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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
どうでも良い事をぐだぐだお話するガールズ編
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混乱(すきなものがーるず)

「攻撃されてる……!?」


 私が驚いてそう聞き返すと、ミズノちゃんは頷き、ソファの背もたれに沈むように寄り掛かりました。

 かなりだるそうにしています。


「そうだ、アタシは攻撃されてるんだ。イジワルな恋のライバル達から、リコーダーに羊の血を詰められて。でもアタシ負けないよ。だって王子様に選ばれたのはアタシだもん。羊の血はソーセージにして美味しく頂きました。豚の血でした」


 ヨシエちゃんが錯乱して意味不明な事を言っています。

 心配ですが、ここは一旦スルーしましょう。

 ミズノちゃんが話を続けます。


「特殊な結界が張られてるみたい。ここにいると魔力と体力が吸われちゃう……」

「吸われる……? た、大変です! 皆さん早く脱出を……」


 私は立ち上がり、部屋の入り口に駆け寄ります。

 その間にもマリアンヌちゃんは、


「脱出って、脱獄する気ですの? おやめなさいな新人さん。また看守に見つかって、今度は腕の一本も折られるかもしれませんわよ。普通ではありえないけど、この少年院ではそういう事もザラなんですぜい」


 そしてヨシエちゃんも、


「そうだよ。アタシのバンドが初ライブ成功した時にさ、五つ年上の幼馴染が良くやったなって頭ポンポンしてくれて。そんで壊れたヘリコプターが落ちて来たんだけど、王子様はアタシの腕を引っ張って助けてくれたんだ。お前の卵焼きコゲコゲだなって」


 と、こんがらがった台詞を口にしていました。

 心なしか、マリアンヌちゃんよりヨシエちゃんの方が混乱の度合いが酷い気がしますが。

 とにかく早く二人を治さなきゃ、と思いつつ私はドアノブを捻ります。

 開かない。って展開を予想しましたが、意外にもすんなりドアは開きました。

 しかし……


「わっ、真っ暗……野外!? 夜!?」


 ドアの外は、お店で働く店員さん達が待機するスタッフルームに繋がっていたはずです。

 しかし今ドアを開けた先には、真っ暗な闇がどこまでも続いています。

 このまま部屋から出るとどうなるのでしょうか……怖くて確かめたくありません。


「この部屋、外から切り離されちゃったみたいね……」


 ミズノちゃんはドアの外に広がる暗黒を見て、そう呟きました。

 目が虚ろで、息が荒くなってきています。


「ミズノさん、相当つらそうですけど……大丈夫ですこと?」


 マリアンヌちゃんが心配そうにミズノちゃんに駆け寄りました。


「マリアンヌちゃん! 正気に戻ったんですか?」

「そうですわ、つらい時には一緒に一杯飲むといたしましょう。ほら丁度あそこに赤ちょうちんが見えてまいりましたわ。今日はワテの奢りどす。なあに、遠慮はいりまへんわ。その代わりオジキによろしゅう頼んまっせ」


 安心する間もなく、再び錯乱状態に戻ってしまいました。

 勿論、赤ちょうちんなどありません。


「考えを混乱させる魔法が掛けられてるの……マリーお姉ちゃんは頑張って抵抗してるみたい。一瞬だけ正気に戻ったようね」


 私はマリアンヌちゃんの顔を見ました。

 ミズノちゃんと同じように、額に汗がびっしょりです。


「混乱させる魔法、力を吸い取る魔法、そしてこの部屋を元の空間から遮断させる魔法。少なくとも三つの攻撃を受けてる……」


 ミズノちゃんは指を三本立てます。


「混乱魔法と吸収魔法のセットがやっかいね。私の力でもどちらか片方しか跳ね除けられない……スー様並の魔法よ」


 ゲームの設定として、ミズノちゃんには魔法が効かないと言う特性がありました。

 まあゲームには実装されていなかったのですが……

 ともかく、そんなミズノちゃんでも抵抗しきれない高レベルの魔法みたいです。


「錯乱したらどうしようも無いから、今は混乱魔法を跳ね除けてるけど……このまま魔力を吸い取り尽くされちゃったら抵抗する力も無くなって、遅かれ早かれ混乱魔法にも掛かっちゃう……」


