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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
どうでも良い事をぐだぐだお話するガールズ編
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暑苦しい(さわやかがーるず)

 ミズノちゃんは、支えるように左手で右手首を掴み、その右手をパーにしてトリとめ像に向けています。

 右手の平がぼうっと光り、電気火花が走りました。

 ミズノちゃんの目は真っ赤に染まり、鼻から一筋の血が出ています。

 生命力まで魔法に変換すると言っていましたが……


「ミズノちゃん、やめてください!」

「そうですわ、自殺行為ですの!」


 私とマリアンヌちゃんが止めるため近づこうとしましたが、ミズノちゃんは左手を右手首から離しこちらに向け、


「危ないから近づかないで!」


 と制しました。

 その迫力に、私達は足を止めます。


 ……いや、正確には動かそうにも足が動きません。

 ミズノちゃんはいつの間にか、私達に金縛りの術を掛けていました。


「やめてください! ミズノちゃん、金縛りを解いて!」


 私の言葉に対し、ミズノちゃんは返事をせず、ただこちらを見て微笑みました。


「なるほど、最大限まで溜めた魔力を一気に俺に吸収させて、パンクさせちまおうって作戦だなー。パワー吸収系の敵攻略あるあるだ」


 という像の言葉に、ミズノちゃんは「そうね」と苦しそうな小声で答えます。


「けどよー、やめとけやめとけ。ガキンチョ程度の魔力じゃ無理無理。全部美味しく頂く……ああ、そうか。やっぱやめないでいいぞ、やれ、やれ!」

「あら。勝算は充分にあるわよ」


 そう言って、ミズノちゃんは口元に笑みを浮かべます。


「てーした自信だ。ちょっとカチンと来たわー。あのな、一応言っとくけどさ。てめーらアホモンスターどもはここ数百年、やれ魔王だの何だのとウキウキ気分みてーだけどな。俺はそのマオ―サマってのがイキリ出すよりも遥か昔に作られて、八面六臂の大活躍して来てんだよ。年季がちげーの。実力がちげーの。もう神の領域だわな」

