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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
第645回チキチキ誰が魔王様を一番愛しているか大会編
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純血(はいてんしょんじじい)

「城内改築案の早期決定! このサンイめも魔王様と同じ考えを持っておりました。なんという偶然、いや必然。運命。これぞ世界意思。我が意識は神である魔王様と魂の深層で結ばれており……」

「あーサンイ様。会議時間がおしてますんで、簡潔にお願いするッス」

「うむ。そうであったな!」


 ハキハキとご返事なされるサンイ様。

 しかし。


「そも、内装の議論を無駄に長引かせたわけではあらず。吾輩……いや、城内で働くモンスター押並べての希望を反映すべく慎重に議論したためである。魔王様が居城たるこの……」


 全然簡潔にはなりませんでした。

 長いので省略します。


「……つまり魔王様を何事よりも優先すべきである。なればより魔王様を敬愛する者の案を採用すべきぞ! 以上!」

「はぁ……」


 スー様は「やっと終わったか」という顔で溜息をつき、眼鏡を指で上げました。


「えっとつまり今のを纏めますと、『勝負して勝ったヤツの案を採用する』って意味らしいッス」


 勝負って、こんな事で戦うんですか!?

 モンスターらしいと言えばらしいですが。


「はい。良いんじゃないでしょうか。皆さんにお任せします」

「わたくしごときの考えに賛同頂き、恐悦至極でございます!」


 魔王様はあっさりと承認され、サンイ様はわざわざ椅子から降り、床に跪き頭を垂れました。

 モニター向こうの魔王様は、被っておられる白い仮面を右手で少しずらし、前髪をちょちょっと整えられてます。

 魔王様は結構放任主義です。


「というわけだディーノ殿。吾輩にひれ伏すが良い! ハーッハッハッハッハ!」

「……」


 高笑いをするサンイ様。

 ディーノ様は何も言わず、何を考えているのかも分からない無表情で座っています。

 その隣では息子のヴァンデ様も同じように無表情。いや、これは多分ちょっと怒ってます。

 最近は微妙な表情の変化が分かるようになりました。


 しかしテレビで見たサンイ様のイメージは、もっとこう何というか……難しい事を言うけどクールなお方だと思っていたのですが。

 意外とテンション高いノリですね。

 そう言えば鳥居アナさんが「サンイ様は無駄口が多いので編集で必要な部分だけ切り出している」と言ってましたが……


「はぁー……では勝負は今日の午後、城内体育館で良いッスかぁ?」


 スー様がめんどくさそうな顔で言うと、魔王様が「はい二時からでお願いします」と承諾されました。

 他の方々もその時間は空いているみたいです。


「あーあ。またいつものアレかぁ」


 ミズノちゃんが小声で言います。

 サンイ様がいると、いつもこんな事をやっているのでしょうか。


「ディーノ殿、今日こそ決着を付けよう! 六百四十五回目の勝負ぞ! ハーッハッハ、ハーッハッハッハ!」

「五百歳越えた爺さんのクセに、いい加減にして欲しいッス……」


 スー様がボソッと呟かれました。




―――――



「お父様、お帰りなさい」


 会議終了後。

 魔王様のモニター中継が切れた後に、ミズノちゃんがサンイ様に言いました。

 サンイ様は長期出張中だったため、挨拶をしておこうとの事。


「おおミズノ君。元気であったか。例の讃美歌は完全に暗記したであろうな」

「え、ええ。まあ……」


 ミズノちゃんは小声でボソッと「八割程度」と呟きます。

 讃美歌とは、以前からミズノちゃんが必死に覚えようとしている、魔王様を褒めに褒めまくったポエムの事でしょう。

 サンイ様が出張先から急に送って来て、スー様とミズノちゃんに覚えろと強要しているらしいです。


「スー君は」

「……一応覚えたッスけど」

「うむ。引き続き完全暗唱出来るまで頑張りたまえ!」


 次にサンイ様は私の方を振り向き、「ガウゥ」と唸りました。

 可愛い人狼のお嬢さん。貴女がミィ君ですね。

 という意味です。


「いやあ、そんな可愛いだなんてえへへぇ……って、あれ?」


 私は照れて頭を掻いた後、違和感に気付きました。

 サンイ様が話されたのは人狼語。それも狼に変身した後の言葉です。

 でもサンイ様は見るからに人狼では無いです。

 どういう事でしょうか。


「サンイ様は吸血鬼。人狼の言葉を話せるらしいッス」

「純血! 吸血鬼! で、あるぞ!」


 そう言えば聞いた事があります。

 純血の吸血鬼さんは、人狼と言葉を交わせると。

 ルーツが親戚みたいなものだかららしいですけど。


「ミィ君。操られし哀れなる鉄鋼兵士巨大ロボットをそなたが破壊する映像、拝見させてもらったぞ! 強固たる鋼鉄を瞬時に破壊。素晴らしい! そう、あの一撃粉砕の技。表面的には粗削りだが根本では洗練されている、哲学にも通ずる矛盾を抱えた……」

