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迷子(せんたー)

 先日せっかくヴァンデ様にお会いしたのに、派閥云々の難しい話に圧倒されて、聞くのを忘れていました。


 三人の四天王の所属派閥について。


 ヴァンデ様のお父様派閥が一人。その敵対派閥が一人。どっちつかずが一人。



 そして今、私の目の前に現れたミズノちゃん。

 彼女は一体、どの派閥に属しているのでしょうか。



 ……なんて、真面目に考える事も無く。


 私はなんとなくミズノちゃんがヴァンデ様のお父様派なんじゃないかな~と、半ば決めつけるように判断していました。


 この前は、私がヴァンデ様派だと分かった上で、ご親切に魔王城内を案内して頂きましたし。笑顔が可愛く、敵意の欠片もないですし。


 というかたとえ敵対派閥でも、ミズノちゃんなら仲良くなれるかも……

 同年代の女の子同士ですから。


 今もミズノちゃんは、ヨシエちゃんと


「聞いたよ、あんた四天王だったんだね」

「うん。実はそうなの」

「その歳で凄いね」

「ふふっただのコネだよ」


 なんてほのぼの会話してます。




「あの。ミズノちゃんも、ヴァンデ様の命令でここに来たんですか?」

「ううん、違うよ」


 私の問いに対し、ミズノちゃんは笑顔で答えてくれました。


「私はもっと上の人に命令されて来たの」

「もっと上?」


 となるとヴァンデ様のお父様直々の命令でしょうか。私がそう尋ねると、ミズノちゃんはクスクス笑い出しました。


「そうね。確かにお父様の命令よ」

「はーさすが四天王です。魔王軍最高幹部から直接命令されるんですか」

「ふふっ。まあね」


 しかし別の命令で来たという事は、私と違って秘薬を飲みに来たわけではなさそうです。

 そもそも既に四天王に選ばれてる程なので、秘薬を飲む必要もないのかも。


 私はミズノちゃんに下された命令が気になりました。

 でも『最高幹部から四天王に与えられた任務』という重要そうな事について、私なんかが内容を聞いてしまってもいいものかどうか……



「お姉ちゃん達、ヴァンデ様の命令でここに来たって事は、秘薬を貰いに来たんでしょ?」


 とミズノちゃんが聞いて来たので、私は頷きました。


「ふふっ、あれすっごく苦いから気を付けてね」

「や、やっぱり苦いんですか……ヴァンデ様からも不味いって話を聞いてましたが」

「苦いし、酸っぱいし、気持ち悪い後味が三日くらい口の中に残るの」


 うわー。飲みたくなくなってきました。


「不味さを知ってるって事は、ミズノもその薬飲んだ事あんの?」

「そうね。エルフの秘薬の他に、ドワーフの秘薬や天狗の秘薬とか。あと地獄の朝顔の種とか、ペガサスの肝とか、フェニックスの肝とか、人魚の肝とか、吸血鬼の肝とか、ドラゴンの肝なんてのもステーキにして食べちゃった」

「す、凄いですね……さすが四天王……」


 私も今後そういう肝フルコースを食べなきゃいけないんですかね、と戦々恐々していると、ミズノちゃんはイタズラっぽい笑みを浮かべました。


「ふふっ。半分は冗談だよ」


 って、半分は本当なんですか。


 さすがに私達モンスターでも、同じ人型モンスターである吸血鬼さんの内蔵は抵抗あります。

 最近は人間さんを食べる人狼も少ない時代です。

 理由はあんまり美味しくないから……さらに言うと別にゲーム中で人間さんが人狼に食べられるシーンが無いからですけど。


「でもペガサスの肝は美味しそう。馬レバ刺しと同じかな。ニンニク醤油にごま油が良いかな」


 ヨシエちゃんは遠い目で味を想像しているようです。



「……あれ? どうしたんでしょうあの子」


 ヨシエちゃんとミズノちゃんがレバ刺しの話に花を咲かせている中、私は道の先でしゃがんで泣いている子供を見つけました。


「ふーん、匂いからすると吸血鬼の子供みたいだね」


 とヨシエちゃんが鼻をひくつかせて言いました。

 言われてみると日光を避けるようなつばの広い帽子を被っています。三、四歳くらいの男の子です。エルフじゃないという事は観光客でしょうか。


 しかし吸血鬼の肝を食べた話の後に本物に出会うとは。


 私達は子供に近づいて、話しかけてみました。


「ママとパパがいなくなっちゃった……」


 案の定迷子です。

 はぐれた両親を探し歩いているうちに、道も分からなくなったそうです。


「た、大変です、お巡りさんの所に行って……エルフのお巡りさんっているんです?」


 見渡しても、既に繁華街から外れている場所のせいか、そもそも私たちの他に通行人さえもいませんでした。


「とりあえずこの子が来た道を辿ってみようか。この子のママ……じゃなくて、この子の両親に会えるかも」


 そう言ってヨシエちゃんは辺りをクンクンと嗅いで、


「こっちから来たみたい。この子の匂いが続いてる」


 南の方を指しました。私達がさっきまでいた場所とはまた別の繁華街がある方角です。


「すごぉい。匂いでどこから来たか分かるの?」


 ミズノちゃんが可愛らしく驚いてます。


「ま、狼だからね。犬とかクマ程じゃないんだけど」

「へえ。さすが人狼ねお姉ちゃん達」


 ん? お姉ちゃん『達』って事は、ミズノちゃんは、私も鼻が利くと思っているようです。

 しまった、私プチギだから鼻は別に……


「あ、いや私は、えっとぉ。プチギだから、ヨシエちゃんみたいには……」

「プチギってなぁに?」


 繁華街へと歩きながら、私はプチギの事と、だから別に鼻は良くないという事を説明しました。

 自虐みたいで心が痛みます。


「レアモンスターなんだ。すっごぉい!」

「えへ、そ、そうですか? ふぇへへへ」


 意外にも褒められちゃいました。やっぱりミズノちゃんは良い子です!


