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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
走るのは嫌いだけどなるべく走れ編
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面接官(けっこうえらいひとのしごと)

「走るのは得意か?」

「苦手です……!」


 突然のヴァンデ様からの質問に、私は躊躇なく答えました。


 ここはヴァンデ様の執務室。

 新しい任務の説明をするとの事で呼ばれました。

 私と博士さんが並んで椅子に座り、ヴァンデ様の話を聞いています。


「そうか苦手か。だがまあ、お前の耐久力なら走る必要も無いだろう」

「はぁ……」


 私は顔に疑問符を浮かべます。

 そんな私を見て、ヴァンデ様は「すまない、先に本題を話すべきだな」と呟きました。


「今度、鬼人の里へ出張するのだが、二人にも同行して貰う」

「きじん……鬼さんですか?」


 鬼さんと言うと、私が四天王に正式就任した日に襲ってきた、ストーカー気質の変態さんを思い出します。

 が、すぐに打ち消し、一般的な鬼さん像を思い浮かべる事にしました。

 皆さん頭にツノが生えてて、背が高く、ムキムキマッチョで、金棒とか持ってて、肌が赤とか青とか黄色とか普通の肌色とか色とりどりで。


「鬼人の里と魔王軍は特殊な関係にある」


 そう言ってヴァンデ様は、机の上に置いてある『よくわかる! まおうぐん』という冊子の、栞が挟んであるページを開きました。

 イラストや図が書いてあります。説明用に用意していたのでしょうか。ヴァンデ様は結構マメです。


「鬼人族は、里ぐるみの斡旋により、魔王軍に優秀な兵士を多数送っている」


 ヴァンデ様は、ペン先で冊子の図を指します。

 可愛くデフォルメされた鬼さん達が、『鬼人の里』と書かれた村から『魔王軍』と書かれたお城へ歩いているイラストが描かれています。


「祖父が鬼人である私が言うのもなんだが、鬼人族は非常に優秀。個々が地方ボス並の戦闘力だ」


 ボスキャラ並という事は、時々お城の中で見かけるあのマッチョ集団は、皆一人一人がお兄ちゃんやマリアンヌちゃんくらいに強いって事ですね。


「そこで鬼人族に対しては毎年、一般枠とは別の特別枠で入隊試験を実施している」

「にゅうたいしけん……そんなの、あったんですね」

「ミィちゃんはスカウトだからねえ。実はオジサンもスカウトだったんだけど」


 博士さんは眠そうな顔で言いました。

 目の下にくまが出来ています。何やら忙しそうですね。


「それにしても鬼さん達の試験ねえ。もうそんな季節か」


 そう言って大あくびを一つ。


「でもさあ、それって人事担当のスーちゃんのお仕事じゃないの?」

「ああ、事情により今年は私が担当になった」


 ヴァンデ様は冊子の次のページを開きました。

 鬼さん二人が追いかけっこをしているイラストが描かれています。


「毎年やっている試験内容は、受験生が二チームに分かれ実戦的な戦闘訓練を行う。『鬼ごっこ』と呼ばれる、鬼人族の訓練だ」


 ヴァンデ様は冊子のイラストに沿って、鬼ごっこの説明をされます。


 鬼ごっこ。

 片方のチームが追いかけ、攻撃する。

 もう片方のチームは追いかけられ、攻撃をガードするなり、わざと受けるなりした後に、反撃する。

 追いかけられるチームがなんとも不利ですが、とにかく過酷な訓練です。


 ゲーム中では、例によって鬼人の里にちょっかいを出した勇者さんが、制裁として、無理矢理鬼ごっこに参加させられていました。

 もちろん追いかけられる側として。

 もし無事ならそのまま解放されるというイベントです。


「その訓練の様子を見て、試験官である魔王軍幹部や鬼人部隊兵士達が評価点をつける」


 冊子の下半分に、マルやバツの札を上げている魔王様のイラストがあります。

 そしてその下部に小さく『※イメージです。魔王様が試験官になられる事はございません』と書かれていました。


「しかし今年から、鬼人族の兵士育成機関の代表が変わってな。その新代表の意向により、試験方法が変更になった」 


 ヴァンデ様の声のトーンが少し下がります。

 どうやらここからが重要な部分らしいです。


「魔王軍チームと受験生チームに分かれ戦闘訓練を行う。魔王軍チームは、攻撃を受け反撃する方だ」


 そう言って、ペンで、追いかけられている鬼さんのイラストを丸で囲みました。


