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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
走るのは嫌いだけどなるべく走れ編
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痩せた(たぶん)

 鬼人の里から無事に帰って来た、翌朝。

 私はお庭で日課のトレーニングをやっていました。


 イローニさんから指摘された『ちょっとの動きで相手の攻撃を避ける』という技術を会得すべく、お兄ちゃんに手伝って貰います。

 

「お兄ちゃん、私に思いっきり殴りかかって来てくださいね!」

「う。ああ……」


 お兄ちゃんは手を振り上げ、パンチ……はせずに、恐る恐ると手を伸ばしてきました。へにゃへにゃユルユル。

 私は一応避けましたが、こんなゆっくりな拳では赤ちゃんでも避けられます。意味が無いです。


「もーお兄ちゃん。もっとしっかり、全力で殴って」

「俺には……無理だ……殴れない……」

「お兄ちゃん……お兄ちゃん? お兄ちゃーん?」


 お兄ちゃんは愕然としながら空を見上げ、ふらふらとどこかへ歩いて行きました。

 どうしたというのでしょうか……腕を怪我しているのでしょうか?


 仕方ないので私は、魔王様から配布されているトレーニング用の動く木人形を相手に練習します。

 お人形が叩いたり蹴ったり。私はそれを良く見てギリギリで避ける。

 隣で寝ているドラゴンさんが、時々うるさそうにこちらを見ます。


「うーん、我ながら良い感じで……あぅっ!」


 足元で何かが割れる音。

 下を見ると、ママが大事に育てていた植木鉢が倒れ、ちょっと欠けています。

 気を付けて離れた位置でトレーニングを始めたはずですが、動きに夢中でいつの間にか近くまで移動していたみたいです。


「しまった、怒られる……ああっ人形さん待っ」


 植木鉢に気を取られている間にも、木人形さんの攻撃は続きます。

 私は慌てて一歩下がろうとして、更に植木鉢を踏みつけました。バキンと音がして完全に器が割れ、土と花がこぼれます。

 土で足を滑らせ尻もちを付くと、戦闘終了と判断して木人形さんの動きが止まりました。

 私は植木鉢の酷い有様に絶望しつつ、


「隠しましょう……」


 後でしっかりとママに怒られたのですが、それはまた別のお話。





 物陰に植木鉢の残骸を隠し、お花は別の花壇に植え替え完了。

 一息ついていると、いつものようにマリアンヌちゃんが朝のお散歩がてら挨拶にやってきました。


「おはようございますミィさん、三日ぶりですわ。あら、なんだかお痩せになられましたわね」

「えっ、本当ですかぁ!」


 マリアンヌちゃんに言われ、私は自分のお腹を撫でつつ喜びます。

 鬼人の里の過酷な鬼ごっこ効果が、さっそく現れたのかもしれませんね。

 ぬか喜びの可能性が怖くて、体重計には乗ってないんですけど。


「たくさん走ったんですよ。鬼さん達に追われて」

「お、鬼に? さすが四天王、熾烈な訓練がありますのね……とにかくおめでとうございます。わたくしは、その……」

「痩せられなかったの?」


 マリアンヌちゃんの背後から、ヨシエちゃんがスッと登場しました。


「よ、ヨシエ……さん。いつの間に? 何故ここにおられますの……」

「聞いたよ。毎朝何かと理由を付けて、クッキーさんに会いに来てるんだって?」

「そ、そのような事は……ミィさん、ヨシエさんに話してしまわれたのかしら!?」


 マリアンヌちゃんは顔を赤くしています。

 私が「はぁ、一応」と答えると、ますます真っ赤に。


「違いますのよ。誤解ですわ。クッキー様にご挨拶するのはたまたまで」

「ふーん。わかったわかった」

「大体最近は、朝訪ねてもクッキー様がおられない事が多いんですの! だからわたくしは……はっ、いや、その」


 慌てたそぶりで、手の平をぶんぶん振るマリアンヌちゃん。


「そうですね。今日はさっきまでここにいたんですけど、最近お兄ちゃんは職場の新人さんと一緒にトレーニングすると言って、朝早くから出勤してます」


「え!?」

「は!?」


 私が説明すると、お二人が険しい顔を向けました。

 ど、どうしたのでしょうか?