「レアモンスターだから、魔王様特製の訓練用人形を粉々にするような技が使えるの?」

「え? えーっと……それは多分関係ないと思います……けど」

「凄いよねミィお姉ちゃん。四天王で一番力が強い巨大ロボットさんでも、あの木人形は壊せないのに」


 あれ? そう言えばミズノちゃんに私のクリスタルレインボーの事を話しましたっけ?

 うーん、多分ヴァンデ様に聞いたんでしょうか。



「へぇー。でもそっかぁ。ただの人狼じゃなかったんだぁ…………ふふっ」




―――――



「この辺からは食べ物屋が多すぎて、匂いがよく分からないね」


 匂いを辿って繁華街まで来たのですが、さすがのヨシエちゃんの鼻でも限界が来たみたいです。

 でも匂いがこの辺りから来てるって事は、おそらく御両親もこの繁華街の中にいると思うのですが。


「吸血鬼が行きそうな所を探してみたらどうかしら?」


 というミズノちゃんの提案に、私とヨシエちゃんはなるほどと手を打ちました。


「で、でも吸血鬼が行きそうな所って、どこでしょう?」

「知らないけど……献血所とか?」

「エルフの里に献血所はあるのかな……」


 吸血鬼の子にパパママが行きそうな所を聞いても「わかんない……」との事でした。

 仕方ないのでとりあえず献血所を探そう……と思ったけど、里の人に聞いたら献血所は無いそうです。


「献血所じゃないとしたら……ミィ、なんか思いつく場所ある?」

「えっと……ええっと……にんにく屋さん」

「それはむしろ行きそうに無い場所じゃないかしら」


 ミズノちゃんにツッコまれながら、私は必死に考えてみました。

 前世の私である美奈子さんの記憶を辿り……ゲーム中での吸血鬼についての設定で、何か……

 



「ねえちーちゃんさー、吸血鬼ってー、人の血吸ってばかりじゃ栄養偏るんじゃないのー。メタボになったら棺桶入んないよ」

「野菜も食べて運動すればいいでしょ」

「でも健康に気を付ける吸血鬼ってオッサンくさくてヤーだー。身も心もイケメンがいいよー。吸血鬼はメタボになんないよ!」

「あんたが言い出したんでしょ」

「吸血鬼も米食え!」

「うっせー和田君黙れ」




 ……この記憶はまったく参考になりませんね。


 そうだ。吸血鬼じゃなくてエルフの里についての設定は……エルフの里は結局ゲームに実装されてませんが、設定は色々あったはずです。




「ねーねー。ちィーちゃーん~ヌ」

「その呼び方うっとおしいからやめて」

「エルフの住むところが山奥にあるってさー、やっぱ皆農業やって生計立ててるのー?」

「そうでしょうね多分」

「えーでもー。高山での農業ではさ、育てられる作物の種類に限界があるしー、農業に適した場所も限られるしー、そうなると連作障害とかもあるしー」

「……あんた時々そういう小賢しい事を言うね」

「やっぱ無理でしょー農業一筋じゃー」

「分かった分かった。じゃあエルフに伝わる宝とか寺院とかなんやかんやで観光産業でもすればいいでしょ」

「エルフに伝わる全裸ヌルヌル相撲とかな!」

「うっせー和田君黙れ」




 ……この記憶も駄目ですね。

 他にも何かあったと思うのですが。




「ちゃんちーちゃんちー」

「人の名前はまともに呼びな」

「私達のゲームのエルフってさー。勇者と敵対するわ、他のモンスターと仲良くするわでさー、これって悪寄りのダークエルフってヤツじゃないのー?」

「正義か悪かは立場によって変わるもんだぜ……?」

「うっせー和田君黙れ」


「仕方ないでしょ。成り行き上エルフが勇者の敵になっちゃうんだから」

「やっぱさー、ちーちゃんお気に入りのー、ヴァンデ君のお婆ちゃんがハイエルフーってのが元凶だよねー。何やってんだちーちゃん!」

「エルフと鬼と竜と人間のクォーターにして中二設定盛ろうって言ったのは、あんたでしょ」

「そうだっけー」

「というかエルフにとっては人間が悪って設定で別にいいじゃないの。クッキーミィちゃん兄妹の脳ミソ爆発させるようなヤツらだよ」

「んー、じゃあ勇者の住んでる国では禁酒法が発令されてるって設定にしよーよちーちゃん」

「なんでそうなるのよ」

「だってー、酒飲めない国なんて極悪非道に決まってんじゃーん」

「あんたの価値観でしょ」

「ちなみに俺の酒がもう無くなったんだけど」

「うっせー和田君黙れ」




 駄目。駄目駄目な記憶です。他には……えーっと……迷子……




「オイ、せっかくゲー研の皆で旅行に来たのに、なんで和田の奴は早々にショッピングモールで迷子になってんだ」

「和田君に電話してみたんですけど、携帯が車の中にありました」

「アホかあいつは」

「オッスー。先輩ー、私とちーちゃんに任せてくだせー」

「何やる気だ美奈子。つーかお前もう酔ってるじゃないか。なんでモールの中で酔うんだよ」


 ……


『ピンポンパンポーン。埼玉県からお越しの和田けんいち君……えっ二十一歳!? ……失礼いたしました。和田けんいち君。お連れの方がお待ちですので、至急……』




「……はっ!」


 私は重大な事に気付きました。


「どうしたのミィ。何か思いついた?」


「……迷子……センター」


「……」

「……」

「……献血所より先に思いつくべきだったね」

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