攻撃力半分(ばらんすわるい)
その後も何人かの盗賊と遭遇しましたが、都度倒していき、四人は無事に洞窟内を進んでいきました。
ごつごつした岩肌が続いていましたが、急にレンガ作りの壁に変わります。
岩とレンガの境目部分は、ぼろぼろに崩れかけています。
「……ここから、床や壁が整っている」
「出口が近いのかな~?」
レンガの壁には等間隔に燭台が設置してあり、松明の炎が通路を照らしていました。
「城の地下通路まで来たようだね。もう既に城内へ侵入できたというわけだ」
ヴラコさんは壁を確認するように撫でながら言いました。
「庭とかじゃなくて、城内に直接通じてるんだね、この洞窟~」
「予想以上に広いアジトのようだが……盗まれた指輪とやらを探し出せるのか?」
お兄ちゃんの質問に、
「心配無用だよ。先祖の魔力を感じ取って、なんとなくの位置が分かるんだ」
と、ヴラコさんが答えました。
「へ~、吸血鬼って便利だね~」
地下通路の先は階段になっており、そこを抜けるとお城の廊下に出ました。
昔は煌びやかなお城だったのでしょうが、今は壁も床も天井もボロボロで、所々に蜘蛛の巣が張っています。
廊下は一本道で、奥に扉があります。
「この扉を抜けると、いよいよ敵の本拠地だよ。心の準備はいいかい?」
ヴラコさんの確認に、お兄ちゃんと戦士さんは頷きます。
フォローさんはお兄ちゃんの背中に隠れます。
「まあ、扉を開けてすぐ戦闘というわけでは……」
ヴラコさんの台詞途中で、お兄ちゃんが扉を開けました。
そこには、十人程でしょうか。
モンスターさんと人間さんの集団が。
「戦闘というわけでは、あったみたいだね」
「誰だテメエら!」
「どうやって入って来た!」
「見張りはどうしたんだ!?」
盗賊団の皆さんが口々に騒ぎ、そして威嚇してきます。
「ど、どうしよう数が多いよ~」
フォローさんが慌てながらお兄ちゃんの服を引っ張りましたが、「離せ」と言われちゃいました。
「今日はずっと狭い場所での戦闘だったが……ここは広い。皆、ちょっと離れててくれ」
お兄ちゃんはそう言って、盗賊集団へ向かって歩き出しました。
「なんだ兄ちゃん、一人で俺たちを相手にする気か?」
「ちょっと図体デカいようだが、自惚れるなよ」
盗賊さん達が笑いながらお兄ちゃんを出迎えようとして……
「すまんな。もっと図体がデカくなる」
次の瞬間、皆さん青ざめました。
お兄ちゃんは全長五メートルの大狼に変身し、盗賊さん達に突っ込みます。
体当たりし、踏みつけ、噛み付き……
「これはまた随分とエグい光景だね」
ヴラコさんがそう言った時、既に盗賊団は壊滅状態でした。
「この方角だ。この先から指輪の魔力を感じるよ」
ヴラコさんの導きにより、お兄ちゃん達は細長い廊下を歩いています。
盗賊団はあらかた倒してしまったようですが、まだ残党がいるかもしれないので、警戒は怠りません。
「てめえ、ただの人狼じゃなかったのかよ。あんなのに変身してよぉ」
「そうか、お前はあの姿を見るのは初めてだったか」
進みながら、戦士さんがお兄ちゃんに話し掛けました。
「巨大人狼なんてもん、今の今までただのお伽噺だと思ってたんだがなぁ……」
「確かにあまり数はいない。そう思っている人間も多いのだろうな……しかし勇者と一緒にわんわん洞窟へ乗り込んで来た時は、ボスが巨大人狼だと下調べもしていなかったのか?」
わんわん洞窟とは、お兄ちゃんがボスキャラをしてるダンジョンの名前です。
戦士さんは昔、勇者さんと共にわんわん洞窟にある秘宝を奪いに来たのです。
「……依頼主は何も言わなかったなァ。まあ、言ったら怖じ気付くと思って黙ってたんだろうよぉ、あのハゲデブ親父」
勇者さん達は、秘宝を買い取るというお金持ちの人間さんに依頼されていました。
