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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
第645回チキチキ誰が魔王様を一番愛しているか大会編
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死の演武(だしもの)

「この四天王ミィは、失われし力をその身に宿す邪悪の申し子! 我が傀儡に打ち勝つ程度、造作もない事であろう!」


 邪悪って……いきなり酷い言い草です。

 モンスター的には褒め言葉ではあるのですが。


「あら。お姉ちゃんそんな危ない事やるの?」

「ちちち違います! 私は今日は見学でぇ……」


 ミズノちゃんに返事をした後、私は立ち上がりサンイ様に抗議をします。


「ちょっちょっちょちょちょちょっと待ってくださいぃぃぃ! 私何も聞いてないんですけどぉ!」

「あの古代奥義スネキックを駆使し、魔王様のお役に立てることを証明すると良い! さあ!」

「は、話を聞いてくださいぃ……!」


 私の発言を無視して、サンイ様が語り続けておられます。

 ギャラリーの方々はざわつき、


「スネ……何?」

「変な名前の奥義だね」


 などと話しています。

 違います。そんなカッコ悪い名前は捨てたんです。

 今はクリスタルレインボーなんです。


「ほう、あのスネキックを間近で見る事が出来るのですか。モニター越しなのが残念ですが、これは見物ですね。楽しみです」

「あぅ……ま、魔王様まで……」


 完全に私がやる流れになっちゃってます。

 あの鎧さん達は、一体でも部隊長以上のレベルらしいです。

 つまりはあっちに座ってる大鬼さんとか巨大骸骨さんとか、ただでさえでかいモンスターの中でも殊更でっかいお方達よりも強い。

 いけませんよこれは……どうにか誤魔化して逃げないと……


「お待ちくださいサンイ様。勝手にミィを参加させるのはおやめ下さい!」


 どうしようか考えていると、ヴァンデ様が立ち上がりサンイ様へ抗議してくれました。

 私の代わりに断ってくれるようです。

 珍しく声を荒げています。

 私はヴァンデ様のキャラ作りが崩れかけている事に少しハラハラし、同時に私のためにそこまでやってくれる事がちょっと嬉しかったり……


「落ち着き給え。君らしくもない、何を慌てているのだヴァンデ君!」


 サンイ様は笑いながらヴァンデ様に反論します。


「どうするかを決めるのはミィ君自身だろう! ミィ君はどう思っているのかね!」

「えぅ……えっと、私も出来ればやりたくな……」

「魔王様は既に君の奉納儀礼を待ち望まれているが! さあどう思う!」


 サンイ様が詰め寄ります。

 そう言われると、私も断りづらい……

 魔王様が絡むとなると、さすがにちょっと怯みます。


「……や、やりますぅ……うぅぅ……」


 結局引き受けてしまいました。


 ヴァンデ様が心配そうな顔で私を見ています。

 またキャラが崩れちゃってますよ。

 私はちょっと無理して笑ってみせました。

 ヴァンデ様は一瞬ハッした顔を見せ、すぐにいつもの冷静な表情に戻りました。



「無理だ! ああああああ無理だああああああああ! 死ぬぞおおおおおお!」

「老師! 落ち着いてください!」

「元隊長、どうしたのですか!」


 突如、ガタイが良い悪魔のお爺さんがそう叫び暴れだしました。

 落ち着かせようとする周りのモンスター達を跳ね飛ばしてます。

 パワフルおじーちゃんです。

 老師とか元隊長と呼ばれているので、お偉い立場のようですが。


「ダメだ、あの人形たちはダメなんだあああああ! うわああああああああ」


 お爺さんはそのまま体育館の外へ駆け出して行ってしまいました。


「急にどうしたというのだ、あの御老体は!」


 と疑問を浮かべるサンイ様に、魔王様が「おや、忘れたのですか」とモニター越しに言われます。


「彼は軍発足当初からのメンバーで、今は軍事訓練の教官をされている方ですよ。サンイさんが傀儡人形で屈服させ、仲間に入って頂いたあのお方です」

「……? ああ、なるほど! あの時の青年でしたか!」


 経験豊富な老兵士の錯乱を見て、体育館に集まったモンスター達に動揺と緊張が走りました。


「あの新人四天王、死んじゃうんじゃない?」


 お喋りな妖精さん達はそんなヒソヒソ話をしています。


「大丈夫よお姉ちゃん。あの鎧さん達、私よりちょっとだけ弱いか……もしかしてちょっとだけ強いかも? ってくらいだから。私よりずっと強いお姉ちゃんなら楽勝よ」

「そ、そうでしょうか……ミズノちゃんより強いかもって、相当な気がするんですけどぉ……」

