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落下(たぶんだいじょうぶ)

「巨大ロボットはカメラが頭部と胸部の二か所だけ。しかも視野が狭いので、探し物は苦手なんだよねえ」


 小鳥さんロボットを通して、博士さんが言いました。


「いつもは空に複数飛ばしてる監視カメラ映像とリンクさせて、視野を広げているんだけど」


 私は空を見上げてみました。

 ……監視カメラを見つけることは出来ませんでしたが。

 かなり上空にあるのか、かなり小さいカメラなのか……


 結界が張ってあるのに、今でもこの現場を監視しているという事は、小さいカメラ説有力ですね。



「今回、監視カメラまではハッキングされてないみたい。となると、特に足元は、な~んにも見えていない状態になってるはず」


 なるほど、言われてみれば。

 さっきも巨大ロボットさんは、一度私を見失った後、再発見するまでに結構時間が掛かっていました。


 今も辺りをキョロキョロと見まわして、私を探しているようです。


「さっきはこの人間がミィちゃんの場所を教えてたけど。とりあえずこの人間が気絶したのは、オジサン達にとってかなり都合がいい」


 この人間とは、デモ部隊のリーダーさんの事です。



「つまりオジサンが言いたいのは、今なら容易に近づいて、足の甲からよじ登って、スネを蹴りまくれるよ。って事ね」

「はぁ、なるほどぉ……」



 怖いから嫌です。



 とは、行かないんでしょうね。


「……それって、私は怪我しませんよね?」

「まあ普通なら死ぬけど、ミィちゃんならきっと大丈夫。頑張って」

「うぅぅぅ……」


 自分でも『まあ大丈夫でしょうね』と思い始めちゃっている事に恐怖です。




「まずその健脚ぶりでロボの足元に移動して。ミィちゃんの速さなら気付かれないよきっと」

「は、はい」

「ほら、『よーいドン』って言って」

「……」


 よーいドンは言いませんでしたが。


 博士さんの指示に従い、私は全力疾走により、一瞬で巨大ロボットさんの足元まで移動しました。


 巨大ロボットさんは、首をパトランプのようにグルグル回しながら、私を探しています。

 ちょっと気持ち悪いです。


 しかし博士さんの話通り、足元にいる私を発見することは出来ないようです。


「ここまで来れば、大きい音立てない限りは安全。ミィちゃんの必殺技のダメージが、ゼロか即死かの両極端ってのも丁度良い」


 博士さんは少し小声になっています。


「ロボットには触感なんてものは無いので、足の甲によじ登ろうが、ダメージゼロのキックを浴びようが、絶対に気付かないからね」

「そういうものですか……」

「攻撃されている事に気付くのは、ミィちゃんが会心の一撃を出した後。その時には左足と燃料タンクが砕けてる。ってね」



 巨大ロボットさんは、直立不動で頭だけを回転させています。

 博士さんによると、ターゲットを探すサーチモードになっているらしいです。

 足部分のパーツは、地面に付けたままピクリとも動いていません。


「まあ足元が見えてないのは分かってるだろうし、このままの状態でいるのはせいぜい一分だよ」


 博士さんがそう忠告しました。

 じゃあ早く足の甲に乗らないと…… 


 足先は、色々な部品でデコボコしていています。

 都合よく階段みたいになっていて、非力な私でもよじ登り易いです。


「このデコボコはただの装飾で、本当は必要ないんだけどね。メンテナンスが複雑になるからオジサンも嫌だって言ったんだけどさ」


 よじ登っていると、博士さんが呟きました。


「子供ウケするからイメージアップのために付けとけって、あの親子が言うのよ。その上ボランティアも強要。子飼いエンジニアの苦労ってヤツ」

「親子……ですか?」

「ディーノ様とヴァンデ様ね。二人とも糞真面目で、冗談通じなくて。オジサンの苦手なタイプ」

