最強超便利アイテム(みやぶりがーるず)
「あれー!? ちーちゃん、私の考えた最強超便利アイテムが無いんだけどー!」
皆で作ったゲ―ム『剣と魔法のモンスタースレイヤーバスタードPrimeWaltz天下一品』(仮)の完成品。
正確には途中で締め切りが来たので未完成のままですが、とにかく一応完成品。
ちーちゃんさんが持ってきたデータを、美奈子さんのパソコンに取り込みプレイしています。
「便利アイテムって何よ」
「ほらー、モンスターに使うと毎ターン混乱魔法が掛かって、HPとMPもどんどん削れていって、オマケに逃走不可能になるヤツ! はぐれメタル的なのを倒すのに持って来いなー」
「ああ、そんなのあったわね。データには存在してるわよ。本編には出てこないけど」
「もー、没データ多すぎだよー」
美奈子さんはぷりぷり怒りながら、ペットボトルのミネラルウォーターを一口飲みました。
このお水はちーちゃんさんが持ってきたものです。
「仕方ないでしょ、時間無かったんだもの」
「みんなお酒ばっか飲んでるからー!」
「そりゃあんたが率先して飲んでたからね」
ちーちゃんさんはそう言って、美奈子さんの頭を軽くチョップしました。
「でも勿体ないねー、せっかくちーちゃんもお得意の中二設定を考えてたのに」
「そうね、確か……千年前に起こった人間とモンスター間の戦争において、人間の魔導士が作った呪いの像。人間軍の勝利に貢献した。モンスターに打ち勝ち領土や財宝を奪い取った人間軍は、そこに新たな王国を建国する。魔導士は功績を認められ、国の重要なポストに任命。王国の発展に貢献した。その国は千年以上続き、何を隠そう勇者サマの故郷の国で……」
アイテムの設定ではなく、世界観の設定に飛躍してしまっていますが。
「そうそう、それで混乱したモンスターは取り留めの無い話を続けるからー、トリとめって事で鳥の形をした像だー!」
「それは私が考えた中二設定じゃなくて、あんたが考えたオヤジギャグね」
―――――
「おいコラ赤毛狼少女。どーやって俺の正体を見破った」
トリとめ像に操られているヨシエちゃんが、そう言いました。
正体を見破ったというか、知っていたというか。
私の前世が考えたアイテムだから、当然知識があるわけです。
何故、私だけ混乱魔法と吸収魔法を掛けられなかったのか。
私が後回しになるような理由を考えた時、単純に『私の座っていた席が犯人から一番遠いから』というパターンを思いつきました。
混乱魔法が掛けられた時、私達はテーブルを囲み、二つのソファに座っていました。
私の右隣りにはミズノちゃん。
私の正面にはマリアンヌちゃん。
私の右斜め前、つまりミズノちゃんの正面、マリアンヌちゃんの隣にヨシエちゃんが座っていました。
そして私が犯人から一番遠い席にいたとなると、私から一番遠い席に座っていたヨシエちゃんの近くに、犯人がいるという事。
ヨシエちゃんの席の周辺を見ると、これ見よがしに置かれている謎のオウム像。
それが前世の記憶にある呪いの鳥像と結びつき、犯人を特定出来たというわけです。
まあこの推理過程を、目前の白いオウム像に説明する気はありませんが。
「まずはヨシエちゃんの口を乗っ取るのをやめてください」
私は強気に命令します。
「ふん、まあ良いだろう。俺の事を知られてるなら、もうこの黒毛のガキを操って姿隠す必要もねーからな……黒毛牛のステーキを一緒に食べたんだ。アイツの奢り。初めてのバイト代だからって無理しちゃってさ。見栄っ張りなんだから」
ヨシエちゃんは台詞の途中で、好きな少女漫画の展開を言い出しました。
どうやら像に操られている状態からは解放されたようです。
しかし、混乱状態はまだ続いています。
「ヨシエさん、大丈夫ですかいな昔の傷跡が疼いているようでんな、アニキ」
マリアンヌちゃんはヨシエちゃんの肩を揺さぶりながらも、自分も軽く混乱しています。
「こ、混乱魔法と吸収魔法、それと部屋に閉じ込める魔法も解除してください!」
「はあ? 馬鹿だねガキンチョ。正体バレてもめんどくせーだけで、俺が負けた訳じゃねーの。俺は神の考えた最強超便利アイテムだぞ。テメーらモンスターは皆殺し。全員の力吸い取ってやっから、お喋りでもしながら待ってろって」
甲高い声が響きました。
トリとめ像自身が声を出しています。
「じゃあ、床に叩きつけて壊します!」
「あっ、おいやめろよ馬鹿」
「えいっ!」
