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エルフ喫茶(けもみみうぇいとれす)

「おねえちゃんたちありがとう! バイバイ!」


 迷子センターで無事迷子の吸血鬼さんと御両親を再開させた私達は、お礼としてお土産のお菓子を頂き、吸血鬼一家と別れました。


 せっかくなのでさっそくお菓子を食べちゃおうと食事が出来そうな場所を探すと、いくつかのカフェが共用しているオープンテラスがあったので、飲み物を買って三人で座る事にしました。



「エルフの里って山奥の田舎だと思ってたけど、このテラスみたいに賑やかなトコ結構多いね。うちの村より都会だ」


 そう言いながらヨシエちゃんは、お菓子の包装紙を破きました。


「そうだね。私たちの村でテラスみたいにお洒落なトコっていうと……特にないです。一番都会っぽいのは牛丼屋くらいですね」

「魔王城の中にも一応カフェはあるよ。でもいつも死体臭くてあんまりお洒落じゃないの」


 と言って、ミズノちゃんがお菓子を一口。


「わぁ~、このお餅のお菓子美味しいね」

「はい、美味しいですねこの、えっと……お餅の方が『エルフぶらぶら』。そしてこっちは『エルフサブレ』ですか」


 私もそう言ってお菓子を食べて、ジュースを飲んで……そしてふと考えます。


「なんだか最近お菓子ばかり食べてる気がします」

「そう言えばミィの部屋にお菓子たくさんあったね。今日も鞄にたくさん入れてたし」


 先日の透明な箱探索で大量に用意しておいたお菓子が、今も余りまくっているのです。


「へぇ。人狼もお菓子好きなの?」


 ミズノちゃんが楽しそうに聞いてきました。


「そうだね、アタシ達くらいの歳だったら甘いモノ好きって人狼も結構いるかな。アタシは肉の方が好きだけど」

「私はお肉よりも、ケーキやお饅頭の方が好きかも……」


 と、私が言うと、ヨシエちゃんが苦言を呈してきました。


「アタシ達狼なんだから、主食の肉を食べないと成長しないよミィ」

「確かに、ヨシエお姉ちゃんに比べてミィお姉ちゃんは小さいかも。ふふっ」


 それって身長の事ですよね。私は自分の胸とヨシエちゃんの胸を交互にチラ見した後、微かな危機を感じ、この話題は避けようと試みました。


「み、ミズノちゃんもお菓子好きなんですね」

「そうね。んー、でも私もお菓子よりは主食の方が好きかなぁ」


 そう言ってミズノちゃんは、優雅に紅茶を一口飲みます。


「主食ってなんです? お米?」

「魂」

「あー、そっち系ですかー」

「太らなくていいよね。ところで魂ってどういう味なの?」

「そうねえ……お米かな」



 そんなモンスターガールズトークをしていると、エルフの男の人が近づいて来ました。



「君、この犬っぽい耳はアクセサリーかい? 本物かい?」

「え? えっと、一応本物ですけどぉ……」

「素晴らしい! よく見るとシッポまであるじゃないか。君達もしかして人狼だね!」

「ぁぅ……」


 知らない男の人が、私の耳と尻尾をべたべた触って来ました。


「オイ何やってんだおっさん。痴漢かテメー!」


 そう叫んでヨシエちゃんが男の人に飛び蹴りをかましました。

 男の人は吹っ飛んで、後ろのテーブルに派手に突っ込み、バキバキバキッと盛大な音を立てました。

 空席で良かったです。


「やだ~。痴漢怖ぁい」


 そう言ってミズノちゃんが紅茶を一口。


「も、申し訳ない、人狼が珍しくてつい……でもおじさんは痴漢じゃないんだ」


 痴漢のおじさんが、壊れたテーブルの中から這い出て来ました。


「やだ~。まだ生きてる」

「痴漢は皆自分は痴漢じゃないって言うんだよ」

「違うんだ。話を聞いてくれないか。おじさんはそこの……」


 そう言って男の人が、一つの店を指差しました。


「あのカフェの店長なんだよ」




―――――



「ぃらっしゃぃませーぇぇ……」


 ……私は声が小さいので無視されてます。


「ちょっと寄ってきなよおっさん達……おい何ジロジロ見てんだよコラ」


 ヨシエちゃんは私と違ってハキハキとお客さんを呼び込んで、そのままガン付けて追い返してます。


「ふふっ、いらっしゃいませぇお客様~」


 ミズノちゃんは眩しい笑顔で、次々と観光客の皆さんを魅了しています。



 急ですが、私たちはウェイトレスをやっています。

 なぜこんなことになっているのかと言うと……




 あの痴漢エルフおじさんは、この辺りでも一番大きいカフェの店長さんでした。


「へぇ~。痴漢エルフおじさんなのに、あんな大きい店の店長なんだ」


 そう言ってミズノちゃんが紅茶を飲み干しました。


「で、その痴漢エルフ店長が何の用だコラ」

「だから痴漢じゃなくて……」


 痴漢エルフ店長おじさんの話によると、バイトの子が急病で欠勤になってしまい、他の従業員の時間も合わず、途方に暮れていたらしいです。


「そんな時に君たち、ケモ耳少女とゴスロリ少女を見つけて『これだ!』と思ったんだ」


 つまり私たちに臨時ウェイトレスをやってくれないか、との事です。

 ウェイトレスって知らない人に『いらっしゃいませご注文は?』とか言うアレですよね。


 無理無理。私には無理です……!


「えーっと……でも、もう日も暮れてますしぃ……七時にはホテルの晩御飯が」

「山だから暗くなるのが早いだけでまだ五時前なんだ。今シフトに入ってる子が五時に帰っちゃうので、次のバイトの子が来る六時までの一時間でいいから頼むよ!」

「……私達まだ未成年だから、労働基準法がぁ……」

「エルフの里にはそういうのは無いんだよ」

「えぇーっと……」


「オイしつこいよ痴漢エルフ店長」


 ヨシエちゃんが睨みつけます。

 こういう時にヨシエちゃんのヤンキーっぽいカンジは頼りになります。

 ここはヨシエちゃんに任せて追い返して貰いましょう。


「バイト代は通常の二倍、いや三倍出すから!」

「金じゃないんだよ」

「店で出すお菓子なんかもたくさんあげちゃうよ!」

「いらない」

「エルフ特製の恋愛成就のお守りもあげちゃうよ。中々手に入らないよ! 君たちくらいの歳の女の子に大人気だよ!」

「だからいら……な……何?」


 あれ?

 ヨシエちゃんの勢いが急に弱くなったような?