「はぁ……」


 私も苦手です。


 とうっかり言いそうになったのを、ぐっと堪えました。


 まあディーノ様に会ったことは無いのですが。

 ヴァンデ様は確かに、あの鋭い目と、今にも怒り出しそうな仏頂面が怖くて……



 足の甲の上に立ちました。

 スネを蹴るには、更にここから一メートルくらい登らないといけません。

 しかし足首より上はあまり凹凸が無くスベスベで、手を掛ける所がありません。


 さあどうやって登ろうかと考えていると、博士さんが話しかけてきました。


「ミィちゃん、ちょっとバンザイして」

「はぁ」


 博士さんの言葉に従い、私は両手を上げます。

 次の瞬間、小鳥さんロボットの首がパカッと取れました。

 頭と、体の、二つのパーツに別れています。


「えぇぇ! だ、大丈夫ですかぁ?」

「ロボットだから平気だって」


 小鳥さんロボットの頭部だけがフワフワ浮き、喋っています。

 怖い……


「両腕じっとしててね」


 小鳥さんの体パーツが更に二つにパカッと割れて、機械音を立てながら変形していきます。

 私の両手にくっつき、手首から手の平までを覆う指抜きグローブのようになりました。


「うわぁ……な、なんですかこれ」

「オジサン特製の多機能グローブ。火吹いたり電気ビリビリ~ってしたり出来るのよ。まあロボットには効かないような軽いものだけど」

「わぁぁ、スパイ映画みたいです!」


 私は目を輝かせて、腕を振ったり回したりしてみました。


「これはオジサンが昔学生時代に作ったものでね。これをきっかけに魔王軍にスカウトされてさあ」

「どうやれば火とか出るんです?」

「魔力を込めれば、それを増強して火に変換するよ」

「ま、魔力ですか……」


 ガッカリしました。

 私には魔力の欠片もないので……


「まあそう落ち込まないでミィちゃん。今回必要なのは別の機能だから」

「別の機能?」

「うん。とりあえずその手で巨大ロボットの足首触ってみて。手の平をベタッとくっ付けるように」


 私は言われた通り、右手の平で触ってみました。

 一瞬空気が抜けるような音がし、右手が巨大ロボットさんから離れなくなります。

 押しても引いても、まるで最初から根付いているように、ビクともしません。


「次は左手で同じように」


 左手も試してみると、同じようにロボットさんの足首にくっ付いて離れなくなりました。

 しかしそれと同時に、右手は剥がれたのです。


 繰り返し何度か試してみます。

 右手をくっ付けると、左手が剥がれる。

 左手をくっ付けると、右手が剥がれる。


「クライミング用の吸盤機能ってトコかな。右手と左手交互にくっ付くのよ」

「へえええ! ますますスパイ映画です!」


 グローブを使い、私は巨大ロボットさんの足を登り始めました。

 平らになっている場所を選びながら。

 右手左手交互にくっ付け、登っていきます。




「これくらいでいいかな……」


 一メートル半ほど登りました。

 向こうズネと言える位置だと思います。

 それにこれ以上登るのは高くて怖いですし……


「よしミィちゃん。ほらほら蹴って蹴って」

「えいっえいっえいっ」


 私は右手をくっ付け固定したまま、両足をじたばたしながら蹴りを連打しました。

 蹴りが当たるたび、こつんこつんという小さな音を立てています。


 会心の一撃は二パーセント。

 その二パーセントさえ出れば、私のクリスタルレインボーで巨大ロボットさんの左足は木っ端微塵です。


 百回くらい蹴れば途中どこかで発動するでしょう。


 そう考えながら、右手を軸にぶら下がった体勢で、バタ足のように蹴りを左右交互に放ちます。


「子供が、逆上がりの練習したいけど、身体が中々上がらない状況。って感じに見えるね」

「ちょ、ちょっと黙っててください……」