「鳥さんうるさぁ~い……いいから黙って」


 ミズノちゃんの右手から、稲妻が放出されます。



「食べなさい……!」



 轟音と閃光。

 強い光に、私は前が見えなくなりました。


「ミズノちゃん……!」


 私は叫び、足を一歩前に出します。

 金縛りにかかっていた体が、急に動き出しました。

 咄嗟の事でバランスを崩しよろけましたが、そのままの勢いで進みます。


 金縛りが解けています。

 なんだか嫌な予感。


 私は視界が霞む中、ミズノちゃんがいた場所へ近づきました。

 マリアンヌちゃんも金縛りが解けたようで、一緒に駆け出します。

 ミズノちゃんは床に倒れていました。


「ミズノちゃん! しっかりしてください!」

「ミズノさん!」

「……おね……ちゃん……」


 ミズノちゃんはまぶたを閉じたまま、かすれた声を出しました。

 良かった、生きてます……けど、目を開ける体力も残っていないようです。

 いけない、このままじゃ……


「いやー、ごちそーさん。ガキのクセに中々良い魔法だったよ。痺れる味わい、カミナリだけになー。こんだけ質の良い魔法は数百年ぶりだ、褒めてやんぜ。はっははははー!」


 甲高い笑い声。

 真っ白なトリとめ像が、床に転がっています。

 先程の雷魔法で、壁際まで吹き飛んでいます。

 が、無傷です。


 最初は頭だけだったオウム像。

 今は長い尾が生えて。

 そして鋭い爪を持った足まで、生えてしまっています。


「わざわざ消化に良い調理方法をとってくれたおかげでな、ついに完全に戻れたぞオイ!」

「そ、そんな……」


 ミズノちゃんの渾身の一撃が効かなかったのです。

 一気に吸収させパンクさせるという作戦は、失敗してしまいました。


「放っておいてもすぐ死にそうだけどよー。料理まほうの礼に俺が最後まで搾り取ってやっからな! 覚悟して……」


 トリとめ像は、急におちゃらけた口調をやめ、


「死ね」


 と、冷淡に言い放ちました。

 像の宣告を聞き、私はミズノちゃんを守るように抱きしめます。

 こんな事をしても、吸収魔法を跳ね除ける事は出来ないのですが、それでも何かをせずにはいられなかったのです。


「……えちゃん……おねえ、ちゃん……」


 ミズノちゃんが私の耳元で、息も絶え絶えに囁きました。


「お姉ちゃん……足……」

「足……?」


 ミズノちゃんは目を瞑ったまま、聞こえてくる声を頼りに像を指差しました。



 足……トリとめ像の、足。



「そ、そうか……!」

「言った……でしょ……勝算は、ある……って」

「そうですね、ミズノちゃん。私に任せてください!」


 私は立ち上がりました。


「ミィさん、一体何をする気ですの!?」


 疑問顔のマリアンヌちゃんにミズノちゃんの介抱を頼み、私は壁際に転がっているトリとめ像に駆け寄ります。


「おう、どうした赤毛。まあ落ち着いて待ってろよ、その魔族のガキが死んだら次はお前だからよー」


 その言葉を無視し、像を真っ直ぐに立て直しました。


「オゥ、ガール。立ち位置修正してくれんのか? 分かったぞ。俺を神棚にでも上げて崇めて、許して貰おうって腹積もりかー?」


 私は像を掴み、しっかりと床に押さえ付けました。

 そして中腰のまま、小刻みに蹴りを連発します。

 勿論蹴りを当てる場所は、トリとめ像の足。


「うん? 今更俺に物理攻撃が効くわけないだろ。馬鹿だねー狼は。いやさ、狼だから馬鹿なのか?」


 私は無言で、トリとめ像の足を蹴り続けました。

 黒ずんだ細い鳥足。

 今にも折れそうですが、特殊な金属と魔法で作られているらしく、私の蹴りではびくともしません。


 ちらりとミズノちゃんの顔を見ます。

 血の気が全くありません。

 目を閉じ、口を少し開け必死に呼吸をしています。

 そのミズノちゃんを泣きながら介抱しているマリアンヌちゃんも、その奥でペタリと座り込んで目も虚ろにブツブツと呟いているヨシエちゃんも、酷い顔色です。


 お願いです。

 早く!

 間に合って!


「しっかし凄い速さで蹴ってるねーガキンチョ。一秒間に十六回、いや下手するとその十倍くらいのキック。力は無いけど、こりゃあ相当の素早さだね。俺も生まれて千年以上。色んなモンスターに出会ったけどさ、あんたのフィジカルは五本の指に入」



 ズジャジャジャジャンという小気味良い効果音が、部屋内に鳴り響きました。



 それからトリとめ像は、一言も喋る事はありませんでした。

 一瞬で砕け散り、白い砂になったのです。

 頭に生えていた黄色い冠羽はしばらく形を残していましたが、それも床へ落ちた後ゆっくりとヒビが広がり、最後にはぱらぱらと黄色い粉になってしまいました。



 私のスネキック。

 いや違いますクリスタルレインボー。

 会心の一撃が出ると、相手は即死。


 木人形だろうが、鎧人形だろうが、ロボットだろうが、足がある相手には通用します。

 当然、鳥の形をしているアイテムだろうが、です。



「……お、終わった……?」


 私は皆の方へと振り向きます。


「幻覚も、力を吸われる感覚もなくなりましたの……」


 マリアンヌちゃんが呟きました。

 ドアの外に見えていた暗闇も消え、元の建物に戻っています。

 私は、倒れているミズノちゃんに駆け寄りました。


 ミズノちゃんは目を閉じたまま、動きません。


「そんな……私……私……」


 私達は、ミズノちゃんのおかげで助かったのに。

 ミズノちゃんが助からないなんて……そんなの、あんまりです。酷すぎます。


 私は両手でミズノちゃんの手を握りました。

 指先も、掌も、冷え切っています。

 こんなになるまで頑張ってくれて……


「うぅ……ミズノちゃん……」

「……なあに? ミィお姉ちゃん……」


 ……返事をしてくれました。


「計算通りよ。助かったみたいね……ふふっ。さすがミィお姉ちゃん」


 ミズノちゃんはそう笑って、まぶたを開けました。

 ぱっちりとして大きい、可愛らしい目。


「ミズノちゃん!」

「ミズノさん!」


 私とマリアンヌちゃんは、ミズノちゃんに抱き付きました。

 ミズノちゃんも抱き付き返します。

 誰とはなしに笑い声。

 そのまま私達三人は、泣きながら笑い合いました。


 後で聞いた話では、トリとめ像が壊れた事でまだ消化し切れていなかった魔力が漏れ出し、部屋に漂っていたそうです。

 ミズノちゃんはそれをどうにか体に取り戻し、回復出来たとの事。


 ただ今は、とにかくミズノちゃんが生きていた事が嬉しくて。

 助かった理由を深く考えている余裕は、ありませんでした。


「……あれ? アタシ何してたんだっけ……? 確かコーヒーを飲んでると、センパイと王子様が……あれ?」


 ヨシエちゃんも正気に戻りました。

 よろけながら立ち上がり、こちらを見ます。


「皆、なんで女同士で抱き合ってんの……」


 怪訝な顔で呟くヨシエちゃんを、マリアンヌちゃんが大声で呼びました。


「ヨシエさん! ほら、ヨシエさんも早くこちらにお混ざりあそばせ!」

「え……? ええー……?」


 ヨシエちゃんは意味が分からないって顔をしながらも、渋々こちらへやって来ます。

 私達四人はミズノちゃんを中心に、熱い抱擁をしたのでした。


 おしくらまんじゅう状態で。

 汗と涙をぼろぼろ流して。


 見た目は暑苦しいですが、気持ちはとても爽やかです。

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