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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
幻のお菓子ULHGSR編
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裏技(らくをしてもうける)

「最強武器って、どうやって入手すべきだと思う?」


 ある日の午後、ちーちゃんさんがゲーム製作チームの皆さんに尋ねました。


「やっぱり洞窟の奥だろ」

「いや、ラストダンジョンの隠し部屋だな」

「勇者が最初から持ってる装備が、イベントでパワーアップ」


 みんな各々のゲーム経験に基づき、アイデアを出し合います。


「美奈子はどう思う?」

「そうだねー。やっぱりイマドキの流行りはー」


 私の前世である美奈子さんは、スマートフォンの画面をちーちゃんさんに見せ、ニカッと笑いました。


「ガチャ!」




―――――



「このプレミアムくじは、人間の武器屋で流行っているシステムを参考に作ったんですニャ」


 スー様から恐ろしい目で睨まれているのも気にしない様子で、オーナーさんが言いました。

 なぜスー様が睨んでいるのかというと、一日一回無料くじでハズレ……ノーマル(N)賞を引いちゃったからです。

 ちなみに景品は綿棒一本でした。


「ニャンでもその武器屋は、このくじシステムを導入してから、年商二百億ゴールドを稼ぐようになったらしいですニャ」

「二百億ッスか!? 魔王軍の年間予算より多いッス……」

「まあ私の店では、さすがにそこまでの売り上げはありませんけどニャ」


 武器屋のくじ……覚えがあります。

 そうだ、前世の私達はそんなもの作ってましたね……


「当店の最高レア、ULHGSR賞の景品は五つですニャ。化け猫饅頭、化け猫多機能空気清浄機、化け猫有機ELテレビ、化け猫お米一年分、世界一周豪華化け猫客船の旅」


 オーナーさんはそう言って、壁に張られているパネルを指しました。

 そこには先程言われた商品たちの写真が並んでいます。


「そしてスー様、ミィ様。ご安心くニャさい。なんと有料くじはR以上確定なんですニャ!」

「えっ、確定なんですかぁ!」

「Rってウェットティッシュッスよ、ミィさん」


 確定という言葉のお得感に目を輝かせた私に、スー様が冷静に言われました。


「さらに三連くじなら、百四十五ゴールドに値引き致しますニャ」

「えっ、値引きですかぁ!」

「たった五ゴールドッスよ、ミィさん」


 スー様はまたもや冷静に言われながらも、渋々お財布を取り出しました。


「とにかく怪しいッスけど……まあせっかくここまで来たんス。饅頭が当たるかどうかは別として、SR賞やGSR賞くらいは出るッスよね。記念に三連だけ」

「毎度ありニャ~。ちなみにGSR賞は化け猫電気ケトルなんかが狙い目ですニャ」


 スー様がお金を払うと、黒服猫さんが天井から垂れ下がっている紐を引っ張りました。

 カウンター上の無料くじレバーの隣がパカッと開き、取っ手部分が虹色に塗ってあるレバーが現れます。


「こちらが有料三連くじ分のレバーですニャ。さあどうぞ」

「では失礼するッス……」


 スー様が虹色レバーに手を掛けました。

 異様な緊張感が漂います。

 私は唾をのみ込みます。


「引くッスよ!」


 ガチャリとレバーが倒れました。

 壁の巨大猫さんの目が見開かれ、目玉がぐるぐると縦回転します。

 しばらく回転が続き、瞳の色が次々と変わります。

 青、緑、赤、銀、金、虹色……



 青!