 その隙に痴漢エルフ店長おじさんはここぞとばかりに勢いづき、近くの棚から件のお守りを三つ取り出しました。


「このお守りは凄いよ。好きな人にあげるとエルフの魔力で両想いになれるよ! おじさんの友達はこれ使って四回も結婚したよ!」


 それって三回離婚してるんじゃ……


「あら。確かにエルフの魔力が込められてるみたいね。恋愛成就に効くか分からないけど」


 ミズノちゃんがお守りを一つ手に取り、確かめました。


「……まあその……ああ、これミィが欲しがってたやつかな?」

「ええ? いやいや欲しがってるも何も初めて見ましたけど……ヨシエちゃんの勘違いじゃ」

「仕方ないね。まあ人助けもたまにはやらないとね」


 どうしちゃったんですかヨシエちゃん。


「ふふっ。楽しそうだし私もオッケー」


 ミズノちゃんまで了承してしまい、なし崩しに私も手伝う事になりました……




「ミィちゃんとヨシエちゃんは制服に着替えて貰うとして、ミズノちゃんはせっかくだからそのゴスロリ服のままでお願いするよ!」

「汚れたら弁償してね、痴漢エルフおじさん」


 ミズノちゃんがにこやかに承諾しました。


「なんかキモイね痴漢エルフ店長。あんたの趣味で言ってない?」


 というヨシエちゃんの問いを聞いてるのかいないのか、痴漢エルフ店長おじさんは興奮した様子で話を続けます。


「いつかこういう日が来ると信じて用意してたんだよ! 専用の穴を空けたことでケモ耳ケモ尻尾を隠さない、人狼少女用の完璧な制服を! ついに! ついに!」


 え……この人気持ち悪い……


「……やっぱりやめようよヨシエちゃん」


 そんな私の呟きを聞いて、痴漢店長おじさんは我に返ったのか、少し落ち着きました。


「おっと失礼。この里には色々なモンスターが観光に来るのに、何故か人狼はほとんど来なくてね。本当に待望だったんだ」

「アタシ達狼はナワバリ意識が強いからね。特にオトナ達は、他の種族の生活圏にはあんまり入りたがらないんだよ」


 お兄ちゃんも里の中を歩き回る事を遠慮していました。

 まあお兄ちゃんはボスキャラであることの責任もあるし、狼に変身すると五メートルもあるし、変身前から身長二メートル近くの長身で目立つしで、余計に気を使ってるんだと思いますが。



「いかん、そろそろ五時になってシフトに穴が開いてしまう! お客様にメニューを渡して注文取って、それを調理場のコックに伝えてくれればいい。レジ打ちは僕がやるので。では頼むよ!」


