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活用法(がんばれ)

 ゆうしゃ「

 →はい

  いいえ

 」


 そう言って……いや何を言ったのかよく分かりませんでしたけど。

 とにかくそう言って、勇者さんは戦士さんの後を追い、部屋から出て行きました。


 僧侶さんは呆然と棒立ちしていましたが、しばらくしてはっと自分が取り残されている事に気付いたようです。


「ご、ごめんなさいこんな事になって。さっきのはあのバカの暴走で。こんなハズじゃなかったんだけどなあ……あはは……」


 僧侶さんは慌てて取り繕うように、謝ってきました。


「そっちの君も。あなたとても強いのね。ホントごめんなさい!」

「あ、はい……え、私……強い……ですか? ふぇへへ」


「あの長老さん! ごめんなさい。この償いはなんでもします。でも、あの……できれば秘薬の事を考えて貰って」

「秘薬は絶対に渡せませんよ」


 長老さんは冷たく言い放ちました。


「あなたの仲間が暴れたから、というワケではありません。元々人間に渡すつもりはありませんので」

「そんな……何故ですか?」

「何故。そうですね……」


 そして、笑顔で言いました。


「私、人間が嫌いなんです」


 その言葉に僧侶さんは愕然とした様子で、『また来ます……ごめんなさい……』と、部屋を去りました。



 その姿を見送った後、私は緊張の糸が切れ、その場にへなへなと座り込んでしまいました。



―――――



「前例はありませんが……」


 長老さんはそう前置きをして言いました。


「確かにミィさんは、秘薬の神様の言う通り、『ぼうぎょ』『まほうぼうぎょ』『すばやさ』が999という異常な程の強さになったようですね」



 勇者さん達が去り、落ち着いた後に、私達は現状確認のために話し合っています。



「なぜ999という中途半端な数値なのかは分かりませんが」


 多分それはゲームシステム的な事です。


「あの、でも……攻撃力は四なんですよね……」


 防御と素早さはカンストで、はぐれメタル状態なんですが。

 肝心の攻撃力が最弱のままなんです。


「でも凄いよミィ。もう勇者より強いんじゃないの?」

「う、うん……でも攻撃力が」

「自信を持てミィ。お前は間違いなく強い」


 お兄ちゃんとヨシエちゃんが期待に満ちた目で私を見てきます。

 その期待が重い……


「でもはぐれメタルで……」

「はぐれ……何?」

「あ、えっと、なんでもないです……」



「しかし、ミィさんのクリスタル……えっと、クリスタルキング?」

「レインボーです」

「失礼、その技にピッタリな身体能力ではありませんか」


 と言った後に、長老さんが説明し始めました。



 クリスタルレインボーは、会心の一撃が出れば相手を確実に倒せる、文字通りの必殺技。

 この防御力と素早さを活かし、相手の攻撃を耐えるなり避けるなりしながら、とにかく足を蹴りまくり。

 会心の一撃が出るまで粘りまくれ。

 しつこくしつこく蹴りまくれ。


 さっきの神様の声によると、私の会心率は二パーセントとの事なので、とにかく頑張って。


 ……と。



「そうだね。会心の一撃が二パーセントなら、五十回蹴れば百パーセントだし」


 ヨシエちゃんが頷きました。 

 計算方法間違えてる気がしますが……


「二パーセントを五十回なら成功率は六割半くらいですが……まあ、そういう事です」


 長老さんの説明を聞き、私は考えます。

 確かにその方法で強くなれそうです。

 でもちょっと泥臭すぎるような……脳筋すぎるというか……痛くなくても攻撃に当たるのは嫌っていうか……


 女の子の闘い方として如何なものか。



「長老様……それで、先程の人間達のことなんですが……」 


 自分のモンスターとしての今後に不安を覚えていると、先程勇者さん達の襲撃を伝えに来たエルフさんが、おずおずと手を上げて発言しました。


「また襲ってこないとも限らないと思うんですが……」


 その言葉を聞いて、私は思い出しました。

 そうでした。ゲームシナリオでの勇者さん達は、秘薬を手に入れるために、忍び込んだり暴力をふるったりするのです。


「確かにそうかもしれませんね。ただ、仮にも勇者と名乗っている以上、中立であるこの里で事件を起こすような強硬手段には出ないとも思うのですが……」

「いえ、絶対襲ってきます!」


 長老さんの楽観的な台詞に対し、ゲームシナリオを知っている私は、つい大声で反応してしまいました。

 しまった。皆の視線が私の顔に集中してしまいました。

 そういうのに慣れていない私は、顔が真っ赤になり……


「あ……いや、えっと……多分ですけど……すみません」


「ミィは以前にも勇者達と対峙している。そのミィがそう感じたのなら、可能性は高いだろう」

「勇者はともかく、あの仲間の男は頭ヤバそうだったし。強盗くらいしそうだよね」

 お兄ちゃんとヨシエちゃんも、私に同意見みたいです。


「ふむ。そうですね……ではこうしましょう」



 長老さんの提案により、勇者さん達にはすぐに里から出て行ってもらう事になりました。


 勇者さん達が泊まっている宿に長老さん自ら出向き、交渉する。

 あくまでも中立の立場として、戦闘になる事は双方にデメリットが大きい事を諭せば、勇者さんも手荒な真似はせずに応じるだろう。と。


 もちろん相手が素直に応じるとは思えないので、もしもの時のために、私とお兄ちゃんも交渉に立ち会って欲しい。


「特にミィさんは、先程の大立ち回りがあったばかりなので、かなりの抑止力になるでしょう」


 それに、どの宿に泊まっているか調べる時間も惜しいので、お兄ちゃんの鼻で勇者さんが泊まっている宿も探して欲しい。



 ということで、私とお兄ちゃんと長老さん、そして数人のエルフさん達と一緒に、勇者さんの元へ行く事になりました。



 ヨシエちゃんも一緒に行くと主張しましたが、

「お前を怪我させたくない」

 というお兄ちゃんの一言で渋々納得して、長老さんの部屋で待機するそうです。


「ミィ、無理しないようにね」

「はい。気を付けて行ってきますね」


 ヨシエちゃんは私を激励した後、お兄ちゃんの方を振り向きました。


「クッキーさんも……その……あの、これ、お守り」


 懐から取り出したものを、お兄ちゃんに渡しました。


「ほう、これは……なるほど」


 長老さんがその様子を見て、得心したように頷きました。



 ヨシエちゃんがお兄ちゃんに渡したのは、昨日カフェで頂いた、エルフのお守りでした。



「これは別に安全祈願のお守りとかじゃないけど……一応魔力も籠ってるらしいし、だから……」


 お兄ちゃんは受け取ったお守りを見て、微笑みました。


「ありがとうヨシエ。安心して待っていろ。俺もミィも無事に帰ってくるから」

「……うん」



 私達はヨシエちゃんを残し、部屋を出ました。

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