「あっはぁ……あ、ありがとうございます」


 サンイ様は人狼語をやめ、普通の言葉で褒めてくださいました。

 途中から何をおっしゃりたいのか分からなくなってきましたが……


「そう、あの足技。間違いない! そなた、あの失われし古代奥義、スネキックの使い手であろう!」

「はぇっ!? し、知ってるんですか!?」

「当然である! 吾輩は何でも知っているのだ! ディーノ殿も知っていてこの少女を部下にしたのであろう!?」

「うむ」


 ディーノ様が頷かれました。

 どうやら最高幹部の二人はご存じだったみたいです。



 私のクリスタルレインボー。本当の名前はスネキック。

 相手のスネを蹴って即死させる技です。


 ゲーム製作途中では、敵味方全てのキャラクターがこの技を覚えていました。

 更に、通常攻撃でも会心の一撃が出ると、強制的にスネキックが発動。

 会心の一撃イコール即死と言う大味な戦闘システムに。

 さすがにそれではバランスが悪いと言う事で修正されちゃったのですが、私だけ修正漏れで使えるまま。


 そんな経緯のスネキック。

 どうやら失われた技として、伝聞されているようです。


「懐かしき技。そして忌まわしき体術。吾輩をしてついぞ体得出来なかった! それをこの小さき少女が! 我齢五百を越えて尚思い知る。世界とはなんと広き事よ!」

「は、はぁ……あはは……」


 サンイ様は大袈裟に両手を広げ、顔を上げ叫んだ後、再び私の方へ振り向かれました。


「ところでミィ君。その飴はなんだね?」


 私が座っていた席に、包装されている飴玉が五個転がっています。

 ちなみにミズノちゃんの席にも同じく五個の飴玉。


「これは、会議前にディーノ様から頂きまして……」

「なんと、ディーノ殿から!?」


 サンイ様はそう言うと、バッと左手を挙げました。

 突然の動作に私は驚きます。

 そしてサンイ様の左手を見上げると、巨大なペロペロキャンディーを持たれていました。

 棒付きのキャンディーで、飴部分が私の顔より大きいです。

 サンイ様はそのキャンディーを私の前に突き出し、言います。


「吾輩は千個分の飴を与えようぞ! どうだ、吾輩の部下となるがいい! それが良い、さあそうすべきである、今すぐ!」

「ふぇぇ!?」


 なんと、スカウトされちゃいました。

 巨大キャンディーは魅力的ですが、私は突然の申し出に困ってしまい、受け取る事はしませんでした。


「サンイ様!」


 ヴァンデ様が慌てて私とサンイ様の前に割り込んできました。


「ほう、ヴァンデ君。珍しい。君ほどの男が取り乱しているではないか! よほどこの少女を気に入っているらしいな!」

「……ミィは私の直属の部下です」


 ヴァンデ様が真剣な表情で言われました。

 その眼差しを見て、私は何故だか顔が赤くなっちゃいます。

 サンイ様は考えるように顎を触りながら、ニヤリと笑いました。

 牙が怪しく光ります。


「ふむ。どうやら数ヶ月見ない間に、心的傾向が多少変化したようだなヴァンデ君。親父殿の真似をするのはやめたのかね!?」


 左手のペロペロキャンディーがパッと消えました。


「そうだ、それが良い! 成長したなヴァンデ君! 男子なれば父の背中を追う事は止め、自分自身の意見を持つべきだ! 然れば則ち強き魔物への道が開かれるであろう! どうだね、ヴァンデ君も吾輩の部下になりたまえ!」

「サンイ殿」


 ディーノ様が小さな、それでいてどこか威圧感のある声で嗜められました。

 サンイ様はディーノ様のお姿を見て、満足そうな笑みを浮かべます。


「ふっふっふ。そう、貴公のその慌てた顔が見たかったのだディーノ殿」


 ディーノ様は相変わらず無表情で、慌てているようには見えませんが……


「安心したまえ、冗談だ。半分程な。ハーッハッハッハッハ! ではさらばだ諸君! 二時に会おう! ハァーッハッハッハッハーァ!」


 高笑いと共に、サンイ様は霧になって消えちゃいました。


「……すみませんッス皆さん。一応言っておきますけど、あのお方の言動はウチとは無関係なので。部下だけど」


 スー様は疲れ切った顔をしています。

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