さんは平謝りです。


「このミニ巨大ロボット人形は、兵器開発局長に頼まれてここに置いてるんですよ。俺、いや自分は局長のお手伝いでここにいます」


 一通り謝った後、妖精さんはそう教えてくれました。


「局長……博士さんにですか?」


 博士さんは妙に妖精さん達と仲が良いですね……

 なんて考えながらよく見てみると、この十三分の一スケール巨大ロボットさんは、ダンボールで出来たハリボテでした。

 簡易的なモーターが付いているのか、腕だけが動いて……ああ、よく見ると糸で吊るして、上で他の妖精さん達が操ってます。可哀想に、汗だくです。

 歌声も後ろに置かれたラジカセから出てました。


「なんでも局長は、バリアを張りたいから人集めしてる。って言ってました」

「バリア……ですか?」

「はい。バリアです」

「バリア……」




―――――



「そう、バリアなんですよ」


 翌日。

 定例の幹部会議にて。

 博士さんがそう言いました。


「なるほど、バリアですか。うん、バリア。いいですねえ」


 魔王様が殊の外、喜ばれています。

 意外と好きみたいです。バリア。



 ……で、何がバリアなのかと言いますと。


「そのバリアを一定範囲……だいたい約半径百メートルくらいの球状に張るんですよ。ロボが戦う戦場としてはいささか狭いフィールドだけど、バリアの中で戦えば妨害電波を弾いてサイサク君もロボを操れない」


 との事らしいです。


 博士さんが話しているのは、巨大ロボットさんをどうやって戦線復帰させるか。という問題についてです。


 博士さんの元助手で、実は人間のスパイだったサイサクさんが発明した妨害電波。

 その妨害電波により、巨大ロボットさんがコントロールを乗っ取られてしまう、という問題が発生中です。

 このせいで、巨大ロボットさんは休職中。

 巨大ロボットさんは軍の広告塔の役割も持っていますので、早く復帰して貰わないと困るのです。


 博士さんが言うには、戦場に『サイサクさんが干渉出来ないゾーン』を作りだし、その中で巨大ロボットさんを動かす。

 という対策を取るらしいのですが。


「勿論一番良い方法は、ロボを完全自律型の自動運転にして、そもそも遠隔操作出来なくする事ですけど。以前言いましたように、それには二年以上掛かりそうなんで」


 つまり今回のバリア作戦は、暫定の対策。

 二年後に自律型の新型巨大ロボットさんが出来るまでの、繋ぎってヤツですね。


「そしてこのバリア作戦にも、問題がありましてね。大きく三つ」


 博士さんは指を一本立てました。


「一つ目は半径百メートルの狭い範囲でしか戦えない事。まあこれはもう仕方ないので、二年待つしかないですねえ」


 次に、二本目の指を立てます。


「二つ目は、バリアを発動するまでロボは動かせない事。バリア外で動かしたら、すぐサイサク君に乗っ取られちゃう。だから戦場までトラックに乗せて輸送しないといけないんですよねえ。時間もコストも掛かるし。ロボも運びやすいように小型化軽量化の改造。となると、どうしてもパワーダウンしちゃうんですよ」