『レーアー!』


『レーアー!』


『レーアー!』



 全部、レア賞でした。



「んんぬおああああああ! 責任者呼べッス!」

「わたくしが責任者ですニャ」


 オーナーさんが笑顔で言います。


「きっと裏で操作されてるッス!」

「誓ってそのような事はありませんニャ」

「じゃあ確率表記しろッス! 各レアの確率は何パーセントッスか!」

「それはお見せ出来ない事になっておりますニャ」


 荒ぶるスー様を眺めながら、私は前世の記憶を辿ります。

 えっと、確か、武器ガチャの最高レアの確率……


「もしかして、お饅頭は〇・二パーセントですか……?」


 私の呟きに、オーナーさんの表情が一瞬固まりました。

 しかしまたすぐに笑顔を作り、微笑みます。


「おやおや、ミィ様は予習されて来られたのかニャ? 意外とギャンブル慣れしておられるニャア?」

「い、いえ。私もその人間さんの武器屋のお話を聞いた事があって……」


 どうやら〇・二パーセントで、図星みたいです。


「れ、〇・二パーセントってどういう事ッスか! 低すぎるッスよ!」

「落ち着いてくニャさいスー様、くじの高額景品とはそういうものですニャ。不正は無い。不正はニャーい!」


 確率を巡る争いが勃発してしまいました。

 でも、あの武器屋ガチャと確率まで同じという事は……もしかして?

