人間スイーツとゴスロリ幼女②
私達は、ついに目的の店へと到着しました。
多数の人間が犠牲になってしまいましたが、我々はモンスターだから気にしない事にします。
とにかく、このお店で件の新食感お菓子を売っているのです。
丸い屋根の小さなお家。
壁にスティックキャンディーやマシュマロ人形が飾ってあり、なんともファンシーな雰囲気。
丸っこい文字で『おかし』とシンプルな看板を掲げています。
どこからどう見てもザ・お菓子屋さんですね。
「あの『新食感!エクエク!!エクレア!!!!!!』ってビックリマーク過多な商品が、噂のお菓子みたいですね」
大きな看板に、イラストと共に紹介してあります。
見た目は普通のエクレアっぽいのですが、問題は食感ですね。
その看板の隣、板チョコを模した可愛い扉の前に、人間さん達が行列を作っています。
どうやら皆さんも、新食感お菓子がお目当てなようです。
「買えるまで、一時間くらいかかりそうですね」
「並ぶの嫌ぁ~い」
ミズノちゃんは頬を膨らませます。
「全員殺しちゃおっか? どうせ人間だし」
「一応お忍びで来たんだし、あまり騒ぎを起こしちゃダメですよぉ!」
過激発言を抑えながら、素直に列の最後尾に並びました。
ミズノちゃんも不満そうな顔ですが、渋々一緒に並びます。
「あらお嬢ちゃん達、おつかい? 偉いわね」
前に並んでいるお姉さんが話しかけてきました。
私は「あ、はい、あ、ええ」とゴニョゴニョ返事をします。
知らない人から話しかけられて緊張したのと、正体がバレないかと不安になったからです。
しかしそんな私と違って、ミズノちゃんは堂々としたもので、
「うん、そうなの。お姉ちゃん達がどうしてもここのお菓子を食べたいって言うから。ふふっ」
「まあ、お姉ちゃん達のため? 良い子ね~カワイイ」
「ありがとう。お姉さんも美味しそうだね、魂」
「……はい?」
つい魔族としての人間評をしてしまったミズノちゃん。
そして不思議がるお姉さん。
「あ、あははは。心が綺麗そうって意味ですよぉ!」
私はそう笑って誤魔化しました。
お姉さんは若干腑に落ちない顔をしながらも、子供の言う事だからと納得してくれたようです。
ミズノちゃんはクスリと笑い、
「ごめんね、ミィお姉ちゃん」
と小声で謝ります。
お姉さんは笑みを浮かべ、再び私達に語りかけて来ました。
「でもお嬢ちゃん達、今日は微妙かもねえ。私もそうだけど、ちょっと出遅れちゃったかも……」
「え? どういう意味ですか?」
「それはね……」
「すみませーん! 今日分の『エクエク!!エクレア!!!!!!』は完売しましたー!」
お姉さんの説明を遮るように、店員さんの大声が聞こえました。
まあでも、もうお姉さんに説明して貰う必要はありませんね。
「……って事よ」
「なるほどぉ……」
売り切れで買えないという意味です。
◇
「どうするお姉ちゃん? 買う事が出来た人間を殺して、奪い取っちゃう?」
「そ、それは気の毒なのでやめておきましょう……あまり騒ぎにもしたくないし」
「わかった。ふふっ、ミィお姉ちゃんったら優しい」
キュートな笑顔で頷くミズノちゃん。
新食感お菓子エクエクエクレア! が売り切れと言う事で、お客さんの列は解散しました。
前に並んでいたお姉さんも帰っちゃいました。
残る人々は、せっかくここまで来たんだからと、せめて別のお菓子を買おうとする方々。
私達も一応お店の中に入り、キャンディーやらチョコやらを眺めています。
大半は自家製、一部は工場から入荷した出来合い物。
ちなみに表の看板に書かれていましたが、エクエクエクレア! は自家製みたいです。
「どうしよっか……私達も他のお菓子を買います?」
「うーん。新食感ってのを食べたかったなあ。せっかく来たのにぃ~」
ミズノちゃんは拗ねた声を出します。
明日になればまた新しいエクエクエクレアが売り出されるとの事ですが、一泊する訳にはいきません。
人間さんの町に一晩もいるのは危険だし。
無断外泊したらママに怒られちゃうし。
「でも新食感お菓子じゃなくても、人間のお菓子って時点で私達には珍しいです。ヨシエちゃん達へのお土産としても充分……」
「ねえ、お姉ちゃん。あれ見て」
ミズノちゃんが私の服を引っ張り、店の奥を指差しました。
その先には扉が一つ。
立ち入り禁止と書かれています。
おそらく、お菓子を作る厨房や、入荷したお菓子を保管する倉庫などに繋がっているのでしょうが……
「ね。お姉ちゃん……ね?」
ミズノちゃんは具体的に何をしたいのかは一切語らず、私に同意だけを求めてきました。
「み、ミズノちゃん……一応言っておきますけど、あの扉『立ち入り禁止』って書いてありますが」
「明日売る分が置いてあるかもしれないよ?」
悪戯っぽい笑顔を浮かべています。
「別に盗もうってわけじゃないよ、お姉ちゃん。奥にはお店の偉い人もいるだろうし。割高になるかもしれないけど、もしかしたら売ってくれるかも?」
「そ、そうでしょうか?」
「ね。だからお姉ちゃん……ね?」
「あぅ……わ、わかりました。ただ諦めるより良いかもしれませんね」
ミズノちゃんは私の手を握り、意気揚々と扉に向かって歩き始めました。