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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
プロローグ 思い出したしどうにかしよう編
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脛蹴(すねきっく)

 以下は、私ことミィちゃんが死んじゃった後に、洞窟の奥で起こるはずだったイベントです。


 ……


「貴様、やはり勇者か!」


 お兄ちゃんは、鋭い目付きで勇者さんを睨みつけます。


「まさかこんなところで勇者に会うとはな。貴様達に倒された同胞達の恨み、晴らさせて貰おう」

「まあまぁ、待ちなって~モンスターのお兄さぁん」


 臨戦態勢をとろうとするお兄ちゃんを、チンピラ戦士さんが制します。


「アンタ人狼だろぉ? もしかしてぇ、このお嬢ちゃんがモゴモゴ言ってた『オニーチャン』ってアンタの事かなぁ~?」


 そう言って戦士さんは、モザイク処理が掛かってる何かを、お兄ちゃんに見せつけるように持ち上げました。


 モザイクが掛かってるので何か分からないんですけど、まだ十歳の私には理解できないようなグロいものです。

 例えば、脳ミソが爆発した生首……とか?


 ともかく、そのモザイクを見たお兄ちゃんは激昂し、雄叫びと共に五メートルほどの巨体に膨れ上がります。

 お兄ちゃんは巨大人狼(ギガントウェアウルフ)という、でっかい狼に変身できるモンスターなのです。

 その身体能力は凄まじく、一撃で勇者さんを即死させるほどのステータス設定です。ボスキャラです。


 でも戦士さんがレアアイテム『ミィちゃんの●●●』を使う事で、それを見たお兄ちゃんが動揺して行動不能になります。

 その隙に勇者さんが攻撃します。


 意外とゲーム性はあるけど、ただただ外道ですね……


 それを執拗に十回前後続けるとお兄ちゃんが倒れるので、戦士さんが『妹の元に連れて行ってやるよぉ』とか言って脳ミソ爆発させます。



 以上、無事回避する事が出来た、酔っぱらい達が作った最低なイベントの概要です。



 とりあえず話を今に戻しましょう。



―――――



「ミィ!」


 戦士さんが急に棺桶になった状況に理解が追い付かず、しばし呆然としていた私は、その声で我に返りました。


「お、お兄ちゃん……」


 地面が爆発した音を聞きつけたのでしょうか。

 洞窟の中からお兄ちゃんが現れ、倒れている私の姿を見るやいなや、走って駆け付けてきました。

 そして私の前に転がっている棺桶、更にその近くに立っている人間を見て、ハッと驚いたようです。


「貴様、勇者だな」


 ゆうしゃ「

  はい

 →いいえ

 」


「うむ。違うのか。人違いのようだ、申し訳ない」


 って、何信じてるんですかお兄ちゃん。


「騙されないでお兄ちゃん……その人は勇者だよ。回覧板の似顔絵と同じ……」

「何。貴様、勇者なのか?」


 ゆうしゃ「

  はい

 →いいえ

 」


「うむ。違うのか。人違いのようだ、申し訳ない」

「いや……えっと……お兄ちゃん。騙されないで。その人は勇者です」

「何。貴様、勇者なのか?」


 ゆうしゃ「

 →はい

  いいえ

 」


「貴様、やはり勇者か!」


 何ですかこの無駄なやりとり!