 私はさっそく息を切らしています。

 ぶら下がったまま蹴るのは予想以上に辛いです。


「い、今、私、何回蹴りましたかぁ!?」

「十三回だよ。あ、今ので十四」

「ま、まだじゅうよんんん……」



 私が苦痛のうめき声を上げた時、急にガクンと揺れました。


「うわぁっ、落ち……ない」


 右手は巨大ロボットさんの足にくっ付いて固定されたままです。


「あらら、サーチモード切って動き出しちゃったよ。ミィちゃん探すのは諦めたのかねえ。となると次は……」

「つ、次は……?」

「結界壊して脱出だろうね」




 巨大ロボットさんが空を飛び始めました。


「わあぁぁぁぁ……ヤダぁぁぁぁ……高いぃぃぃぃぃぃ……」


 一気に数十メートルの高さまで浮上します。

 足の裏から出ている炎の音が轟々とうるさいです。


 なにより高すぎて、私は気が遠く……



「はっ。気を失ってる場合じゃないです。と、とにかく蹴りまくらないとぉぉ……おおおおおおっ!?」


 巨大ロボットさんが手足を激しく動かし始めました。

 結界に向かって、パンチやキック、さらにマシンガンやミサイルなんかを繰り出しているのです。

 めちゃくちゃうるさいです。


 左足にくっ付いている私は、必然的に文字通り振り回される事に。


「やぁぁぁぁぁめぁぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇ……」


 身体に掛かる凄い重力。

 ジェットコースターにも乗れない私は、パニック状態です。


 走馬灯のように過去の場面が思い浮かびます。


 そう、あれはお友達のみんなで遊園地に行った時。

 皆でジェットコースターに乗ろうって話になりました。

 ヨシエちゃん、マリアンヌちゃん、ハナコちゃん。

 あの時、『身長制限に引っかかるから、背の低い私は乗れないです』って嘘ついてごめんなさい。

 実は身長制限は百二十センチ以下の子で、私は余裕でクリアしてました。


 多分嘘だとバレてただろうけど……



「ごめんなさぁぁぁぁぃぃぃ……」

「ちょっとちょっと。ミィちゃん、しっかりしてくれないとオジサン困っちゃうんだけど」


 小鳥さんロボット(頭部のみ)が、私の頬を突っついてきました。


「……はっ!」


 私はかろうじて意識を取り戻します。


「ほら、とりあえず蹴って蹴って」

「はいぃ……」


 私は再び、両足バタバタじたばたキックを繰り出してやろうとしました。


 ……が、巨大ロボットさんが左足を動かすたびに私の体も浮き、キックが当たりません。

 くっ付いている右手を軸に、ドッスンバッタンとお腹と背中を交互に打って。

 振り過ぎたメトロノームのような動きをしています。


「うぁぁぁあ……蹴りたいぃぃぃぃぃ……けど蹴りが当たぁぁぁぁ……りませぇんんんん……」


 振り回されて、私の声にもドップラー効果が掛かります。


「わかった。じゃあオジサンがロボの動き止めるために頑張ってみるから。ミィちゃんも頑張って、諦めずに蹴り続けてて」


 小鳥さん(頭部のみ)が私の元から離れていきました。

 そのまま浮き上がり、巨大ロボットさんの胸の前で停止します。

 えっ。確か胸部にもカメラがあるのでは……小鳥さん、そのままじゃ見つかっちゃいませんか。



「やあ、サイサク君。お久~」



 博士さんがそう言うと、巨大ロボットさんのパンチやキックがピタリとやみました。

 棒立ちで宙に浮いている状態です。



「はっ。な、何がなんだか分かりませんがチャンスです」


 私はここぞとばかりに、じたばたキックを再開しました。


 蹴るたびにカンカン小さな音が立ちます。

 しかし幸いなことに、巨大ロボットさんの足から噴き出る炎の音にかき消されています。



「その声は博士ですか。お久しぶりですね、その節はどうも」

 