私は両手で像を振り上げ、思いっきり投げつけました。
鈍い音がして、床に傷が付きました。
像は無傷です。
「あーあ、ほら床が壊れただろ。勿体ないね~。俺サマは特殊な金属と呪法で作られたスーパーアイテムなんで、これくらい屁でもないけどな!」
「あぁぁ……床がぁ……ご、ごめんなさいマリアンヌちゃん」
「それくらい気に致しませんわ! それよりその像を壊せないのなら、お外にでも捨てて命も捨てて組のために尽くす覚悟でござんす」
「そうか、そうですね!」
マリアンヌちゃんの提案を聞き、私はトリとめ像を持ち上げ、部屋のドアへと駆け寄りました。
「わあ、馬鹿おい馬鹿! 馬鹿狼!」
「馬鹿って言う方が馬鹿ですぅ!」
私はドアを開け、外に広がる暗黒空間にトリとめ像を放り投げます。
次の瞬間、ガシャーンとガラスの割れる音がしました。
「ぐえー!」
マリアンヌちゃんの悲鳴が上がります。
ドアから放り投げたはずの像が、「バーカバーカ!」と叫びながらガラス窓を割り、部屋の中へと飛び込んで来たのです。
そしてマリアンヌちゃんの頭に当たったのでした。
「ま、マリーお姉ちゃん大丈夫?」
「わああ! ごめんなさいごめんなさいマリアンヌちゃん!」
マリアンヌちゃんは後頭部を抑え、呻きながらもニヤリと笑います。
「お気になさらずミィさん……それにショックで混乱魔法も解けて、頭がスッキリ致しましたわ。オーッホッホッホッホッホ!」
さすが中ボス。タフです。
「それより、その像をどうするかですわ。床に叩きつけても、外に捨ててもダメならば……そうだ、オジキ……じゃなかった、わたくしとミズノさんの火の魔法で溶かしてしまいましょう!」
「そうねマリーお姉ちゃん。それしか無いみたい」
トリとめ像を床に立てました。
マリアンヌちゃんとミズノちゃんは像を挟むようにして立ち、両手の平を像に向けます。
「せーのっ!」
二人の手から、大きな火の玉が放出されます。
トリとめ像を両側から焼き、床に炎が広がりました。
「おいおい火事になっちゃうだろーアホガキども。子供は火遊びしてんじゃないよー、まったく。俺が消火してやっから感謝しろよ。はははははー!」
像は笑っています。
見る見る間に、炎が像に吸い込まれていきました。
「そんな……魔法に変換した魔力まで吸収できるの……?」
ミズノちゃんはそう言って、辛そうに手を降ろしました。
足元がふらついています。
私とマリアンヌちゃんは慌ててミズノちゃんを両側から支えました。
しかしそんなマリアンヌちゃんも、今にも倒れそうな顔色の悪さです。
「余計な魔力費やしても死期が早まるだけだぞ~はっはっは。まあ攻撃魔法に変換してくれた方が、味も消化も良くなるので俺としては助かるけどな」
トリとめ像はあれだけの炎に囲まれた後だと言うのに、焦げ一つなく真っ白な体のままです。
固い金属で出来ているはずなのに、胸や両手の羽がまるで本物のように柔らかそうな見た目で……
……胸、両手?
気のせいでしょうか。
最初見た時は首から上しか無かったと思うのですが、いつの間にか首から下が生えています。
「こ、この像、もしかして大きくなってますか?」
「……そうですわね、確かに。ワシらのシノギをぶんどって……コホン、失礼。わたくし達の魔力を吸い取って、成長しているようですわ」
マリアンヌちゃんが言いました。
どうやら私の気のせいでは無いようです。
トリとめ像の形が、変化しているのです。
「おお、その通りだぜガキンチョ共。俺は元々鳥の全身をかたどった像だったんだよ。それがこの千年間、モンスターのいない場所に飾られてたり、倉庫に片付けられてたり……酷い時は川底に沈められてたりな。たまにしか食事が出来なかったのさ。俺の身体は金属と魔力で出来てる。質の良い魔力を食わねーと徐々に小さくなってくんだよ。泣ける話だナア。カワイソーだろうオイ!」
「全然可哀想じゃないわね。そのまま消えちゃえば良かったのに」
ペラペラと喋り出した像に対し、ミズノちゃんが睨みながら呟きました。
「かーっ憎たらしいガキだね。まっ、そんでここ数十年くらいはカケラも食い物にありつけなくてな。遂に頭だけになっちまった。声帯も無くなって、混乱魔法や吸収魔法も唱えられなくなって。何の因果か、こんなクソガキ趣味の気味悪い店に運ばれてよー」
「クソガキ趣味……? し、失礼ですわね! いてこましたろうかガキ……い、いえ。ぶっ壊しますわよ鳥野郎!」
