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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
走るのは嫌いだけどなるべく走れ編
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攻撃力上昇(ひっさつぱんち)

『殺すつもりで。お願い、ね。ホントに殺しちゃ、駄目。だけど』


 というイローニさんの言葉が、演習場に響き渡りました。

 試験官用のテントから、マイクとスピーカーを通して喋っているようです。


「それって難しいね。殺しちゃったらどうしよう」

「わ、私は逃げに徹します……」


 林の中で、私とミズノちゃんは会話しています。

 試験は既に始まっているのですが、結構呑気に話す暇はあります。

 なぜならば、誰もこちらにやって来ないので……



「うおおおお! 喰らいやがれ!」


 受験鬼さんは金棒を大きく振り上げ、大ニワトリのトサカさんに飛び掛かりました。


「コケッ」


 トサカさんは金棒攻撃を羽毛で受け止め、痛くも痒くもなさそうな顔をしています。



「鬼さん達、ほとんどみ~んな、ニワトリさんに突撃しちゃったみたい。ちょっとつまんな~い」


 ミズノちゃんは、一番高い木のてっぺんに器用に両足で立ち、受験鬼さん達の様子を眺めています。

 そして私は、その隣の木の下に隠れています。


「おどりゃあああああ!」

「うんぬおおおおおお!」

「効いてる! 効いてる!? あ、効いてないわコレ!」


 スタート地点から鬼さん達の怒声が聞こえます。


 この試験形式、見た目が弱そうな私が集中攻撃されると思っていたのですが。

 意外な事に受験鬼さん達は、十二人の内、十人もの方が真っ先にトサカさんへ戦いを挑みました。

 残り二人は鬼部隊の副隊長さんの元へ。マッチョな鬼さん三人で、迫力満点な殴り合いをしています。

 必然的に私とミズノちゃんは暇人に。


 よく考えてみると、『就職アピールのために戦う』という目的がある以上、どこからどう見てもデカくて強そうなトサカさんに集まるのは当然かもしれません。

 なーんだ。ビビって損しましたね。

 私は木陰でのんびりお休みしてましょう。


「これが俺の必殺技だああああっ!」

「おいバカ、俺に当たってるって!」


 鬼さん達が力溢れる攻撃を続けています。

 しかしトサカさんはそれを全て受け切り、びくとも動じません。

 一応、頭を狙った攻撃だけは、片羽を上げ防いでいますが。

 そして、全ての鬼さんが一通り攻撃した後……


「コケエエエエエエ!」

「うああああああっ!」

「うぎゃああああっ!」


 トサカさんはその大きな翼で突風を起こしました。

 攻撃されたら反撃可能、というルールを守るため、全員分の攻撃が終わるまで待っていたようです。

 ……多分。

 いえ、トサカさんがそこまで考えているのかどうかは分かりませんが……


 とにかくトサカさんの風起こし攻撃により、鬼さん達は一斉に吹き飛んでいきます。

 あるものは地面に激突。あるものは湖に落水。


「うひゃあっ!?」


 そしてあるものは、私が隠れている木に激突。

 私はびっくりして叫び、もう少し奥にある木に避難しました。


「む……無理だ……あんなのに勝てない……」


 飛んできた鬼さんは、うつ伏せに倒れたまま弱音を吐いています。



『業務連絡。ぎょーおむ、連絡』



 突如、演習場にアナウンスが響き渡りました。

 再びマイクを通して、イローニさんが喋っています。


『受験生、は。女の子二人にも、攻撃して。ください』


 えっ!?

