表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/138

おじさんと飴

 粉々に砕かれる音。


 飴玉達は、ゆっくりじっくり味覚を刺激するという使命を、全う出来ずにいます。

 口に入れた瞬間に歯で噛まれ、すり潰されてしまうのです。



「博士さんは、せっかちさんですね」


 ソファに腰掛け自分の出番を待ちながら、私は呟きました。


 ここは博士さんの研究室。

 私はいつものように、開発協力者として呼ばれました。

 聞こえは良いですが、要は新兵器の実験台です。


 博士さんは実験前の機器メンテナンス中。

 私はそれが終わるのを待っているのです。


「せっかち? オジサンが? まっさか~、問題は先送りにするタイプなのに」


 そのタイプは、せっかちかどうかって事と、関係があるのかどうか分かりませんが……

 博士さんは機械を弄りながら答え、再び飴玉を口に入れ、そして即噛み砕きました。


「その飴の食べ方が、せっかちさんの食べ方なんですよぅ」


 さっきから博士さんは、飴を口に入れては粉々にするという食べ方を、何回も繰り返しているのです。


「あっ。もしくはストレスが溜まっている人も、そんな食べ方するって聞いた事あります」


 私は昔マリアンヌちゃんから聞いた言葉を思い出し、そう言いました。


「ストレスねえ。そりゃオジサンストレスばかりだよ」


 博士さんは、またもや飴を口に入れました。

 ただ指摘されたからか、噛み砕かずに口の中で転がしています。


「どんどん仕事が舞い込んで来るし、オジサンだけ幹部会での報告がアホみたいに長いし、ミズノちゃんはすぐオジサンの作った武器壊しちゃうし、スーちゃんもすぐ怒るし、ミィちゃんはお菓子食べてばっかりだし」

「わ、私のオヤツは関係ないですよね!?」


 博士さんはクスリと笑い、そしてやっぱり飴を噛み砕いちゃいました。

 また私で遊ぼうとしている……そうはいきませんからね!


 私は憤慨し、左手に持っていたチョコレートを頬張りまし……


 ああ、確かに食べてばかりです。

 チョコを口に入れるのはやめて、包装紙に包み直し、横に置きました。


「まあでもストレスは関係ないかもねえ。実はオジサンね、こんな食べ方になったのには大きな理由があるんだよ」

「大きな理由……飴の食べ方なんかに、ですか?」


 博士さんはドライバーを回す手を止め、私の方を向きました。


「気になる?」

「……まあ、少し」


 私が答えると、博士さんはニカーっと笑い、語り始めました。




 ◇




「オジサン、本当は死ぬまで大学で研究するつもりだったんだよね。大学院を卒業した後も学校に残って、実はちょっとだけ講師もやってたのよ」

「講師って……博士さんが先生……?」


 意外です。学生さんが可哀想……いやそれは失礼な感想ですね。


「でも魔力と電気の混成研究結果をディーノ様に見つかっちゃって……いや認めて貰って、魔王軍にスカウトされたんだよね」


 その魔力と電気のなんとかって研究により、学生の頃から多数の兵器を作っていたようです。

 在籍者が堂々と兵器を作っちゃうなんて、なんとも危ない大学ですね。

 いや、モンスターだから当然かもしれませんけど。


「で。新入社員研修でグループワーク中にさ、オジサン喉を痛めてて、咳をしまくってたんだ。そしたら急に隣の子がチョップしてきて……」


 突然チョップを喰らい、博士さんは机上に顔をぶつけてしまったらしいです。

 その隣の子は、ウェーブがかった長髪をポニーテールに纏め、眼鏡を掛けている、ちょっとツリ目気味な女性。


「うるせーッス! 次咳したら殴るッスよ!」


 と、博士さんに言い放ったそうです。 

 もう殴ってますけどね。


「なんて怖いオンナノコなんだ……と思いながらオジサンはふと気付いた。チョップを受けた後、喉のイガイガが治ってたんだ」


 チョップついでに、治癒魔法を掛けてくれていたらしいです。

 そしてその眼鏡の女性は、博士さんを睨みつけながら、無言で喉飴までくれたとか。


「なんだ、意外と優しいオンナノコなんだな……なんて思いながら、喉飴を受け取ったんだけど」


 受け取った直後、


「また咳したら、喉だけでなく全身に痛みが走る事になるッス」


 と、恐ろしい台詞を呟いたとか。


「やっぱり怖いオンナノコだ……なんて思いながらも、その喉飴の包装紙を破り、口に入れ、いつものように速攻ガリガリと噛み砕き」

「ちょ、ちょっと。ちょっと待ってください博士さん」


 私は博士さんの回想モードをストップさせました。


「いつものようにって何ですか。その時点で、もう飴玉をすぐ噛んじゃう食べ方してたんじゃないですかぁ」


 そもそもこのお話は、何故博士さんがそんな飴玉の食べ方をするようになったのか、というエピソードだったハズですが。


「そうだよミィちゃん良く気付いたねえ。よく考えたらこの話関係ないよ。もっと前から飴を噛んで食べてるよオジサン。あっはっは」


 へらへらと笑い始めました。


「で、そのグループワーク中のチームメイトに、今妖精さん部隊で隊長やってるオッサン妖精がいてさ。気が合って、色々あげたり貰ったりの仲をずっと続けてて。この今食べてる飴も彼が出張先で買ってきたお土産なのよ」


 尚も当初目的の話題とは関係ない事を喋る博士さん。

 このおじさんは、混乱魔法にでも掛かっているのか……

 いや、ただ私をからかって遊んでいるだけなのか……


 確実に後者なのです。



「そう言えばオジサン物心ついた頃から飴噛んで食べてるよ。赤ちゃんの頃から母親のおっぱいに噛み付いてたらしいし。こりゃあ生まれつきの癖だね。それが大きな理由だ、うん」



 後者なのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