表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
第645回チキチキ誰が魔王様を一番愛しているか大会編
75/138

迷宮(こうじちゅうらびりんす)

 魔王様のお城は、ずっと工事中です。

 通路の所々に『この先通行止』の看板とバリケードが設置してあり、目的の部屋へ行くのにも迂回の連続。

 もうほとんど迷路です。


 そんな迷路で、今朝、新人の小さな妖精さんが迷子になっていました。

 私は見かねて話しかけます。


「私が案内します。このお姉さんに任せてください! ふふん!」

「ありがとうございますミィ様。私成人してますけど」


 しかし……


「ミィ様、さっきから同じ所を回っているような……」

「えぅっ、そうですかあ? えへへへぇ……ここは一体どこでしょうか……?」


 私も迷子になっちゃいました。

 妖精さんと二人で迷路、いやもはや迷宮と呼ぶに相応しい。そんな通路を彷徨います。

 偶然知り合いの鬼部隊隊長さんに出会って、事なきを得ましたが。


 かかなくてもよい恥をかいてしまいました。

 これも全部工事のせいです。

 私がドジってわけでは、決してないのです。そこの所をよろしくお願いします。



 この工事は、終わる気配がありません。

 というか工事をしている様子がありません。

 内装をどうするかでお偉いさん達の意見が分かれ、床板などを外した中途半端な状態で着工が止まってしまっているのです。


 そして更にそもそもの原因を言うならば、この世界の元となっているゲームで、魔王城マップが未完成だったせい。

 つまり私の前世のせいですね。

 お酒を飲んでばかりで、製作が進まなかったからです。

 ごめんなさい。


 私は一生お酒は飲みません。





 そして本日午前の業務。

 博士さんの実験室に行きました。


 私の業務室の隣に博士さんの研究開発室があるのですが、そことはまた別のお部屋です。

 なんでも『超電導臨界粉砕圧迫抱』という、物騒な名前の兵器の実験台、もといお手伝いとして呼ばれました。


「用意するからちょっと待っててね」


 と博士さんに言われ、私はオレンジジュースを飲みながら部屋の隅にある長椅子に座っていました。

 するとヴァンデ様が何やら資料を持って来て、博士さんと難しい話を始めます。


 私はその様子をボケーっと眺めながら、この前ヴァンデ様と二人きりで見た夕日の事を思い出しました。

 あの日から既に二週間近く経っています。

 でもあの景色が鮮明に心に残っていて、まるでついさっきの事のように。

 思い出すとなんだか胸がちょっと痛く……い、いえ違います。

 何が違うんだって話ですが、とにかく違うんです。

 私ごときがそんな大それた事を考えては……って、大それた事ってなんですか。

 別に何も考えてませんよ私。どうしたんです私!


 なんて自分でも意味の分からない葛藤で悶えていると、スー様も来られました。

 どうやら写真データを印刷して欲しいようです。


「いい加減操作覚えて、自分でやってよスーちゃん」

「うっ……仕方ないじゃないッスか! ウチがコンピューターに触ると爆発するんスもん……!」

「それは苦手意識から、変に魔力を出しちゃってるんだよ」


 機械音痴ってレベルを越えていますね。


 しかし、この場には魔王軍のお偉いさんが集まっています。結構貴重な場面です。

 軍師のヴァンデ様、スー様。それに色々と肩書を持っていて、多分軍内で一番忙しい博士さん。

 更に上役として魔王様や最高幹部のお二方がおられますが、こと実務の上ではこの三人が実質のトップスリーです。

 この方々なら答えてくれそうな気がして、私は何気なく疑問をぶつけてみました。



「お城の工事は、いつになったら再開するんですか?」



 その質問を発した瞬間、場の空気が凍り付きました。

 もしかして私、また何か言葉の地雷を踏んでしまいましたか?


 しばしの沈黙。

 気まずい雰囲気。

 数十秒後、頭を掻きながら博士さんが喋り出しました。


「あーミィちゃん。それはだね。オジサンの口からは言いにくいんだよねえ……スーちゃんパス」

「えっウチ!? そ、それはッスね。えーー」


 スー様と博士さんは、ヴァンデ様の顔色をうかがっています。

 ヴァンデ様は大人二人組と私の顔を交互に見て、仕方ないと言った様子で口を開きました。


「……私の父とサンイ様が無意味に張り合っているせいで、再開の目処が付かない」


 どうやら原因はディーノ様とサンイ様のようです。

 ディーノ様の息子であるヴァンデ様がここにいるので、博士さん達はこの話題について言いづらかったのですね。

 しかしヴァンデ様が話をされた事で、自分達も言及して良いと判断したようです。


「どっちかというとサンイ様が突っかかってるんスけどね。そのサンイ様も長期出張中で、三ヶ月近く話が進んでないッス」

「でも不便だよねえ。ついに温厚なミィちゃんからも、不満が出ちゃったか」

「べ、別に不満とか言うつもりじゃぁ……うぅ」


 勿論不便です。そこについての不満も正直あります。

 何度も迷子になっちゃいましたし。


 でもそれよりも重要な事があるのです。



 フリーズ。



 それは、勇者さんが魔王様のお城に入った瞬間起こってしまう、バグ現象です。

 ゲームならそこでリセットなりして終了させれば良かったのですが、現実のこの世界ではどうなってしまうのか?


 世界が止まって。でも誰もそれを感じる事無く。

 この世の全員が同時に無に帰してしまう……

 なんて、それは私がベッドの中で考えた怖い想像ですけど。

 まあそんなSF的な恐怖現象が待っていないとも限らないです。

 逆に何も無い可能性もありますが……


 フリーズが起こる原因は不明です。

 しかしゲーム製作チームは『魔王城マップが未完成』という事が、要因の一つではないかと考えていました。

 つまりこの世界を守るために、工事の竣工を急ぐ必要がある……かも?

 まあそういう事なのです。


「どうしたミィ。考え込んでいるようだが」

「えっ、あっ。はい。いやそのぉ……」


 大真面目な顔で妄想を膨らませていると、ヴァンデ様がそう気遣ってくれました。

 私は不意を突かれてついアタフタしてしまいます。

 するとヴァンデ様が私に近づき、顔を覗き込み、


「何か重要な事があるのか? 教えてくれ、私はお前の力になれるはずだ」


 真剣な目で気遣ってくれます。


「は、はひいぃぃ……」


 私は言葉になっていない返事をしました。


 何故でしょうか。

 急に考えが纏まらなくなりました。

 最近いつもこうなんです。

 私、ヴァンデ様と上手く話せなくなっちゃいました。

 まあ元々口下手ではあるのですが……ヴァンデ様が相手だと、なんだかちょっと、その……何で?


「ちょっとちょっと、そういうティーンな青春展開はオジサンの部屋でやらないでおくれよ」


 博士さんが意味の分からない事を言っています。

 スー様は博士さんの鳩尾を軽く小突き、ふと何かに気付いたような表情になりました。


「そうだ、工事の件。今のタイミングなら、ミィさんがいればどうにか出来るかもしれないッス」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