 なんだか余計な放送が……


『見た目が少女、だからって、遠慮しないで。この子達、魔王軍の幹部、だぞ。変身してる、だけ。本当は、齢五百を超える。ゴリラ』

『ご、ごり……? 姉上、何を』

『だって。この白衣のおじさんが、教えて、くれた』


 博士さんの笑い声がします。


「あのおじさん、この後燃やしちゃおう」


 ミズノちゃんが微笑みながら言いました。多分怒ってると思います。

 しかしゴリラアナウンスの効果はあったらしく、対トサカさん戦を諦めた受験鬼さん達が、複数こちらへ走って来ています。

 先程私が隠れていた木に激突した鬼さんも、急に元気になって立ちあがりました。

 そして私の顔を見て、


「勝負お願いしゃっす、ゴリラさん!」

「ご、ゴリラじゃないもん……」


 まったく失礼な鬼さんです。

 私は憤慨し、抗議しようとして……知らない大人の男性と対峙するのは怖いので、結局ただ顔を背けるだけにしました。

 するとミズノちゃんが木から飛び降り、音も立てずに私の前に着地します。


「ミィお姉ちゃん、私が殺……えっと、半殺し? にしちゃうね。譲ってくれる?」

「ど、どうぞどうぞ! お願いします」


 私は大喜びでミズノちゃんにお譲りし、再び木の陰に隠れました。


「えっと、ゴリラ妹さん? おねがしゃあっす!」

「私ゴリラじゃないよ。ふふっ……」


 ゴリラだと思い込んでいるとは言え、さすがに少女に金棒を使うのは躊躇うのでしょうか、鬼さんは両手を上げ素手でミズノちゃんに襲い掛かりました。

 見た目完全に変質者マッチョと被害者少女……ですが、ミズノちゃんは華麗に横へ飛び退き、ひらりと避けました。


「はい、一回」


 私達面接官は、一回攻撃されたら一回反撃して良い、というルールです。

 ミズノちゃんは鬼さんに手の平を向けました。その手には、薄い金属で出来た機械のグローブがはめられています。

 これは事前に博士さんから頂いていたもの。以前私も吸盤機能だけ使った事がある、特製パワーグローブです。

 吸盤以外にも、使用者の魔力を炎や雷の魔法に変換する機能が付いているのですが、以前より威力を増したバージョンアップ版のテスト品らしいです。


「飛んじゃえっ」


 ミズノちゃんがそう言うと、グローブに付いている穴から突風が吹きだしました。

 木々が薙ぎ倒され、草花が地表ごと吹き飛んでいきます。

 鬼さんも、「また俺飛んでるよおおおお」とか言ってどっかに吹き飛んで行っちゃいました。


「す、凄い威力ですねミズノちゃん」

「うーん、でももう壊れちゃった。使えないね、これ」

『えーミズノちゃん、もうオジサンのグローブ壊しちゃったの? 困るなあ』


 マイクを通して博士さんが喋っています。

 その声を聞いて、ミズノちゃんはニヤリと笑いました。


「お姉ちゃん。代わりのアイテム使うから、リュック貸して」

「あ、はい。どうぞ」


 ミズノちゃんはリュックの中から、パワーグローブの予備を取り出しました。

 その時、ちょうど別の鬼さんが「勝負だゴリラさん!」と言いながら襲ってきました。私は慌てて木の陰へ。

 ミズノちゃんは先程と同じように鬼さんの攻撃を避け、手にはめたグローブで風を起こします。


「また大空をぉぉぉおおお!」

「あーあ。また壊れちゃった。ふふっ」


 その後も同じように次々と新アイテムを取り出しては、鬼さん達の攻撃を避け、反撃。そしてアイテム破損を繰り返します。

 魔力を増幅する指輪。魔力を弾に変える銃。魔力を使わなくて良いレーザーガン……も魔力を込めたら壊れました。


『ちょっとちょっとちょっとミズノちゃん!? それ魔力いらないってば!』

「ふふふふふっ……」


 どうやらミズノちゃんは、ゴリラ呼ばわりの原因となった博士さんへ、報復しているようです。

 それにしても博士さんの発明品を壊しちゃうとは、やっぱり凄い魔力の持ち主なのですね。

 なんと頼もしい子でしょうか。

 鬼さん達はこのままミズノちゃんに任せ、私は隠れてやり過ごし……



『業務連絡。ぎょーおっむ、れんらくうー』



 みたび、イローニさんのアナウンスが演習場内に響き渡りました。


「面接官は。一か所に、固まらないで。ください」