 私はプレミアムくじカウンターの周りを見回しました。

 観葉植物が五鉢並んでいます。そしてその内真ん中のものだけ、花が咲いています。


「あの。ちょっと待っててください」


 私はスー様達にそう言って、花が咲いている鉢の前へと駆け寄りました。

 そして急いでお辞儀を三回。

 それだけやって、カウンターの前に戻ります。


「何やってたんスか?」


 当然ながらお二人は、私の奇行に疑問顔です。


「い、いえ。なんか珍しいお花だなって思って……」

「おお、お若いのに見る目がありますニャ。あの植物は中々花が咲かない品種でしてニャ。でもあの真ん中の鉢だけは綺麗に咲き続けているのですニャ」


 お花の説明を聞き流し、私はオーナーさんに五十ゴールドを手渡しました。


「あの。私あんまりお小遣い無いので、一回だけやってみますね」



 お金を払い、レバーを引きます。

 巨大猫さんの目が開き、目玉が回り始めます。


『チャチャチャチャチャチャーンス!』


 男性のハイテンションな声が聞こえました。

 回転する瞳の色が、変わります。

 青、緑、赤、銀、金、虹、虹、虹、虹、虹、虹、虹……


 突然、巨大猫さんの顔が眩く発光しました。


『ウゥゥルットラ! レェェジェンドォ! ハァァイパァー! ゴォォォージャスッ! ッスーゥゥパァー! レーアーァァ!』


 そして巨大猫さんの口が開き、虹色のカプセルが出てきました。



―――――



「最強武器の確率はどれくらいにするー?」


 ビールと柿ピーを両手に持ち、美奈子さんがちーちゃんさんに聞きました。


「リアリティを追及して、最高レア確率は一パーセントにしたわ。最高レアは五つあるので、武器だけを狙うなら〇・二パーセントね」

「〇・二パーセントー! 低すぎない?」

「だから和田君がその低すぎる確率のストレスにどれだけ耐えられるか、人体実験してる」


 横で、和田君がずっとパソコンの画面相手に格闘しています。


「もう指が疲れたよ……ああ美奈子、俺にもビール買って来て」

「ヤダめんどい」


 和田さんを冷たく突き放し、美奈子さんはビールを飲みます。

 ちーちゃんさんはその様子を見て笑いながら、柿ピーを貰って食べました。


「やっぱりこの確率はしんどすぎるわね」

「そうだ、じゃあ抜け道の裏技を作ろー!」




―――――



 裏技。

 それは、ガチャコーナー横に五つ並んだ観葉植物の真ん中。花が咲いている鉢に、三回会話コマンドを実行する事。

 その後すぐに単発ガチャを引けば、最高レア排出確定になるのです。


 この世界における会話コマンドとは、具体的には、会釈することです。これは実験で確認済みです。



「す、凄いッスよミィさん! まさか一回で最高レアなんて!」

「うにゃにゃにゃ……さすがその若さで四天王になる程のお方ですニャ。運も並外れているようですニャ」


 スー様は喜びはしゃぎ、オーナーさんはちょっと悔しそうな表情を浮かべます。

 そして裏技を使ったことで、私はちょっとした罪悪感が……でもどうしても食べたかったんです、お饅頭。

 ごめんなさい。


「このお客様に、景品をお渡しするニャ」

「はい、分かりましたオーナー……オーニャー」


 何故オーナーを今更言い直したのかは分かりませんが、黒服猫さんは虹色のカプセルを手に取り、中を確認しました。


「ではお客様、あちらのお部屋に景品がございますので、ご一緒に来てくださいニャ」

「あっはい……」


 黒服猫さんに連れられ、私は近くにある扉へと歩き出します。


「やったやった、お饅頭ッスよミィさん……あっ、ウチにも一口くれないッスかね?」

「スー様もご自分で獲得されるのがよろしいかと思いますニャ」

「〇・二パーは無理ッス!」


 黒服猫さんが扉を開けました。

 とても分厚い、鉄の扉です。さすが最高景品を保管しているだけはありますね。


「どうぞお入りくださいニャ」


 と、黒服猫さんに促されるまま、私はその扉の中へと入りました。


「……ん? ああ、違うニャ! そのお客様は魔王軍のお偉いさんだから、そっちの扉は」



 バタン、と扉が閉まりました。

 オーナーさんが何か叫んでいたようですが、もう聞こえません。

 それどころか、あのけたたましいカジノ場内の音が、全く聞こえなくなりました。

 完全防音。薄暗い部屋に、静寂が流れています。


 ……って、あれ? 黒服猫さんは扉の中に入って来ませんでした。

 この部屋の中に私だけ。景品受け渡しはどうなってるんでしょうか?


「ま、間違えて扉を閉めちゃったのかな?」


 私は一旦外に出て確認しようとして……それが不可能な事に気付きます。

 この扉、ドアノブや取っ手がありません。中からは開けることが出来ない作りです。

 ぶち破ろうにも、厚さ二十センチはある鉄の扉。いくらタックルしても開かないでしょう。

 そもそも非力な私には、厚さ数センチの木製扉も開けることはできませんけど……


 よく見ると扉に、張り紙が張ってあります。

 薄暗くて読みづらいですが……どうやらオーナーさんが書いたもののようです。

 最高レア景品を当てたお客様へ。と、あります。



『この扉は一度仕掛けが作動してしまうと、中からも外からも絶対に開きません。オーナーのわたくしでも開けることは出来ません。どうにか仕掛けを解除してください。最高レアを当てる程ラッキ―な君なら出来る! わけねーじゃん、そのまま死んじゃえニャハハハハ』



「フー……ゴロゴロゴロ……」

「ひぅっ!?」


 扉の方を向いている私の背中越しに、何か、変な音がしました。

 唸り声?

 だ、誰かいるのかな……?


「ふごぉー……」


 次は、嵐のような風音。

 振り向いて確認しようかな……いや、でも物凄い嫌な予感がします。

 なんか最近、こういうパターン多いです。

 絶対不幸な出来事が起こるに決まっているのです。


「あああああ……にゃぁぁあああご!」

「うきゃあっ!?」


 低い唸り声から、突如大きく響き渡るような鳴き声に変わり、私は仰天して叫びます。

 そしてついに振り向いてしまいました。

 そこには、私の何倍もある、巨大な……巨大な……


 猫さん。




―――――



「でもさー、中世くらいのレトロ舞台なこのゲームで、ギャンブルで大当たり出たからって素直に商品貰えるかなー? 絶対出し渋るよねー」

「レトロって……ロボやテレビあるじゃない」

「それはモンスターの社会でー、勇者サイドはあくまでもレトロなのー!」


 ここは居酒屋です。

 美奈子さんはチューハイのレモンを絞りながら言います。


「やっぱり大当たりが出たらー、係の人から『お客様どうぞこちらへ』と裏に連れていかれてー、閉じ込められてー」

「なるほど、それ聞くだけでだいたい分かったわ。あんたが考えそうな罠だ」


 そう言って、ちーちゃんさんは唐揚げを一口。

 美奈子さんもチューハイを一口……いや、一気に飲み干し、笑います。


「でっかいモンスターに襲われる!」

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