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人間スイーツとゴスロリ幼女④

 私達がモンスターである事を見破った、コックおじさんは、


「ウヒヒヒ……そ、そうか……」


 騒ぐでも、戦うでも、助けを呼ぶでも無く、


「そうだったのか……ヒヒ……も、モンスター社会にはもうあったんだね……魂のお菓子……」


 床に膝をつき、落ち込んでしまいました。


「やっぱり僕はダメだ……ヒヒ……パクリしか出来ない、パクリパティシエ……パクシエ……ヒヒヒヒヒ。死のう」


 それも、気の毒な程に落ち込んでいます。

 どんよりオーラが全身に漲っています。


「げ、元気出してくださいおじさん。モンスターにとってはありきたりでも、人間さんの社会では画期的な商品なんでしょうし。多分」

「そうよおじさん。アイデアはともかくこのエクレアは美味しかったよ? ふふっ、でももし死ぬなら、私に魂ちょうだいね?」


 私達は、何故かおじさんを慰めています。

 魔王軍四天王なのに、人間さんを元気付けても良いのでしょうか。

 まあ今日はオフだからいっか。


「ヒヒッヒ……美味しかった? そっか……ありがとう君達……ちょっと元気が出て来たよ……ヒヒヒ」


 陰気な喋り方のわりに、意外と早く立ち直りました。


「その意気ですよ、おじさん!」

「うん……それに、君達を見ていると、新商品も思いついたよ……」

「新商品?」


 おじさんは立ち上がり、私達を見ました。


「うん……ヒヒヒ……人間でなく、モンスターの魂を使ったスイーツさ……ヒヒ、丁度君達という材料が……あ、ごめん嘘です、冗談。嘘嘘……ウヒヒヒ」

「あら、冗談なの? 良いアイデアだと思うけど? 私とお姉ちゃんを材料にする事以外は」


 ミズノちゃんは指先からサッカーボールサイズの火の玉を出し、威嚇しながら言いました。


「あんまり美味しくなさそうだし……ヒヒ」

「それはそれでちょっと失礼ね」


 おじさんは何か思う所ありげに天井を見上げ、拳を握りしめました。


「ヒヒ……人間魂スイーツの本場から来た君達が、僕の人間魂スイーツを美味しいと言ってくれたんだ……ウヒヒヒヒヒ……僕、これからも魂エクレアを作って作って売りまくってお金を儲けるよ……ヒーヒッヒヒヒヒ」

「ふふっ。人間を殺しまくって魂奪いまくってね」


 おじさんも人間なのに、はたしてそれは倫理的に許されるような事なのか怪しいですが。

 しかしまあ、とりあえず騒ぎになる事も無く、


「あ、ありがとう……フヒヒ、このエクレア一ダース入りボックスをあげよう……ヒヒヒヒ」

「わあ、ありがとうございます!」


 お土産も貰って、めでたしめでたしと言う事で……




「あなた達も悪魔の手先だったのね!」




 急に、ガツンと後頭部を殴られました。痛くは無いのですが。


 全然めでたしめでたしでは無かったようです。


 振り向くと、縛られ檻に入っていたお姉さんが、すりこぎを片手に立っていました。

 いつの間に縄と檻から抜け出したのでしょうか。


「通信教育で縄抜けと脱出マジックを習ってて助かったわ……!」

「はぁ……」


 多才なお姉さんだったようです。

 お姉さんは胸を張り、大声で喋りだしました。


「話は全部聞かせて貰ったわ。ホントは途中からしか聞いてないけど」

「どっちですか?」


 私のツッコミは無視して、お姉さんは話を続けます。


「私は国際警察!」

「こ、国際……ヒヒヒ……警察……?」

「最近の失踪事件を追っていく中、このスイーツショップに辿り付いたのよ! そしてわざと罠に嵌って今に至る!」

「な、なんだよ……ヒヒ……」


 急展開です。

 せっかく自信を取り戻したのに、さっそくピンチに陥ってしまったコックおじさん。

 その額には冷や汗。

 そして火花が散りそうな程睨み合う、おじさんとお姉さん。


「ねえ、私達もう帰って良い?」


 既に興味が無くなったミズノちゃん。

 私もそろそろ帰りたいです。


「逃がさないわよ! あなた達もグルなんでしょう!? やはりモンスターが関わっていたのね!」

「違いますぅ……」

「問答無用! 皆、突入よ!」


 お姉さんが叫ぶと、急に厨房のドアや壁が吹き飛びました。


「ふ、フヒ……!? ぼ、僕のお店が……」


 火薬か魔法か分かりませんが、爆破されちゃったようです。

 そうして出来た大穴から、大きな盾を持ったマッチョマン達が十数人入って来ました。


「ヒヒッ……や、やめろぉ……」

「大人しくしろ!」


 コックおじさんは、マッチョマンに囲まれ、取り押さえられてしまいました。


「あなた達もよ! 皆、この少女二人はモンスターよ、気を付けて!」

「ひぅぅ……!」

「やだ、きも~い。近づかないでよ人間」


 マッチョ達が私達に近づいてきます。

 久々のマッチョ災難です。

 最近落ち着いて来てたのに。


「に、逃げましょうミズノちゃん! 私が殴られながら、なんとか道を切り開きますぅ!」

「うーん……それより、もう充分騒ぎになっちゃったみたいだし、狭い部屋に人間がたくさんで窮屈だし……こうした方が早いんじゃないかな?」

「こうした方がって……ど、どうした方がですか?」

「ふふっ。それはね」


 ミズノちゃんは右手を挙げました。

 その手の先を、この場にいる皆が注目します。

 ミズノちゃんの指先が、白い光を帯び……


「爆発オチよ」




 ◇




「はい、お姉ちゃん。あ~ん」

「あ、あーん……もぐむぐ」

「ふふっ、美味しい?」

「美味しいです」


 ここは上空。ドラゴンさんの背中。


 お土産に貰ったエクレアは、ミズノちゃんが張ったバリアのおかげで爆発オチから逃れました。

 十二個入りなので、その内三個くらいは今食べちゃっても良いだろうと言う事で、私とミズノちゃんとドラゴンさんで食べながら飛んでいます。


 元お菓子屋さんだった所は、瓦礫の山に。

 コックさん達がどうなったかは分かりません。

 生きて警察に捕まっちゃったか……それとも……ま、まあ考えないようにしましょう。


「今日は楽しかったね、デート。ふふっ」


 ミズノちゃんはエクレアを頬張りながら言いました。


「そうですね……私は結構疲れちゃいましたけどぉ……」


 正直に言って、もう人間の町には来たくないです。

 でも……


「う~ん、美味しい~」


 ミズノちゃんは楽しそうに笑っています。


「まあ、こんなお出かけも、たまには良いですね」


 私はそう呟いて、ミズノちゃんの頬についたクリームを拭いてあげました。

(人間スイーツとゴスロリ幼女 おわり)

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