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不良人狼少女の就職活動②

 年齢制限に引っかかり、わんわん洞窟に就職出来なかったヨシエちゃん。

 規定の十三歳になるまで、あと一年とちょっと待たないといけません。


 とりあえずは、バイトで社会勉強することに決めました。


 という事でやってきた、いつものオーナー室。

 私とヨシエちゃんは、扉側のソファに並んで座っています。

 部屋奥側のソファにはマリアンヌちゃんが座っており、私達と対面している状況です。


「って事でさ。マリアンヌの店でバイトでもしようかな」

「オーッホッホッホッホ!」

「働かせて。雇って」

「オォーッホッホッホッホッホッホーッ!」


 しかしマリアンヌちゃんは高笑いをするばかり。

 雇いたくないのでしょうか……笑って誤魔化しているような?


「……そっか」


 ヨシエちゃんは納得したように頷き、そして私を見て自信満々な顔をしました。


「雇ってくれるってさ」

「どうしてそういう解釈が出来ますの!?」


 マリアンヌちゃんがやっと喋ってくれました。


「え? 雇わないの?」

「まあ端的に言えばそうなりますわね。残念ですが今回はご縁が無かったと言う事で、貴殿の今後ますますのご健勝をお祈りいたしますわ。以上ザッツオール


 マリアンヌちゃんは、にべもなく言いました。

 しかしヨシエちゃんは不満そうな態度。


 しかーし。

 私はピンと来ちゃいましたねコレ。


「ヨシエちゃん、これは圧迫面接ですよ!」


 ここに来る前、二人で一緒に面接対策本を読んでいたのです。

 圧迫面接への対策もバッチリ。


 私の前世世界では、圧迫面接する企業はクソブラックなんて風潮がありました。

 しかしここはモンスター社会。ブラック上等なのです。

 マリアンヌちゃんも立派な経営者になりました……なんて感激しつつ。


「ここで挫けず、如何に自己アピールを続けるか。って部分を見られているんですよ!」

「そ、そうか……そうだね」


 ヨシエちゃんは気を取り直し、話を続けました。


「えっと……そうだ。アタシ、エルフの里で接客のバイトしてさ、中々上手くいって客を増やしたケーレキ……経歴? あるよ」


 エルフの里で、臨時ウェイトレスになった時の話ですね。

 あの時は私とヨシエちゃんの二人で、店の前に立ち、呼び込みをしました。


「そうですよ! あの時はヨシエちゃんが特に男性に大人気で、たくさんお客さんが来て……比べて私は……声も小さくて……ちんちくりんだから……役に立たなくて……うぅ……」


 フォローをするつもりだったのに、私は勝手に落ち込んでしまいました。

 これではいけないと気持ちを切り替えます。


「と、とにかく。そういう事もありました。ヨシエちゃんなら集客効果はバッチリだと思いますよ」

「ええ。その話は存じておりますわ。でも……」


 マリアンヌちゃんは、難しそうな顔をしています。


「なんでも、せっかくヨシエさんの容姿につられてやってきたお客様に向かって、『何見てんだあーんコルァ?』と睨んで追い返していたと」

「……まあ、そんなケースもあったかもね」

「ああ……やってましたね……」


 しばし無言。

 このエピソードは、アピールに使うべきでは無かったようです。


「……じゃあ店員じゃなくて、用心棒に」

「既に警備員がおりますの」


 マリアンヌちゃんは「ふう」とため息をつき立ち上がり、ヨシエちゃんの横に座り直しました。


「これは別に圧迫面接ではありませんの。それに意地悪で言っているのでも、ありませんことよ」


 言い聞かせるように、優しく肩に触れます。


「今のような『とりあえずショップ店員に』なんて浮ついた気持ちで職についたら、必ず後悔する事になりますの。友人として忠告しているのですわ」


 その言葉に、ヨシエちゃんはハッとしたようです。

 マリアンヌちゃんは話を続けます。


「わたくしの親戚に、こんなお方がいますの。お父様に言われるがまま、勧められた大学になんとなく進学、勧められた学業をなんとなく専攻、勧められた企業になんとなく就職して……ある日突然『自分は一体何がやりたいんだ?』とお思いになったらしいですの」

「ふーん……で、その人はそんな事を考えた後、どうしたの?」

「いや別に、どうもしておられませんわ。そのままその企業に勤めて、出世して、結婚して子供も出来て。幸せそうにしてますわ。毎年わたくしにお年玉もくれますの!」


 ……うん?

 

「あ、あのぉマリアンヌちゃん? そういうのって普通、後悔して心を病んじゃったとか……だから、お仕事は自分の意思できちんと決めた方が良いとか……そういう方向になるお話じゃないんですか?」

「あら。そうそう、そうでしたわね。わたくし、それが言いたかったんですの」


 結局言えてませんが……

 それでもヨシエちゃんは、マリアンヌちゃんが本来言いたかった事を察し、考え込みました。


「後悔する……か……」

「それに言ってしまってはなんですが、接客業はヨシエさんと相性最悪だと思いますの。もっと、自分のやりたい事を考えた上で決定すべきですわ」

「そうか、そうだね……一生を決める大切な就職活動なんだし」


 ヨシエちゃんとマリアンヌちゃんはお互いを見て、微笑みました。


 良い話風に纏まって来ました。

 でも……


「一年間のバイトなのだから、別に本当にやりたい事に限らなくても良いんじゃないんですか?」


 と、私はつい思った事を口に出しちゃいました。

 ヨシエちゃんは再びハッとします。

 マリアンヌちゃんは苦い顔をして、小さく「うぐっ……」と唸りました。


「そうだ。そうだよね。ってことでマリアンヌ、やっぱり雇ってよ」

「ダメ! ダメですわ!」


 マリアンヌちゃんは立ち上がり、叫びました。

 そして観念したようにうな垂れます。


「分かりました。本当の事をお教えしますわ。さっきの良い話っぽい言い訳は、適当に考えた嘘。本当は、ヨシエさんを雇えない別の理由がありますの……」

「別の理由?」


 マリアンヌちゃんは再びソファに座り、俯き、ちょっと顔を赤らめながら話し始めました。


「その、もし雇用者と非雇用者、つまり上司と部下の関係になったら、交友でも一線を画すようになると言いますか……遠慮が生まれると言いますか……」

「ふーん……どういう事?」

「つまり! わたくしはヨシエさんと対等な立場でいたいんですの! お……お、お友達、として……うぅ……」


 どうやらヨシエちゃんを雇う事で、今までの関係が崩れてしまうのではないかと恐れていたようです。

 

「マリアンヌ……意外と可愛いトコあんじゃん」


 ヨシエちゃんは、そう言ってマリアンヌちゃんの頭をヨシヨシと撫でました。


「やめてくださいまし!」


 と跳ね除けられちゃいましたけど。



 そして私も、今のお話を聞いて、ちょっとしたショックを受けていました。


 実は、もしここで雇って貰えなかったら、私が四天王権限でヨシエちゃんをバイトとして雇おうかなと思っていたのです。

 でも今の話を聞き、考えが変わりました。


「お友達とお仕事は、分けて考えないとダメなんですね」


 一つ大人になったかも?

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