 そう言われて私達三人は、いざホールへと繰り出しました。


 まだ五時までは数分あったので、まず最初は前のシフトに入ってる先輩バイトさんの仕事ぶりを見学し、なんとなく仕事内容を理解しました。



「いいいいらっしゃませせ。ごごご注文……」


 最初のお客さんに対して、私は緊張しすぎて小声の上に噛みまくりでした。

 しかしお客さんが親切なお姉さんで、逆に気を遣って貰って事なきを得ました。


「オイ何見てんだおっさん!」


 ヨシエちゃんは牙を剥いてお客さんを怒鳴りつけてました。


「ちょっとちょっと、どうしちゃったのヨシエちゃん!」


 痴漢店長おじさんが慌てて様子を見に来ます。


「この客の目線がキモいんだよ」

「……やっぱり、ヨシエちゃんには呼び込みとかをお願いしようかな」


 さっそくホールから外されちゃったみたいです。

 痴漢店長おじさんがお客さんに平謝りしてます。


 ミズノちゃんの方を見ると、得意の笑顔でそつなくこなしています。

 さすが四天王は要領が良いです。見習いたい。


「そうだ、どうせならヨシエちゃんとミィちゃん、ケモみ……人狼二人のコンビで呼び込みして貰ったら、集客効果が高そうだなあ」


 痴漢店長おじさんは、店内を見渡して言いました。


「今はお客さん少ないし、とりあえずホールはミズノちゃん一人で大丈夫そうだしね」



 と言う事で、


「ぃらっしゃぃませーぇぇ……」

「ちょっと寄ってきなよおっさん達……おい何ジロジロ見てんだよコラ」


 私とヨシエちゃんは、店頭にて呼び込みのお仕事をさせられています。



「寄ってらっしゃいみなさーん。エルフの里名物! 人狼ケモ耳ウェイトレスちゃんだよー!」


 痴漢店長おじさんが勢いよく宣伝しています。

 エルフの里の名物が人狼っておかしいと思うんですけど、それでもやはり人狼が珍しいのか、意外と人は集まってます。


「いやー大盛況だよ、ありがとう皆! 正式に店で雇いたいくらいだ!」


 それは嫌です……




「おお、なんだ~。可愛い娘がいるじゃねえか~」

「うっ。お酒臭い……」


 呼び込みを続けていると、酒瓶持った筋肉ムキムキなおじさん二人組がやってきました。どうもベロンベロンに酔っ払っているようです。


「こっちのチビはともかく。そっちのおねーちゃん、俺たちにお酌してよ~」


 そう言ってヨシエちゃんに話しかけてきました。

 ……チビって私の事ですか? まあ背は低めですけど……失礼な大人です。


「何だよおっさん達臭いんだけど」


 そう言ってヨシエちゃんが睨みつけても、おじさん達は「かわいー」とか言って怯みません。


「あ、あのぉ……うちのお店はお酒は駄目で……」

「はぁ~? アホな政治家が禁酒法とか言い出しちゃったせいで、俺たちゃ国に帰っても酒飲めねーんだよ!」

「そうだそうだアニキの言う通りっしゅ。せっかく旅先でくらい酒飲めば飲めませ……飲ましゃろー。ハイボールくらさい」


 だからそもそもお酒置いてないんです、と言っても、酔っ払いのおじさん達は理解できないようで。

 呂律が回らないまま絡んできます。


「ちょっとお客さん。困りますよ!」


 痴漢店長おじさんがやってきて対応を変わってくれました。

 でも酔っ払いさん達は話を聞かずにぐだぐだ言い続けています。

 酔っ払いってめんどくさいですね。

 ふと前世の私達の醜態を思い出しましたが……考えないようにしました。