 心の中でそうツッコミながらも、思い出しました。

 この意味のないやり取りは、ゲーム制作チーム一員の和田さん、前世の私がアホの和田君と呼んでいた彼が仕込んでいた台詞です。

 勇者さんが『はい』を選択するまで頭の悪い会話がループする、よくある仕様です。

 本当は洞窟奥でのイベント会話であり、私の『騙されないで』という台詞は別のモンスターが担当するはずでしたが。


「まさかこんなところで勇者に会うとはな。貴様達に倒された同胞達の恨み、晴らさせて貰おう」




 ゆうしゃ「

 →じゅもん

 」




 それは一瞬の出来事でした。

 気付くと、勇者さんと戦士さん(棺桶)は空高くへ飛び去って行きました。


 あっ、なるほど。瞬間移動の呪文を使って逃げたようです。


「……トイレか?」


 お兄ちゃんは何が起こったのか良く分かってないみたいです。



―――――



 無事、勇者の強襲から生き残った私は、お兄ちゃんにおんぶして貰って一緒に家へ帰りました。


 身体がクタクタに疲れ切っているので、とりあえずベッドで横になります。


 でも眠るつもりはありません。身体の疲れに反して頭はスッキリクッキリ覚めているのです。

 そりゃそうです。勇者御一行に襲われたあげく、前世の記憶が戻り、あろうことかここがゲームの世界だという事に気付いたのですから。


 そしてゲームの通りなら、私とお兄ちゃんは今日、本当は死んでいたはずなんです。



 考えないといけない事がたくさんあります。



―――――



 この世界について。



 ここは、私の前世が作ったゲームの世界です


 もしくは私の頭がおかしくなってしまったか。

 そのケースはあんまり考えたくないので、無いものとさせてください。


 前世……なのでしょうかね。

 美奈子さんは、私とは百八十度性格が違っていたようです。

 明るくて、騒がしくて、お酒が大好きで……正直言うと私の苦手なタイプ……

 前世の記憶が蘇ったと言っても、私の性格まで美奈子さんに取って代わられるような事もなく。

 どちらかというと記憶を共有したといった所でしょうか。


 そう、つまり私はこのゲーム製作者の記憶を持っている……



 このゲーム、『剣と魔法のモンスタースレイヤーバスタードPrimeWaltz天下一品』かっこ仮。

 長いから、以下『剣モ』と呼びますね。


 『剣モ』は、酔っぱらいの大学生たちが悪ノリで作ったゲームです。


 ゲームの目的は一つだけ。プレイヤーが勇者となり、魔王を倒す事。

 よくあるコマンド選択式のRPGです。



 本当にゲームの世界なの……?

 もちろん俄かには信じられないので、何度も前世の記憶を引っ張り出して、今いる世界と比較確認しました。


 今日お兄ちゃんに届けようとしていたお弁当は、名古屋名物みそかつ弁当だった事。

 魔王様はものすごく強いけど、腰痛を患っておられるために、自ら勇者さんを倒すために赴くことはないという事。

 魔王様配下四天王の中に巨大ロボットがいる事。

 その巨大ロボットさんが、ヒーローショーをボランティアで定期開催しているという事。

 不良人狼のヨシエちゃんがよく岩陰で隠れて吸っているフリをしているタバコは、実は細長いチョコレートだという事。


 私が知っているこの世界の事と、前世の記憶で作ったゲームの事で、色々一致しています。



 では『今まで私が知らなかったけど、前世の記憶で初めて知った事』は、どうでしょう?


 前世の私の記憶によると、和田さん通称アホの和田君が、くだらない仕込みをしていたようです。


 『五回ぐるぐる回って会話コマンドを実行するとピンポーンという謎の効果音がする』


 ……ぐるぐるぐるぐるぐる


 会話コマンドは……たぶん……会釈とか……



「ピンポーン」



 というわけで確信しました。ここはゲームの世界です。



―――――



 となると、あの時なぜ急にチンピラ戦士さんが棺桶になってしまったのか、謎が解けました。


 あの時、私の逆ギレ駄々こねキックが戦士さんの向こうズネにヒットし、会心の一撃の効果音が響き渡りました。


 隠れて現場を目撃していたモンスターさん(助けてくれようとはしなかったんですね……)によると、まさにその会心の一撃により、戦士さんが死んじゃったらしいです。

 お兄ちゃんから『いつの間にかそんなに強くなっていたのか。偉いぞ』と褒めて貰いました。私は普段あんまり褒められる事が無いので、ちょっと嬉しかったです。えへ。


 褒めて貰ったことはともかく、なぜ非力な私のキックを向こうズネに当てたくらいで、戦士さんを倒すことができたのか。


 そりゃスネ蹴られたら痛いですけど。死んじゃうまではいかないでしょう。

 そもそも私みたいな雑魚モンスターの攻撃は、勇者御一行にはほとんど効かないはずです。


 そこで前世の記憶を引っ張り出して、思い出した技があります。



 スネキック。



 相手のスネを狙って蹴る技です。会心の一撃が出て9999即死ダメージ。おまけにMP消費無しという、いっそ清々しいくらいのバランス崩壊技です。

 飲み会の席にて、前世の私である美奈子さんが考案し、和田さん通称アホの和田君がけってーいガハハとか言ってたのを覚えています。


 その文字通りの必殺技を、何故だか私が体得して、あの土壇場で繰り出したのでは……?