「その魔王軍チームのメンバーにミィ、お前が選ばれた。便宜的に『面接官』という係名になる。頑張ってくれ」

「……はぁ……えっ!?」


 突然の命令に、私は固まります。


「博士はそれを見て受験生を評価する、試験官だ。この戦闘訓練は武器も有りなので、兵士用新兵器の実地テストの場として利用して貰って良い」

「おお、それはオジサン助かるわあ」


 博士さんはメモ張を胸ポケットから取り出し、パラパラとめくりました。


「どの兵器にしようかねえ……そうだ、ミィちゃんが出るのなら、使用者にも危険かもしれない無茶なものでも」


 そこで私はハッと気付いて、叫びました。


「む、無理無理無理無理ですぅぅぅぅ……!」




―――――



「あら、楽しそうね。私も行く」


 ミズノちゃんはそう言って、紅茶を一口飲みました。


 ここはお城内の、私のお部屋。

 ミズノちゃんが遊びに来て、ティータイム中です。ダイエット中なのでお菓子無し。

 お茶だけ飲みつつ鬼さん試験の話をすると、ミズノちゃんが目を輝かせ、『自分も行きたい』と言い出したのでした。


「じゃあ、スーちゃんに頼んでみれば?」


 博士さんが言いました。

 いつの間にか部屋に入って来て、ソファに座りお茶を飲んでいます。扉も開けっ放しです。

 いることに今気付きました。本当、いつの間に……

 しかし私と違ってミズノちゃんは、博士さんの入室にとっくに気付いていたようです。普通に返事をします。


「でもスー様って融通利かないのよね~」

「ああ分かる分かる~。オジサンも昔研究費上げて欲しくてさ。ちゃんと内訳書いた提案書まで付けてお願いしたのに、あの子ったら冷たい態度で」


「『プールをパカッて割って中からロボットを発進させる装置を作りたいから、追加でだいたい二千万ゴールド』ってのは、ちゃんとした内訳とは言わないッス」


 部屋の入口から、急に声がしました。

 博士さんの表情が固まります。

 声のした方を見ますとスー様のお姿が。

 スー様は開きっ放しになっている扉を丁寧にノックして、部屋に入ってこられました。


「別に行って良いッスよ、ミズノさん。ウチは融通が利く女」


 スー様が微笑みながらミズノちゃんに言いました。

 ミズノちゃんは「聞かれちゃってたみたいね」と苦笑いしています。


「融通が利く女……と言いたい所ッスけど。実は元々、ミズノさんにも面接官として同行して貰うつもりだったッス」

「あら。そうなの?」


 スー様は持ち運び式のファイルケースから一枚のプリントを取り出し、ミズノちゃんに渡しました。

 鬼人族入隊試験について、という題で、仕事の背景や目的、方法が書いてあるようです。

 お仕事があるたび毎回こういう資料を作っているのでしょうか……スー様はヴァンデ様以上にマメですね。


「後で渡すつもりだったけど、丁度いいので今渡すッス。あと鬼人の里は長くて固い草が多く生えてるので肌、特に足の露出が少ない服装で。ハンカチとティッシュも忘れないように」

「はぁ~い」


 お母さんみたいですね。


「ところでウチは第一精鋭部隊長兼兵器開発局長に用があって来たんス。部屋にいないと思ったら、こんなトコでウチの噂をしてたとは」


 そう言って博士さんを睨みつけました。

 第一なんとかってのは、博士さんの正式な役職名です。

 博士さんは、冷や汗をかきながら立ち上がりました。

 スー様は再びケースから冊子を一部取りだし、博士さんに渡します。


「これは鬼人族入隊試験の、評価ポイント基準ッス。頭に叩き込んでおくように」

「え~、オジサンただ新兵器のテストをしたいだけなのになあ」

「何か言ったッスか?」

「え? オジサン何か言ったっけ?」


 とぼける博士さんを呆れ顔で見た後、スー様は私とミズノちゃんの方へ振り向きました。


「二人とも頑張って面接官をやり遂げて欲しいッス。特にミィさんは、ヴァンデ君……いや、ヴァンデ軍師の力になってあげるように」

「ヴァンデ様の力に?」


 今年から担当になったという事らしいので、滞りなく進行するためのお手伝いをしろって事でしょうか。

 私がそう考えていると、スー様は優しく微笑みました。

 そして再び博士さんの顔を見て、思い出したように言います。


「今年の責任者はヴァンデ軍師になったけど、ウチも試験官として参加するッス。でも皆より一日遅れて行くので、一番大人の第一精鋭部隊長兼兵器開発局長がちゃんと引率するんスよ!」

「へーい」


 博士さんは露骨にめんどくさそうな顔をして、気の抜けた返事をしました。

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