「ねえミィ、あのおっさん達人間だよ」

「う、うん……そうみたい。本当に人間さんもやってくるんですね」


 事前に痴漢店長さんから聞かされていました。


「エルフの里は一応中立だから、たまに人間も観光に来るけど。殺して食べちゃったりはせずに普通に接客してね」


 との事です。

 と言ってもこんなモンスターだらけの場所にやってくる度胸のある人間なんて、本当に稀らしいのですが。


 前世の私の記憶によると……エルフの里と勇者さんが敵対するのは、勇者御一行が秘薬を強奪した後、という設定でした。

 まだその強奪シナリオまで行っていない(というかゲームに実装していない)今の世界でなら、エルフさん達も人間さんに特に敵意はないのでしょう。


「うるへっつってんだ!」


 そんな叫び声と共に、鈍い音が響き渡りました。

 酔っ払いの人間さんがついに痴漢店長さんを殴り飛ばしてしまったのです。

 痴漢店長さんはそのまま倒れてしまいました。


「ひぅぅぅっ」

「おい、やめろよおっさん!」


 私は怯えてしゃがみこんでしまいましたが、ヨシエちゃんは勇敢にも、アニキと呼ばれている人間さんに掴みかかりました。

 しかしアニキさんは逆にヨシエちゃんの腕を掴み返し、そのまま首に手を回し羽交い締めにしました。


「まあまあおねーちゃん。いいから俺たちに付き合ってよ~」

「離して! 不潔なんだよおっさんの手! くっさい!」

「アニキは気が強い子が好きなんらろー!」

「きもっ。ロリコン死ね!」


 こ、このままでは、ヨシエちゃんが大変な事されちゃいます。


「あ、ああああの! やめてくださいぃ!」


 私は無我夢中で、アニキさんに挑もうとしました。


「おいチビは邪魔だ!」

「きゃっ……」


 しかしその勇気も虚しく、簡単に突き飛ばされてしまいました。


「ミィ! この……っ!」


 ヨシエちゃんは、首に回されているアニキさんの腕に思いっきり噛み付きました。牙が腕につぶっと刺さって、


「ペッ。脂っぽくて不味い血」

「いでえええ!」


 アニキさんは痛がって手を放しました。

 その隙にヨシエちゃんはアニキさんから逃れ、私の傍に駆け寄ってきました。


「ミィ、大丈夫?」

「う、うん……ヨシエちゃんの方こそ」

「アタシは大丈夫」

「ガキども……優しくしてりゃあ調子に乗りやがって。もう女子供だろうと容赦しねえぞ」


 ほっとするのもつかの間、人間さん達がついに武器を手に取ってしまいました。

 アニキさんは長刀、もう一人はナイフ……

 二人とも酔って足がフラフラですが、筋肉質で、私達とは体格差が大きく……ピンチです……


 周りには数人のモンスターさん達が遠巻きに見ていますが、戦闘タイプの方はいないようで、助けを期待する事はできなさそうです。

 痴漢店長さんは伸びてますし。


「よ、ヨシエちゃん。店内のミズノちゃんを連れて逃げましょうか……?」


 私は小声で提案しました。しかしヨシエちゃんは冷静に答えます。


「駄目。あいつら酔って足がガクガクだけど、それでも二人もの隙をついてミズノを連れ出すのは無理そう。それにあいつらムカツクから……」


 ヨシエちゃんは牙を剥きだし、シッポを高く上げ震わせて言いました。


「食い殺す」


 訂正します。全然冷静じゃなかったです。

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