 結構制約が多いみたいですね。

 博士さんは、更に三本目の指を立てました。


「最後は、バリア展開にアホみたいなエネルギーが掛かるって事ですね。巨大ロボットが八十時間くらい動けるバッテリーを使っても、バリアを張れるのは五分ちょい」

「ふむ、それは短いですね」


 魔王様は、残念そうな口調でおっしゃられました。


「バリア発生装置に使えるバッテリーは予備を合わせて五個あるんですけど、それでも三十分程度。だから大型のバッテリーを作りたいんですけど、予算が……」


 そう言って博士さんはスー様の顔をチラリと見た後、ホワイトボードに数字の羅列を書きました。


「って事で。こんだけのお金が必要なんですよねえ」

「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……?」


 スー様が指を差し、数字がいくつ並んでいるのかを数えます。

 数え上がるにつれどんどん声が強張り、低くなっていき、


「こ、こんなバカ予算! 冗談キツイッスよ!」


 最後には立ち上がり、叫び出しちゃいました。

 博士さんはそのリアクションを予想していたようで、へらへらと笑いながら答えます。


「そうなんだよねえスーちゃん」

「笑い事じゃねーッス!」


 スー様の怒鳴り声が部屋に響きます。

 しかし、


「必要ならば予算を出すべきでしょう。いつまでもロボットを出張扱いで隠しておくと、世間も怪しみます」


 と魔王様がおっしゃられ、サンイ様も


「そうであるぞスー君! 魔王様の崇高なお考えは、何よりも優先すべきである!」


 と便乗します。

 スー様は「うぅ……」と唸って席に座りました。


「まあ本当に大容量バッテリーを作る価値があるかどうかは、バリアの実地試験を経てから判断しますよ」


 博士さんはそう言って、ホワイトボードに文字を書きながら説明を続けました。


「実地試験では発電機を持ち来んで、バッテリーを充電しつつ騙し騙し使います。これで多分バリアは四十分くらい張れるんじゃないでしょうかね」


 ホワイトボードに『発電機』と書いて、丸で囲みました。

 更にその横に、丸と棒で人型の絵を複数描き、『マッチョマン達』の文字を。


「この発電機。戦場にはコンセントも無いので、力技の手動で充電する事になるのですが。そのための筋骨隆々なモンスター達を募集中でしてね」


 この博士さんの言葉に続いて、ヴァンデ様も発言されます。


「発電機を回すためのモンスター数名。とりあえず二年間、兵器開発局に異動させます」


 その言葉を聞き、私は昨日の事を思い出します。

 食堂前の廊下で、ハリボテロボットさんが歌いながら人員募集をしていました。

 あれは、このバリア作戦のためだったのですね。





「バリアかぁ~。なんだか面白そうだね、お姉ちゃん」


 会議が終了し、魔王様との通信が切れた後。

 私の隣に座っていたミズノちゃんが、そう言って笑いました。


「ミズノちゃん程の魔法使いなら、機械の力が無くてもバリアくらいなら張れるんじゃないですか?」

「バリアは使えるけど、電波を弾き返すってのは無理かも。そもそも電波が何かって事を知らないもの。知らないものは弾きようが無いの」


 そういうものですか。


「それに半径百メートル分もバリアを出したら、三分も経たずにへろへろになっちゃう」

「へえ、じゃあそれを四十分も張れる博士さんの機械って、凄いんですねぇ」

「でしょ~、そうなんだ。オジサンってば凄いんだよ、ミィちゃんにミズノちゃん」


 博士さんが、書類や機械類を鞄に詰めながら言いました。

 どうやら私たちの会話が聞こえていたようです。


モンスターは見かけによらないね。ふふっ」

「ミズノちゃん、何かトゲのある台詞だね……まあいいや」


 博士さんは、私の顔を見ました。


「ところでミィちゃん、この後オジサンの研究室に来てほしいんだけどさあ。暇?」

「えっ、ああ、はい。良いですけどぉ……また実験とかですか?」


 私の防御力を利用、もとい有効活用し、新兵器の実験を行う事があるのです。

 兵器は怖いですけど、結局いつも無事に終わりますし、オレンジジュースも貰えますし……

 私は文句を言いつつも、結局実験に付き合ってあげています。


「今回はちょっと違うんだけどさ。さっきのバリアの件で、ミィちゃんにも手伝って貰う事があって。詳しくは部屋で話すけど」

「バリアですか! 分かりました」


 バリア作戦関連のお仕事みたいです。

 なんだかんだ言って、私もミズノちゃんと同じく、バリアをちょっと楽しみにしていました。

 お手伝い出来る事があるというのなら、断る理由もないですね。

 

「あっそうだ、博士さん。バリアと言えば、一つ気になる事があったんですけどぉ……」

「なんだいミィちゃん?」


 丁度良い機会だと思い、私は昨日から抱いていた、ちょっとした疑問を問い掛けてみる事にしました。


「あの食堂前で流れていた『バリアでアルバイト~』って歌。軍内部から志願者を集めるのだから、アルバイトでは無いですよね?」


 その質問対し、博士さんはボサボサの髪を掻きながら言いました。


「ミィちゃん。モンスターってのはそんな細かい事を気にしないものさ。もっとノリで生きよう」

「はぁ……」


 兵器作ってる人がそんな考えしてるのは、とても危険な気がしますが。

 私はそれ以上何も言わず、ただ頷くばかりでした。

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