「お姉ちゃんなら大丈夫! ……またお姉ちゃんの戦いを見れるんだね、私嬉しい。鬼人の里では忙しくて見られなかったから」


 ミズノちゃんが激励してくれました。

 目をきらきらと輝かせ、可愛らしい期待に満ちた表情を見せてくれます。

 うぅ……この期待に応えないといけない空気です。


「大丈夫ッスか? ミィさん」

「まあミィちゃんのカチカチさなら平気かもしれないけどさ」


 スー様と博士さんも心配してくれています。

 しかし魔王様が「楽しみです」と言われた手前、反対は出来ないようですね。


「ミィ君! さっそく始めてくれたまえ! 第一演目、死の演武……」

「待ってくれ!」


 サンイ様の大声を打ち消すような更なる大声が、後ろの席から上がりました。

 巨大な骸骨さんが立ち上がっています。

 あの骸骨さんは大きくて目立つので、城内でもよく見かけるお方です。

 魔王軍内では、巨大ロボットさんの次に大きなモンスター。

 アンデット系の部隊長さんで、ゲーム中ではガシャドクロという名前のボスキャラです。


「あの悪魔老師が恐れる程の傀儡。そのような新参者ではなく是非私に」

「なんだね急に! 邪魔をするでないぞ!」


 サンイ様が叫ぶと同時に、人体模型君がカタカタ笑いながら飛び上がります。

 人体模型君は一瞬の間にガシャドクロさんに近づき、右肩にチョップをしました。


「うぎゃああああっ!」

「が、ガシャさん!?」


 ガシャドクロさんは全身の骨が粉々になり、首だけになってしまいました。


 場内は再び騒然となります。

 悪魔老師さんとガシャドクロさん。軍内指折りの強者が立て続けに酷い事になっちゃったのです。

 あの二体の鎧さんと一体の人体模型君の強さに、皆震えはじめました。


「スー君。あの骸骨君を治療してあげたまえ」

「はぁ……もっと手加減して欲しいッス。アンデット系に治療魔法かけるのはめんどくさいんスよ」


 スー様は溜息をつきながらガシャドクロさんに駆け寄り、魔法をかけました。

 ガシャドクロさんの骨が見る見る間に復活していきます。


「さあミィ君、前に出たまえ! 魔王様にその勇姿を見て頂くのだ! 第一演目、死の演武! 開始ィィ!」





 私が体育館の真ん中に立つなり、武者さんと騎士さんが同時に襲い掛かって来ました。

 人体模型君はその場から動かず、左手指先を額に当て、左ひじを右手で掴み、腰をちょっと捻って……なんだか意味わからないけどカッコイイポーズを取っています。

 とりあえず今は武者アンド騎士の鎧コンビに集中しましょう。


「ぎ、ギリギリで避けて……」


 イローニさん戦で学んで、その後練習していた避け方です。

 体力を温存するため必要最小限の動きで避け、その後スムーズに反撃に移行する。


 私は武者さんの剣撃を、鼻先をカスる直前くらいの間で避けました。

 ギリギリすぎる間合いは怖いですが……しかしトレーニングの成果が出ました。

 刀が空を切り、武者さんは一瞬バランスを崩します。

 続く騎士さんの攻撃も避けます。騎士さんの方にも隙が出来ました。


「今だ……!」


 その隙をつき、私は騎士さんの足を蹴ろうと一歩前に出ました。

 そこで気付きます。

 人体模型君が左手を額から離し、指先をこちらに向けています。

 その指先が光り、ビームが発射されました。


 なるほど二体の攻撃は囮で、人体模型君のビームが本命。

 コンビネーション攻撃だったのですね。


 なんて感心している場合じゃありません。

 このままじゃあのビームに当たってしまいます。

 避けないと……でも今は、騎士さんに対する攻撃チャンスである事には変わりないんですよね。


「うぅ……痛くありませんようにぃ!」


 私は覚悟を決め、そのままビームを顔面で受け、同時に騎士さんの向こうズネを蹴り上げました。




 ズジャジャジャジャンという軽快な効果音。




 そして、鉄が木張りの床に落ちる鈍い音がしました。


「……なあなあ、今何が起こったの?」

「んー……分からんかった」


 見学席から、驚愕の声が聞こえます。

 私はビームを顔で受けてしまったせいで、目がチカチカし、前がよく見えません。

 後ろに飛び跳ね一旦鎧さん達から離れ、両眼を指先で軽く揉み揉みマッサージ。


 三秒ほど後に視力が戻った時、西洋騎士さんの姿が消えていました。

 そして騎士さんが頭に被っていた鉄仮面だけが、床に転がっています。


「素晴らしい、なんと素晴らしい事であるか! 瞬間的な破壊力、爆発力、衝撃! これはまさに、『あの』スネキックだ!」


 サンイ様の興奮した叫び声が、体育館内にこだましました。

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