「まったく、妹が妹なら、兄もバケモンだな」
「……俺はあいつ程、強くは無いがな」
壁につき当たりました。
廊下が、丁字路のように左右に分かれています。
「あれ、道が分かれてる。どっちかな~」
「こっちさ」
ヴラコさんが迷わず右の通路を指差します。
「……こっち、だとぉ?」
「そう、右の道さ。魔力の反応が近い。そろそろ見つかると思うよ」
皆の方を振り向き、微笑みます。
四人は右の道を進みました。
細く狭い廊下の先に、曲がり角が見えます。その途中に部屋の扉などは無く、ただ長い廊下が続いています。
それにしても広いお城ですね。
「そう言えば結局、『モンスターと人間の連携技』ってのは見る事出来なかったね~」
「……そんなおぞましいもん、見たくねぇよぉ」
フォローさんの呟きに、戦士さんが溜息まじりに答えます。
「せっかく話のタネになりそうだったのにな~」
「ここは見世物小屋じゃないんだぞ」
「じゃあ見」「せてやる」
突如前方から、光の玉が襲ってきました。
「!?」
お兄ちゃん達は避けようと構えましたが、光の玉は四人の前に辿り着く前に弾け、閃光を放ちました。
四人とも、その光を浴びてしまいます。
「……なんだァ、今の光は……どっかで見た事あるような……?」
戦士さんはなんともないようです。
「……? な、なんだ、力が抜ける……」
しかし、他の三人は足がふらついています。
お兄ちゃんはまるで酔ったようによろけ、ヴラコさんは壁に寄り掛かり、フォローさんに至っては寝ころんじゃいました。
「おい、どうしたんだァ!?」
「分からん、さっきの光で急に……」
「う~ん。気持ち悪いよ~」
「破邪の魔法だ」「よ。モンスターはしば」「らく魔力半減。でもまさか人間」「もいたとはね。うちと同」「じ混成チームか。珍し」「いね」
廊下の奥の角、右側の通路から、フードを被った一人の男が歩いて現れました。
男はこちらの方を振り向くと、二人の男に増えました。
背格好の似た二人の男が、重なって歩いていたのです。
まるでホラー演出。私はその場にいなくて良かったです。
「破邪の魔法ぉ……そういやぁ、あのクソ女が一度使ってたなァ……」
クソ女とは多分、勇者さんの仲間である僧侶さんの事だと思われます。
そして破邪の魔法。
これは敵モンスターの攻撃力、魔法攻撃力を半分にしちゃう魔法です。なんとボスにまで効いちゃう便利魔法。
いくらなんでも半分はやりすぎだろ、ヌルゲーになっちゃうじゃん。という意見も出たのですが、そもそもマトモにバランス調整してないゲームだったのでそのまま採用されたいわく付きの魔法。
長くても三ターン以内で効果が切れる上に、消費魔力が多すぎるので、結果としてバランスは取れていたのですが。
「効果はすぐに切れるし、連発は出来ねぇはずだァ……おい、動けるかクソ狼」
「ああ、だがどうにも力が入らん。これではマトモに攻撃出来んな……」
「僕もなんとか動けるよ。しかし、これはちょっとピンチかもね」
ちなみにフォローさんは寝たままです。
「よくも俺の仲」「間達をぶちのめして」「くれたな」
「変な喋り方してんじゃねぇよ、キモいな。テメエら、盗賊の残党ってわけか」
戦士さんは、わざと分かりきった事を聞きました。
お兄ちゃん達が回復する時間稼ぎです。
「俺は団長」
「俺も団長」
盗賊二人組はそう言って、フードを上げました。
二人はシルエットこそ似ていますが、一人は白い肌の人間、もう一人は赤い肌で三つ目のモンスターさんです。
「団長。そうか、お前たちが盗賊団の大ボスというわけか」
お兄ちゃんがそう言った後、団長二人は縦に並びました。
完全に姿が重なり、一人だけしかいないように見えます。
「俺と」「俺で」「お前たち全」「員皆殺しにし」「てやる」「よ」