 巨大ロボットさんから、男性の声がしました。

 ロボットさんを今操作している人間さんでしょうか。


「やっぱりサイサク君だった。さっすが~、もう音声出力システムまでハックしちゃったみたいね」


 博士さんの知り合いなのでしょうか。


「几帳面だね。音が会話の邪魔になるから、攻撃までやめてくれてさ」

「そうですね。博士には昔お世話になりましたし」


 私は聞こえてくる会話が気になりながらも、とにかく頑張って蹴り続けます。



「……あっ!」


 重大な事に気付きました。

 このまま巨大ロボットさんの左足にしがみついたままだと、クリスタルレインボーが成功すると同時に、私は支えを失って地上へ真っ逆さまです。


 それでも今の私なら死なないような気もしますが……怖いじゃないですか。


 丁度ロボットさんは両足を閉じ直立のポーズを取っています。

 私は吸盤グローブでロボットさんの右足に移動しました。

 移動中は下を見ないように気を付けて……怖いので……


 右足にくっ付いた後は、足をめいっぱい伸ばして、ロボットさんの左スネを蹴ります。


 きっつい体勢ですが……背に腹は代えられぬのです。



「魔力混成の電波を解析できるなんて、オジサン以外にはサイサク君しかいないからねえ」

「今更現れても遅いですよ。既に操作系統の九割は掌握しましたから」


 博士さんと、『サイサククン』と呼ばれている方の会話が続きます。

 気のせいでしょうか、博士さんの声が楽しそうに少し弾み……それでいて、どこか悲しそうな気もします。



「……あっ!」


 私は再び重大な事に気付きました。

 せっかく右足に移動したのに……

 クリスタルレインボーが成功すれば、どっちみち巨大ロボットさんは墜落です。

 当然ながら私も一緒に地上へ落ちちゃいます。


 ……大丈夫。多分死にません。死にませんから私。


 もう諦めて落ちるしかありません。



「カメラの視野が狭い問題はどうするつもり? さっきもミィちゃんを見つけられずに、結局諦めちゃったみたいだけど」

「空に無数の監視カメラを飛ばしてロボットとリンクさせるくらい、僕でも簡単に出来ますよ」

「へえそうなの。サイサク君も立派に成長したんだ」


 成長……

 博士さんは、昔からこのサイサククンさんを知っているような口ぶりです。


「それにあの人狼の子を諦めたわけではありません。ここは一旦持ち帰り、視野の問題をクリアした後に再び殺しに来ようと思いまして」


 わ、私を殺すとか言ってます!

 危険! このサイサククンさんは危険思想の持ち主ですよ!


 私は慌てて、キックの速度を上げました。



「へえ。相変わらずビジネスライクな切り替えの早さだね」

「博士も相変わらず迂闊ですね。こうも簡単に兵器を乗っ取られるとは」

「そうだねえ。オジサンは昔から迂闊な魔人さ。助手の君が人間だって事にも、ずーっと気付かなかったんだもんね」


 助手?

 サイサククンさんは、博士さんの助手だったのですか。


「そうですね。博士が上司だったおかげで、僕もスパイをやりやすかった。鼻の利くモンスターが上司だったら、どうしようも無かったですからね」

「身体中を緑の絵の具で塗りたくってたんだもん。オジサン全然気付かなかったよ」


 いやそこは気付きましょうよ!


 私は思わず小声でツッコミを入れてしまいました。

 炎の音でかき消されましたが。


「それで、オジサンから盗んだ技術で、その妨害電波と乗っ取り電波を開発したってわけ?」

「まあそうですね。博士のおかげで僕も今や反モンスター同盟の技術開発部長です」

「おや、それは出世おめでとう。遅ればせながら昇進祝いのハムでも送るよ。住所どこ?」


 そう言った後、小鳥さんの口からポンッとカラフルな紙テープが飛び出ました。


「博士は以前にも増して無駄話がお好きになられたようだ」

「ん、まあねえ。独身の寂しいオジサンだからねえ」

「何の時間稼ぎか知りませんが、無駄ですよ。もうあなたにはどうしようもありません」


 ズジャジャジャジャンという音がしました。


「……ところがね。無駄じゃあないんだなあ、これが」




 巨大ロボットさんの左足が粉々に砕け散り、消えてなくなりました。



 今まで両足の炎で宙に浮いていましたが、急に右足だけになりバランスを崩します。


「な、何の音ですか今のは!? 機体が急に安定しない!」

「サイサク君ざ~んねん。うちの新しい四天王はオチビさんだけど、オジサンなんかよりずっと頼れる子なの」

「あの子供が……!?」


 そこでノイズが入り、サイサククンさんの声は聞こえなくなりました。


 通信が途絶えたのか、スピーカーが壊れたのか。私には分かりません。




 巨大ロボットさんは左足がお尻部分まで砕けた事により、燃料タンクにも穴が開いたようです。

 液体が燃えながら漏れだし……あれ?


 よく見ると腰から上部分にも亀裂がどんどん入って……?


 あれ? あれれ?



「おいおいおいおい、冗談でしょ」


 という博士さんの呟きの直後。

 巨大ロボットさんの首から下全部が、粉々に砕け散りました。


 当然私がしがみついていた右足も砕け散り。 



「やぁぁぁだぁぁぁぁ……」



 私は地上へと落下しました。

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