「そそそその新人さんというのは、以前言われていたお菓子作りが得意とかって、あのお方ですの……?」

「ああ、はい。そうだと思いますけどぉ」

「ふーん……そうか。朝から、毎日。ふーーーん……」


 妙な威圧感により、私は数歩下がりました。

 何か危険な空気です。


「あ、そうだお二人とも! 鬼人の里のお土産があるんですよ。ちょっと待っててください!」


 私は不穏な雰囲気を払拭するべく、話を無理矢理変えました。

 家の中に戻り、玄関先に置いていたお土産を持って、再びお庭に出ます。


「はいこれ、鬼ジャーキーと鬼サブレです。ジャーキーは鬼さんのお肉では無く牛肉ですが……」


 ジャーキーの箱とサブレの箱の間から、ひらりと一枚の紙片が落ちました。

 マリアンヌちゃんが拾って渡してくれます。


「何か落ちましたわよ。これは……写真ですの? お二人の男女が写っておられますけど」

「ああっ、こんな所に挟まってたんですね。ありがとうございます、これは大事な写真で……」




―――――



 時を少し戻して、昨日のお話をします。


「ミズノちゃんさあ。オジサンの新兵器、全滅しちゃってるんだけど……?」

「ふふっ。耐久性に問題があったみたい」

「使い方にも問題あったと思うんだけどなあ……」


 試験二日目も問題無く……いや、受験番号二十四番さん乱入という問題がありましたが、それでもなんとか終了した後。

 試験官用のテント内に戻り、皆で今日の反省会です。


「兵器開発局長、ミズノちゃんが色々破壊しちゃったのはウチが謝るッス。申し訳ない」


 スー様が鬼さん達の試験評価を書いた書類に目を通しながら、博士さんに話しかけました。

 ちなみに博士さんが精鋭部隊長、つまり四天王だという事は外部には秘密との事で。

 いつもの『第一精鋭部隊長兼』という肩書前半部分は呼ばないようです。


「でも確かにミズノさんの使い方も無茶だったかもしれないッスけど、ここは素直に耐久性を上げるべきッスよ。ウチも多分あんな感じに使うと思うし」


 あんな感じとは。

 例えば魔法銃について。

 使用者が弾倉に魔力を込めると、その魔力量に応じた威力で、魔法の弾丸が発射される兵器です。

 しかしミズノちゃんがその桁外れな魔力を思いっきり込めると、容量オーバーで銃が溶けちゃったのです。

 ミズノちゃんの上司であり、同様に莫大な魔力を持っているスー様も、実戦で同じように使って壊しちゃうだろうと言う事ですね。


「君ら上司と部下は、オジサンの天敵だよ……」

「まあまあおじ様。ほら、一つだけ無事なアイテムが残ってるわよ。ふふっ」


 ミズノちゃんはリュックから一つの道具を取り出しました。

 ハガキを三十枚束ねたくらいの大きさで、真っ白な箱のようなアイテム。

 端の方に小さなレンズが付いています。


「これ、ただの偵察用カメラなんだよねえ……笑って皆。はいチーズ」


 フラッシュが焚かれ、シャッター音が鳴りました。

 ミズノちゃんはニッコリ可愛らしい笑顔。スー様は右手で眼鏡をクイッと上げて出来るキャリアウーマンっぽいポーズ。

 そして私は咄嗟の事に、慌てて固まった変な顔をしちゃいます。


「おおっ、これすぐ写真になって出てくるんスね。便利。ウチも欲しいッス」

「機械音痴のスーちゃんに、カメラなんて扱えるのかなあ」

「もしかして、ウチを馬鹿にしてる?」


 カメラの側面から、一枚の写真が出てきました。

 私の前世で言う所のインスタントカメラですね。

 美奈子さんは実物を見た事は無かったようですが。


「わあ、お姉ちゃん可愛く写ってるね」

「そ、そうでしょうか……? 表情ガチガチですけどぉ」

「ウチは眼鏡が光って顔が見えてないッス……撮り直し!」


 なんて、いい大人達も混ざって遊んでいると、イローニさんが近づいてきました。

 試験中に付けていたピンクの伊達眼鏡は、既に外しています。

 折れた腕は、スー様の治癒魔法でもう完治したようです。


「狼ちゃん。試験は、どうだった? あたしは、頭痛くて、ちょっと帰ってて。見れなかった、けど」


 あくまでも受験番号二十四番さんは別人という設定を貫くみたいです。

 最後の方なんて、完全にイローニさんとして話していたと思うのですが。


「お腹が痛かったのでは……?」

「あ、うん。それも痛かった。頭と、お腹と、背中が、痛かった」


 なんだか適当な事を話した後、イローニさんはおもむろに私の頭を撫でました。


「あぅぅ……」

「昨日の夜も、今日も。狼ちゃんには、苦労させた、ね。飴をあげよう」


 右手で私の頭をガシガシと撫でつつ、左手で浴衣の懐に手を入れました。


「あ。持って、なかった。どうしよう。ごめんね」

「い、いえ。お詫びなんていらないのですが……あっ」


 私は博士さんが持っているカメラ、そして少し離れた場所で鬼部隊隊長さん副隊長さんと話し合っているヴァンデ様、更にイローニさんの顔を順番に見て、閃きました。


「お詫びというのなら、一つ頼みたい事が……」




―――――



 時間を今に戻します。

 私はヨシエちゃん、マリアンヌちゃんと別れた後、ご飯を食べて出勤しました。


「し、失礼しまちゅ!」


 噛みました。

 言い直すと、お部屋の中から「うむ」とのご返事。

 私は扉を開け入室。

 そして部屋の主がお座りになっている、大きな机の前まで移動しました。


「お、おはようございます」

「うむ。飴をあげよう」


 さっそくお菓子を頂きました。

 ここは、ヴァンデ様とイローニさんのお父様、そして魔王軍最高幹部でもある、ディーノ様の執務室です。


「要件は?」

「はい。えっと、鬼人の里で買ったお土産を差し上げたく……」


 鬼人の里というワードに、ディーノ様の眉がピクリと反応されました。


「お土産の鬼ジャーキーです」

「うむ。任務ご苦労」


 ディーノ様はお土産を手に取り、机の上に置きました。


「あ、あと……あのぉ……この写真もどうぞ」


 私は一枚の写真を渡しました。


「……これは」


 男女お二人が並んで写っています。

 真面目なお顔で笑いもせず、まっすぐ立って被写体になっているヴァンデ様。

 そしてその隣では、両手の人差し指で自分の頬を突き、少し首を傾けた可愛らしい格好……ですが無表情の、イローニさん。

 それぞれ対照的なポーズですが、顔がそっくりな御姉弟の写真。


「あの。えー……イローニさんの小さい頃のお写真しか持っておられないとお聞きしましたので……後、ヴァンデ様の写真も、その……えっと、余計な真似かもしれませんけど……」

「いや」


 ディーノ様は瞬きもせずに写真を見られています。

 そして、ぼそりと呟かれました。


「感謝する」

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