 そう言ってミズノちゃんは強気に微笑みましたが……手が震えています。

 とても強いモンスターですが、まだ小さな女の子。不安なのでしょう。

 私はミズノちゃんの手を握ります。

 ミズノちゃんも強く握り返して、現状の説明を続けてくれました。


「さっきから頭の中で、今まで見た事がある劇や映画を思い出してるの。別に思い出したいわけじゃなく、頭の中で勝手に再生されてるような形。ヨシエお姉ちゃん達が喋ってるのは、多分二人がそれぞれ好きな作品の好きなシーンね」


 なるほど、それが混乱魔法の効果らしいです。

 好きな映画のワンシーンが頭の中で流れた後に、続けて別のドラマのワンシーンが流れる。

 それを口にしちゃうので、言葉が支離滅裂になってしまっているのですね。


「でもセンパイはアタシに言ったんだ。俺のモノになれ。俺と一緒に屋台やろうぜ。カラスミを売るんだ。そして壁にドンってやってアタシは柄にもなくドキドキしちゃったんだ。風邪かな? 病院に行ったらインフルエンザだった」


 ヨシエちゃんは多少変なのが混ざっていますが、基本的には少女漫画のラブコメ作品が多いようです。

 普段はちょっぴり不良気味なヨシエちゃんですが、なんだかんだで恋愛モノに憧れているのですね。


「わたくしも最近見た映画の名シーンが頭の中をぐるぐる回ってますの……回って……でもアニキ、回転式の銃しかあらへんのや。このタイプの銃には消音器は使えまへんで。ほったらワテんとこの鉄砲玉一人貸しますわ」


 マリアンヌちゃんは混乱魔法に抗いながらも、任侠映画やヤンキー映画的な台詞を言います。

 な、なんだか意外ですね……好きなんですかそういうの?

 むしろヨシエちゃんが好きそうな作品ですが……


「くうぅぅ……いけませんわ、気を緩めるとすぐに混乱してしまいますの。気を引き締めますの。油断してたらすぐ背後から刺されっからよぉ。この高校は悪の吹き溜まりだからナァ!」


 さっそく混乱していますが、しかしマリアンヌちゃんも中ボスなだけはあり、かろうじて正気は保てているようです。


「でもそんなアタシも一つだけ得意な事があるんだ。それは意外にもピアノ……アイツもそれだけは褒めてくれる。あとコーラの一気飲み」

「ヨシエさんは完全に術に掛かり切ってますわね……しかしミィさんは平気なようですが、一体何故、銀人狼会のガキどもはワシらに抗争を仕掛けて来たんじゃ。あいつらには一寸の得もありゃあせんじゃろうが」

「えっ、抗争って何が……あっ後半は映画の台詞ですね」


 どうして私だけ無事なのか、って言いたいみたいです。

 私の魔力は元々空っぽなので吸収される事もないのですが、体力を吸われている感覚もありませんし、混乱魔法にも掛かっていません。


「確かに私だけ……何故でしょう?」


 その疑問に、ミズノちゃんは少し考えて答えます。


「そうね。考えられるのは、ミィお姉ちゃんが状態異常系魔法への耐性能力や、アイテムを持っているか」

「でも私ってば防御力しか取り柄が無いですし、持ってるのもお菓子くらいで……」


 以前ミズノちゃんの金縛り術にも易々と掛かりましたし。

 そもそもゲーム中最弱設定の私に、状態異常系に対する耐性なんかは全く無いはずです。


「となると……これだけの強力な魔法は、同時に三人までしか掛けられないってパターンかしら……」

「ピンポーン、お嬢さん正解正解」


 ヨシエちゃんが低い声でそう喋りました。


「空間遮断魔法まで使ってっからな、三人が限界だよ。まあでも他の子の力をゆっくり吸い終わった後、その赤毛のチビっ子狼さんも餌にさせて貰うぞ」

「よ、ヨシエちゃん……?」


 ヨシエちゃんらしからぬ口調。

 そしてさっきまでの混乱していた様子から一変し、ハッキリとした口調で、しかし虚ろな目で話しています。


「あなた、この魔法をかけているお方ですわね! ヨシエさんの口を乗っ取って……うちのシマを乗っ取ろうとはてえしたタマだ。ヤンチャな兄ちゃんじゃのう。ワシらのオヤジが黙っとら……ええい! わたくしったら、気をしっかり持つのですわ!」