 あ、やっぱり注意されちゃいました。

 まあ私このままじゃ給料泥棒ですもんね……


『狼ちゃんは、そのまま、林の中。魔族っ子ちゃんは、湖へ。どうぞ』

「え~? 湖は濡れるからやだぁ」

『ミズノさん、アナウンスに従ってくださいッス!』


 渋るミズノちゃんに対し、スピーカーから大音量で流れるスー様のお小言。


「はぁ~い。あーあ。じゃあね、お姉ちゃん」


 ミズノちゃんはふわりと飛び上がり、軽々と木々の上を伝って、湖の方へ行きました。

 一人残された私は、不安で一杯です。

 もう帰りたくなってきた、その時、


「隙ありだゴリラ先輩!」


 急に背後から気合いの咆哮が。

 振り向くと、鬼さんが金棒を私の顔に向かって振り下ろしています。

 私は咄嗟にそれを避けた後、足に力を入れ、全力疾走して数十メートル先に逃げました。

 的を失った金棒が地面に振り下ろされ、地鳴りがします。


「な……瞬間移動……テレポートゴリラ!?」


 素早さカンストである私の全力疾走は、他の方から見ると瞬間移動したかのように見えるらしいです。


「瞬間移動じゃなくて、急いで走っただけです……あ、あとゴリラじゃないですぅ!」


 そんな私の叫びが聞こえなかったのか、


「テレポートゴリラだってよ」

「おいおい、そんなんに攻撃当てること出来れば、評価超アップ!」

「ゴリラ狙い目だぞ、ゴリラ!」


 鬼さん数人が走って私を追いかけます。


「ご、ゴリラじゃないもぉん……!」


 私は抗議しながら逃げます。

 鬼さん達が近づいて来たら、全力疾走して後ろへ回り込む。

 休憩している間にまた鬼さん達が駆け寄ってくる。

 私は再び全力疾走し、後ろへ回り込む……

 その繰り返し。


「ぜぇ、ぜぇ、はぁ……うぅ……」


 早くも疲れてきました。ピンチ……

 私は次の全力疾走でちょっと頑張って、林を抜け、少し遠くの砂場まで向かいました。


「うべっ」


 足を止めた瞬間、砂で滑って盛大にコケちゃいましたが……とにかくこれで時間稼ぎ出来ます。

 私は起き上がり、顔や服に付いた砂を振り払いました。

 ちなみに服装は例のだっさいジャージです。汚れたのがこの格好で良かった。


『ミィちゃん、避けてるだけじゃ遊びの方の鬼ごっこだよ。ほらほら、オジサンの発明品で攻撃してよ』


 博士さんのアナウンスが聞こえました。

 気軽に攻撃と言われても……あんな筋肉ダルマな鬼さん達に、私のへなちょこ攻撃が利くわけないです。

 それに今気付いたのですが、博士さん作のアイテムが入っているリュックを、さっきミズノちゃんに貸すため背中から降ろして、そのまま林の中に置き忘れてしまいました。


「……いや、一つだけありましたね」


 私はそう呟いて、腕に付けているリングを見ました。

 これは魔力が無いモンスターでも使えて、パンチ力がアップするという便利アイテムらしいです。


「見つけましたよゴリラ少女先輩!」

「あわわ……」


 鬼さん数人が走り寄って来て、その内の一人がこちらへ金棒を矢のように投げてきました。

 私は地面に伏せ、金棒を避けます。

 金棒は音を立て地面に落ち、砂が舞い上がりました。


「し、仕方ありません。私の必殺・狼パンチを喰らってくださいぃぃ……!」


 私は決心して、鬼さんへ立ち向かいます。

 瞬間移動ならぬ全力疾走で鬼さんに近づき、渾身の正拳突きを!


「とりゃぁぁぁ……」


 ぽこん、と軽い音がしました。

 殴られた鬼さんは、しばらく何が起こったのか分からず唖然として……

 結局「別に何も起こっていないじゃん」とでも判断したのでしょうか、私への攻撃を再開しました。

 私は再度逃げながら、考えます。


 そうですね。攻撃力がたった四しかない私のパンチ力が向上した所で、何の意味もないですよね。


「うぅぅぅ……私なんてぇ……」


 私は半泣き、かつ汗だくになりながら、時間切れになるまで攻撃を避けて走り続けました。

 まあでも、これ結構カロリー消費出来たんじゃないでしょうか。

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