 私が前世の記憶を思い出したことで、スネキックを使えるようになったのでしょうか。

 それとも、実はこの世界ではスネを蹴られると皆死んじゃう……いや、もしそうだったら今までちょっとした事で死人続出。スネキックは超有名な技になってるはずです。


 そう考えるとおそらくは私以外にスネキックを使える人はあんまりいないのかもしれません。



 ……私だけの必殺技。



 気持ちの良い言葉です。

 いままでプチギというカスモンスターとして肩身の狭い思いをしていましたが、今後はこのスネキックを切り札として、ボス級のモンスターになれるかも……


 ふっふっふ。


 私が本当にスネキックという最強必殺技を取得したのかどうかは、とりあえず明日改めて確認しましょう。

 お兄ちゃんのトレーニング用木人形で試し打ちです。

 スネキックと言う名前もダサいので、もっとオシャレな名前に変えたいと思います。



―――――



 前世の記憶が蘇った事で、気付いた事がいくつかあります。


 たとえば、私とお兄ちゃんについて。

 私はプチギ。お兄ちゃんはボス級の巨大人狼(ギガントウェアウルフ)

 ちゃんと血の繋がった兄妹なのに、種族が違うモンスターなのです。これは何故か?


 それは、酔っぱらい達が特に何も考えずに設定したからです。


 他にはたとえば、この辺一体に生息しているサイコロステーキスライムさん達。

 彼らは冷凍物のサイコロステーキ(加熱前)の姿をしていて、右下あたりに「大特価200g120円」という文字が浮かんでいます。

 酔っぱらい達が、スーパーのチラシをトリミングして、モンスターグラフィックにしたからです。


 他にはたとえば、この辺一体に生息している苺バズーカさん達。

 ただの苺の見た目のモンスターです。

 酔っぱらい達が、和田さん通称アホの和田君が買ってきた苺を写真に撮って、モンスターグラフィックにしたからです。


 他にはたとえば、この世界では、誰も語源は知らないんですけど、みそかつの修飾語として『名古屋名物』が使われていたり。


 これら全部、そして他にもたくさん、酔っぱらい達の悪ノリの産物がゴロゴロしているみたいです。

 今までは『そういうものか』と気にもしていなかったのですが……理由が分かるととんでもないですね。



―――――



 まあそんな悪ノリの産物たちはともかく、ここが『剣モ』の世界だとすると、もっと考えないといけない事があります。

 それは今後について……ゲームシナリオがどう進んでいくのか、という事です。


 本来今日お兄ちゃんを倒すはずだった勇者さん達は、なんだかんだやって他のボスさん達を倒したり、仲間を増やしたり、戦士さんが裏切ったりします。


 そしてその後、ついに魔王様配下四天王の一人目と対峙します。



 (このあたりになると、酔っぱらい達の間で『なんかもうめんどくさくなってきたな』という空気が漂いだしました)



 四天王一人目を撃破すると『諸事情によりカットします』というナレーションと共に、勇者さん達がラストダンジョンである魔王様のお城の入り口前にワープします。


 ついでに何故か四天王一人目が勇者さんの仲間なってます。

 更に何故か勇者さんのパーティー全員レベル99(MAX)になってます。


 お城の入り口前では、ラストダンジョン中ボスである魔王軍軍師様と対峙することになります。



 (このあたりになって、ゲーム研究部内での締め切りがきました)



 ついに勇者さん御一行は、軍師様を倒し、魔王様のお城に乗り込みます。


 入口に入ったら画面がフリーズするので、プレイヤーさんは自主的にゲームを終了してください。


 ~おわり~




 ということで、大変なことを思い出しました。

 このゲームは……



 

 未完成です。

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