 マリアンヌちゃんは自分の両頬をバチンと叩き、気合いを入れました。

 どうやらこの状況を作り出した犯人が、ヨシエちゃんの体を使って喋っているようです。


「よ、ヨシエちゃんから出て行ってください!」

「出て行く? はははっ別に体に入り込んだわけじゃないよ、ユーレイじゃねーんだ。混乱魔法ついでに俺の代わりに喋って貰ってるだけ」


 イマイチ違いが分かりませんが、どっちにしろやめて欲しいです。


「しかし俺の魔法に抵抗できるモンスターが二体もいるとはな。ささっと食事済まそうと思ったが、こりゃ意外に手こずりそう。めんどくせーなあ!」

「じゃ、じゃあそのめんどくさいお食事をやめて、今すぐ開放してくださいぃ!」 


 私がそう言うと、ヨシエちゃんの口を借りている謎の犯人は、大声で笑い出しました。


「はははダメダメ。こちとら数十年ぶりの食事なんだ。おめーらの魔力全部貰って、ついでに魂まで頂くから。それで俺はより強いアイテムになんのさ」

「アイテム……? あなた、人間でもモンスターでもなく、アイテムなんですか?」

「あっヤベ」


 どうやらこの犯人さん、混乱魔法で他人をお喋りにしちゃう能力を持っているようですが、自分自身もかなりのお喋りなようですね。


「まっでも、それが分かった所でどうしようもねーだろ。どうせおめーら皆もうすぐ、ここで死ぬのさ」

「くっ、確かに……わたくしも、もうそろそろ限界を越えた戦いさ。わたくしとテメー、どっちがこの学校の頭になるか。恨みっこ無しだぜ。この学校では喧嘩の強さが全てなのさ。文句は言わせないぜ」

「マリーお姉ちゃん、しっかりして……はぁ……でも、私もそろそろキツイかも……」


 魔法にかけられている三人とも、ますます具合が悪くなっているようです。

 ギュッと握っているミズノちゃんの手も、少し力が弱くなっています。

 操られているヨシエちゃんに至っては顔面が真っ青。

 早く助けないと、本当に死んじゃう……


 しかし、何か引っかかります。

 混乱魔法と吸収魔法は、三人までにしか掛けられないと言っていましたが、どうして『私が』除外されたのでしょうか?

 私が魔力ゼロだから?


 いいえ、そんなの実際に魔法を掛けてみるまで分からないでしょうし、魔力が無くても体力を吸えば良いだけの話です。

 適当に選んだにしても、何かしらの理由があるはずです。

 例えば体格順とか……私の背の高さは、このメンバー内で二番目に低い。胸も……いやそれはいいや。

 とにかく中途半端な体格なので、それで後回しになる事は無いでしょう。


 となると、他に考えられることは?


 ヨシエちゃん達が混乱し始めた、あの時。

 あの瞬間、私だけが除外されるような理由……?


「……分かりました」


 私は顔を上げ、操られているヨシエちゃんを見ました。


「ほお、もう助からないって事が分かったのか? その覚悟やヨシだ。素直に死んでくれ」


 という犯人さんの言葉を無視し、私はミズノちゃんの手を離し、立ち上がりました。

 そしてヨシエちゃんの方へと歩み寄ります。


「ん? どうしたおい。ああ分かった、この黒髪の人狼を殴って正気に戻そうって考えか? 無駄無駄。万一それで混乱魔法が解けても、どっちにしろ魔力体力は吸い続けるんだ。死ぬしかないのさ」


 私はヨシエちゃんの座っているソファを通り越し、更に後ろの棚へと近づきました。

 閉じ込め、混乱させ取り留めの無い話をさせ、力を吸い取るアイテム。

 とりとめの無い……


「お、おお? なんだ、何しようってんだ? やめろおい、悪い事言わねえから座ってろって、な!」


 どうやら口は操れても、ヨシエちゃんの身体の動きまでは操れないようです。

 私は棚の前に立ち、


「思い出しましたよ」


 と呟きます。


「何を思い出したってんだ、コノヤロー、やめろ馬鹿触んな!」

「あなたが犯人ですね」


 私は、白いオウムさんの像を持ち上げました。

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