マリアンヌちゃんは、混乱魔法のせいで口から出たヤクザ風の台詞を、とっさに言い直しました。
が、どっちにしろお嬢様らしからぬ乱暴な言葉遣いでした。
「だがそこのブラックゴスロリガキが火の魔法、そして金髪成金ガキが冷気の魔法を使ってくれたおかげでなー。なんとか声帯部分まで復活したんだ。ありがとよ。お礼に殺してやろうと思ってな」
「火と冷気の魔法……そうか、あの時ですね」
ヨシエちゃんのチョコレートを溶かすために、ミズノちゃんが使った火の魔法。
そしてマリアンヌちゃんが魔力を漏らした時に、無意識に使っていた冷気の魔法。
あの時に発生した魔力を吸い取って、復活しちゃったというわけですね。
「そっちの中途半端にクールぶってる黒髪の人狼は、たいした魔力を持っていないようだが」
「うん持ってない。アタシがアイツのためにしてやれるような事は、何もないんだ。ううん一つだけあった。それは抱きしめてあげる事。抱きしめ持ち上げ、押せ。押せ。押しだしー。大関今場所初白星」
ヨシエちゃんは錯乱した台詞を喋りながらも、トリとめ像の言った悪口に反応したのか、睨みながら近づいてきました。
「そっちのゴスロリ魔族と、金髪の純血人狼は中々の餌になるな。俺も久々に全身復活出来そうだ。感謝感激だーマヌケなガキども。そっちのしょべんくせー赤毛狼はどうかな? たいした事なさそうだけどよ、まあ誰か死んだらそれと入れ替わりでゆっくり食ってやっから」
「しょん……? し、失礼な像ですね」
私は像を持ち上げ、叩きました。
当然無意味でしたが……
「しかし一体どうすれば……どうすれば黒狼工業高校との全面戦争に勝てる……こほん、この状況を切り抜けられますの」
というマリアンヌちゃんの嘆きに答えるように、ミズノちゃんも呟きます。
「……私とマリーお姉ちゃんが唱えた魔法は吸収される……そしてじっとしていても魔力をどんどん吸い取られる……そして私もお友達みんなとピクニックに行って、お弁当美味しかったです。楽しかったなあ。また明日遊ぼうね、みんな」
「ミズノちゃん?」
ミズノちゃんが真面目な顔で、訳の分からない事を言いました。
私はミズノちゃんの顔を見ます。
「……あっ、あれ……? どうしようお姉ちゃん、私一瞬、混乱魔法に掛かってたみたい……そんな、この私が……?」
ミズノちゃんは目を大きく開け、愕然とした表情になっていました。
魔力を吸われ過ぎて、混乱魔法に抵抗する力が弱まってきたのでしょうか。
ついにミズノちゃんまで錯乱状態になりつつあるようです。
「あー、惜しいなあ。もうちょっとだったのに。頑張るねえ子供のクセに」
像が笑いながら言いました。
とても憎々しい笑い声です。
私は像を床に叩きつけました。
さらにマリアンヌちゃんが像を踏みつけます。
しかし、傷付くのは床ばかりです。
「落ち着きなって。しかしゴスロリ魔族は粘るねーこれ。オチビさん、あんまり読書や観劇しないのかな。好きな作品を思い出させる系の混乱魔法はどうにも効果が薄いようだ。せっかく俺の好意で、死に際に楽しい幻覚を見せてあげようとしてるのにさー」
「……そうね、私は物語よりも魔術書とか読む方が多いもの。思い出すのは赤ちゃんの頃に読んだ絵本くらい。それもおぼろげな記憶よ」
ミズノちゃんが荒い息で言います。
「それはそれはまーまー、小さいのに糞真面目な生活だ。可哀想にねー」
「私は自分を可哀想だとは思ってないわよ」
「ふーん。まあでもそんなカワイソ~なガキには特別プレゼントをあげよう。混乱魔法の波長を変えて。本や映画の事以外で、どうしても口にしたくなる……そうだな、ジメジメするから本当はあんま好きじゃねーけど、あのパターンにしよう」
トリとめ像の目が怪しく光りました。
ミズノちゃんは急に体中の力が抜けたようにうな垂れ、膝をつきます。
私とマリアンヌちゃんは、慌ててミズノちゃんを両脇から支え直しました。
「ミズノちゃん! しっかりしてください!」
「そうですわ、こんな鳥に負けてんなやワレ……負けてはいけませんわ!」
二人でミズノちゃんに呼びかけます。
「お姉ちゃん……ミィお姉ちゃん……」
「ど、どうしたんですかミズノちゃん!」
ミズノちゃんが私の名前を呼んでいます。
消え入りそうな程小さく、震えた声。
「ごめんなさいお姉ちゃん……ごめんなさい……」
その瞳に涙を浮かべ。
ミズノちゃんは、急に泣き出してしまいました。




