就任(きゅうりょうもあがるよ)
「お前は今日から四天王だ」
「はぁ……」
エルフの里から帰って二日後。
私はヴァンデ様に呼ばれ、お土産のエルフ饅頭クリームチーズ味を持って、魔王様のお城へ行きました。
お城に入るのもこれで三度目。
自作の地図を作り、迷子対策もカンペキです。
クリームチーズよりもやっぱりお好み焼き味の方が良かったかな、いやサブレの方が良かったかも。
なんて事を考えながら執務室の扉を開けると、開口一番ヴァンデ様が言われました。
私は今日から四天王だそうです。
……えっ?
「正確には来週からだが、今日より着任準備を進めて欲しい。そこでやって貰いたい事の予定なのだが」
「ちょちょちょちょちょっと、待ってくださいぃい」
「なんだ、待遇についてか? 勿論給料も上がるし、権限も今まで以上に」
「えっと、そうじゃなくてですね……」
いきなりそんな事を言われても困ります。
四天王になるために勇者さんを倒せと言われましたけど、まだ倒してないですし。
どうして急に色々すっ飛ばしてそんな話になるのでしょうか。
そう言った旨を尋ねると、
「ミズノに勝ったのだろう?」
と、ヴァンデ様がお答えになりました。
「秘薬であれほど身体能力が向上する例は初めてだが……あの圧倒的な力を今後も私、いや、魔王様のために振るってくれ」
「ど、どうしてその事を知ってるんですかぁ……」
公園でのミズノちゃんと勇者さん達との一件後、お兄ちゃんやエルフの長老さんに説明を求められ、私は二つの事を話しました。
一つ目。勇者さんが夜に忍び込み秘薬を強盗しようと計画していた事。
二つ目。勇者さんが襲ってきたので、『偶然居合わせたミズノちゃんと一緒に』撃退し、勇者御一行は逃走した事。
私とミズノちゃんが戦ったことは話しませんでした。
理由は、なんとなく……
そうです。確かに誰にも話さなかったはずなのに。
なんでヴァンデ様は知っているのですか。
「魔王様は勇者たちの動向を監視している」
話が急に魔王様の事に飛びました。
「ま、魔王様が、ですか……?」
「そうだ。お前たちがエルフの里へと向かった日、勇者も里へ向かったとの情報が、父とサンイ様に伝わった」
どうでもいいですが、ヴァンデ様もサンイ様の事は様付けなのですね。
「サンイ様はエルフと人間に戦争を起こす計画を提案し、ミズノを里へ送り込んだ。父は博士に命じ、勇者達三人の様子をずっと上空よりカメラで監視していた。その中で、お前とミズノの戦闘も撮影されていたのだ」
「えっと……すみません。博士って誰でしたっけ」
「四天王の巨大ロボットを作った博士だ……まあ操作もしているので、実質の四天王の一人だな」
そう言えば、巨大ロボットさんは、お城で博士的な人が遠隔操縦しているという設定でした。
しかし……という事は、ディーノ様派閥の四天王は……
「そうだな。お前も正式に四天王になる。他の四天王の所属派閥、内部事情を話してしまってもいいだろう。と言っても既に察していただろうが……」
派閥について。
ディーノ様派の四天王が巨大ロボットさん。それに私。
サンイ様派の四天王がミズノちゃん。
「そしてもう一人の四天王、巨大ニワトリのトサカは無所属だ。正直、私もあいつが何を考えているのか分からない」
との事らしいです。
私がちっちゃな頃からヒーローショーで活躍してたロボットさんが、そんなドロドロ派閥劇に巻き込まれているというのは、ちょっとだけ微妙な気持ちですが……
味方というのは素直に嬉しいかも。
というか四天王の派閥情報、もっと早く教えて貰いたかったです。
ミズノちゃんとの闘いも回避できたかもですし。
「撮影していたお前とミズノの闘いを父に見せ、その後お前を四天王に推薦するため幹部会議にかけた。ミズノと互角以上に戦う姿を見せられてはサンイ様も反対できなかったようだ」
「……あ、あの。それってミズノちゃんは」
ミズノちゃんが私に負けてしまい、さらに戦争を起こす前に勇者さんを逃がしてしまった映像を、上司であるサンイ様にも見せてしまったという事ですよね。
お仕置きとかとか……魔王軍式の恐ろしい罰を受けちゃったりは……
そのような心配を口にすると、ヴァンデ様は「映像で見せずともサンイ様は把握していただろうが」と呟いた後に少し考え、
「ミズノは現状でも他を圧倒する優秀さの上、まだ幼いので今後の成長にも期待できる。そして歳相応に情緒も不安定だ。サンイ様も下手に重い罰を与えて機嫌を損ねるような事はしないだろう」
と、おっしゃられました。
私はひとまず胸を撫で下ろします。
「それに結果として、エルフ達に人間への不信感が募った。計画が無駄になったわけではない……ただミズノは昨日の幹部会議を、療養との事で欠席していたが」
「ええぇっ?」
療養とは。ミズノちゃんほどのモンスターでも、あの胸を貫く傷は一大事だったのでしょうか。
「ううぅ、これってやっぱり私のせいですかね……大丈夫かなミズノちゃん」
「怪我は勇者のせいだと思うが……自分を襲ってきた相手を心配するとは、おかしな奴だな」
ヴァンデ様はそう言って、軽く目を閉じられました。
気のせいか、少し微笑んだような……
「分かった。ミズノの事は私も気に掛けておくことにしよう」
ええっ?
ヴァンデ様がですか?
あの『常に冷徹で無表情』って設定でお馴染みのヴァンデ様が。
本当は意外とお優しい方なのでしょうか。
先程の笑顔も、私の気のせいではなかったのですね。
「あ、ありがとうございますぅ……」
「上手くやれば、ミズノも我が父の派閥に引き込むことが出来るかもしれない」
やはりあの微笑みは私の勘違いだったようです。
「まあとにかくだ。サンイ様もお前の四天王入りに文句を言えず、さらに肝心の魔王様の賛成も得て……あと何故かトサカも乗り気で賛成し、満場一致でお前は晴れて四天王に選ばれたのだ」
なんだかとんとん拍子で気持ち悪いくらいです。
というか正直覚悟も出来ていないので、逃げ出したい気持ちですが……
不安な目で「無理です」と懇願してみようかなとヴァンデ様の顔を見ると、その無表情で冷たく鋭い眼差しをモロに浴びてしまい、
「が、がんばりますぅ……」
と言うしかありませんでした。
「ああ、頑張ってくれ。他に質問は?」
「質問ですか……えっと……」
これまでの話で、一つ気に掛かった事があります。
しかし、これ聞いてしまっても良いものかどうか。
うーん、でも四天王になるんだし、こういう時に勇気を出せるようにならないといけないですよね。
はい。思い切って聞いてみます。
「その、ですね……えっと……勇者さん達も里に行ってた事、知ってたのになんで教えてくれなかったのかなって……あの」
「その程度は自分で切り抜けられるだろう」
「あっはい」
やっぱり聞かない方がよかったです。
「では話を戻す。今後の予定についてだが、まず就任表明として三つのテレビ番組に出演だ」
「はぁ」
なるほどテレビ出演ですか。
……テレビ?
―――――
「はーい。五秒前ー。ヨン、サン、ニー……」
「はいぃぃ……え、え、えっと、こここここんにちわあぁぁぁ……ぁぅぅ……」
声が震えまくりの噛みまくり、顔は赤面硬直、目は涙目で充血中。
そういうわけで、私は人生初のテレビ出演する事になりました。
しかも生放送です。