人間スイーツとゴスロリ幼女①
「お嬢ちゃん達可愛いねえ。格好も珍しいし……」
ちょっと太り気味の中年男性おじさんが、私とミズノちゃんに話しかけてきました。
このおじさんは、私達二人の事を人間の少女だと思い込んでいるようです。
私は帽子と服で、オオカミ耳と尻尾を隠しています。
ミズノちゃんは元々、姿形だけは人間と大差ありません。
まあ人間と比べると、肌のきめ細やかさが段違いなのですが。
「ねえ、お散歩中? それとも迷子? ちょっと一緒にあの公衆トイレに入らない? 楽しいオモチャがあるんだよ……はぁ……はぁ……」
中年おじさんは息を荒げながら、右手でミズノちゃんの肩を掴みました。
この突然の無礼に対しても、ミズノちゃんは笑顔で対応します。
「触らないで下さぁ~い」
「ぐっふひ、まあまあそんな事言わずに。楽しいし気持ちイイから……あれ?」
次の瞬間、中年おじさんの右手がグニャグニャのタコみたいになっちゃいました。
「手が……あれ……? い、痛ててててでええええ!」
肩から指の先まで、骨が粉々に砕けちゃったのです。
黒く変色した右手をだらりと垂れ下げ、痛みに悶絶するおじさん。
ミズノちゃんはその様子を楽しそうに横目で見た後、
「さあ行きましょミィお姉ちゃん。ふふっ」
再び歩き出しました。
私も慌てて着いて行きます。
「いいんでしょうか? あのおじさんの周りに、人が集まっちゃってますけどぉ……」
「あらヤダ。その集まった中に、治癒魔法を使える人間がいるかも。ふふっ、魂取っちゃった方が良かったかなぁ?」
可愛らしく怖い事を言う、モンスターオブモンスターな態度のミズノちゃん。
その人間に対する冷酷さに、同じモンスターとして憧れちゃいます。
「でも今はあまり目立ちたくないので、早くここから離れましょう。ミズノちゃん、早足で!」
「はぁ~い」
そして私達はせかせかと、人間が住む町中を進むのでした。
◇
何故、私とミズノちゃんが人間の居住地を歩いているのか。
その理由は簡単です。
いつものように同年代四人組で、お茶とお菓子を楽しんでいた時の事。
マリアンヌちゃんが、こう言いました。
「聞いたお話によると、人間社会で新食感のお菓子が流行っているらしいですわね」
最近話題になっているお菓子です。
ソリョさんもそんな事を言っていました。
今までに無い食感が楽しめるんだとか。
「ふーん……どんなお菓子なんだろうね? 肉味? うちの村に輸入はしないの?」
「一応戦争中だから、輸入は無理じゃないかな?」
ヨシエちゃんとミズノちゃんも興味があるようです。
実は私も、ちょっとだけ気になっていました。
私達はその新感覚お菓子について、予想を言い合いました。
新食感とはどういうものだろう?
味はどんなだろう?
食感がウリなのだから、味は大した事ないかも?
そうやって楽しく語り合う中、ミズノちゃんが言ったのです。
「そうだ……ふふっ。私、そのお菓子を買って来てあげるね」
ミズノちゃん程強いモンスターならば、人間の町へのおつかいなど造作もないでしょう。
たとえ途中でモンスターだとバレても、ケガする事無く帰ってこられるはずです。
しかし、とは言っても、小さな女の子一人で行かせるのは倫理的にどうなのか……
「わ、私も一緒に行きますぅ……!」
「えっ、本当ミィお姉ちゃん? 嬉しい!」
私の提案にミズノちゃんは喜んでくれたようです。
勢いよく抱き付いてきました。
「ふふっ。デートだねお姉ちゃん……なーんてね」
◇
そんなこんなで、人間さんのテリトリーへと踏み込んでいるのです。
もちろん上司の皆には内緒です。
知っているのはあの場にいた四人組と、送迎してくれたドラゴンさん。
そして、情報提供者。
「えーと、次の角を右ですね」
私は地図を広げて、目的のお菓子を売っているお店までの道順を言いました。
この地図は、わんわん洞窟で捕虜となっている人間さんが描いてくれたもの。
捕虜という立場だけど別に檻にも入らず、鎖にも繋がれず。
自由気ままに遊んで暮らしている、勇者さんの元仲間。
ソリョさんが描いてくれたのです。
お兄ちゃん達が留守の隙に、私は一人洞窟内へ忍び込み、ソリョさんに計画を打ち明け地図作成を頼みました。
ソリョさんは快く引き受けてくれ、
「私の分のお菓子も買って来てよね! ああそうそう、あの町にはお菓子以外にも色々……」
と言いながらスラスラと紙に地図を描きました。
台詞は長い上に、関係ない話題も多かったので省略します。
って事で、その地図通り、次の角を右に曲がりました。
さっきの中年おじさんの騒ぎが起きた現場も、完全に見えなくなります。
まあここまで来れば安全だろうと、私達は早足を止めたのですが……
「ちょっと君達。さっきの騒動に関わっていただろう? 僕はこの町で自警団をやっているんだけど」
安全では無かったです。
今度は若い男の人間さんに話しかけられちゃいました。
「あのおじさん、右手がぐちゃぐちゃに複雑骨折していたけど……まさかとは思うが、君達のような子供がそんな複雑な攻撃魔性を」
「えぅ……い、いやあそのぉ……」
このお兄さん、私達を怪しんでいます。
もしかして、モンスターだと勘付いているのでは……?
私は焦り、冷や汗を流します。
しかしミズノちゃんは表情を崩さず、大きく息を吸い込み、叫びました。
「きゃーー! 痴漢! この人痴漢! 痴漢でぇ~~す! レイプされるー! 誰か助けて下さぁ~い!」
そして、キュートな満面の笑み。
「何、痴漢!?」
「しかもあんな小さな子供相手に……!?」
「おいロリコンだ! ロリコンが出たぞー!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ違う! 俺は自警団で……」
「何だと!? 自警団のクセにロリコン性犯罪者だとは……!」
「ギルティ! ギルティ!」
市民達からもみくちゃにされる、自警団のお兄さん。
私達はその隙に走って逃げました。
「ふふっ。人間ってチョロ~い!」
ミズノちゃん……恐ろしい子……!